1話 金髪の少女
西暦2120年。
ある科学者が一つの遺跡の解読に成功したその日。
これが世界変動の幕開けだった。
雲で太陽の陽を浴びることができず、街を覆う風は軽く木を吹き飛ばしていった。
人類の終わり。
誰かが呟いた。
だが、そう思われたのは数日間だけであった。
風は止み、隠れた太陽が顔を出したのだ。
その光景はまさしく神のようだった。
これで世界変動は終わりを告げたーーーーーー
ーーーーかに思われた。
普段の生活の中自分達の体には謎の模様が浮かび上がっていることに気がついたのだったのだ。
個人で模様の形や大きさは違うが、浮かび上がった者は不可解な現象が後を絶たなかったのである。
突然手から火が出たり回りの物を触らず動かせるようになったりと様々ではあったが、確かに普段の生活とはかけ離れたなにかがそこにはあった。
各国のトップはこの事態に早急に対応するため、あらゆる手段を施した結果。
その"能力"を操るための場所を確保し、浮かび上がらなかった者の注意を最大限に守ったのだった。
*
「はい、ここまでで質問ある人」
チョークを置いた音で全員がノートに書く手を止めて前を向いた。
教室はいたって普通の木造であり、教室には数十人が授業を受けている。
あまり年期も入っていないためか少しだけ新築の感覚が感じる。
窓のすぐ外に植えられていた大きな木を眺め、心を落ち着かせる。
質問がなかったためか再び黒板を向いて授業を再開したが、5分もしないうちにチャイムが鳴って昼休みとなった。
男子とは思えない程華やかな包みで包まれた弁当を一人で黙々と食べる。
そう、察しのとうり自分には仲の良い友達が今現在いない。
というか作ってもなにしていいかわからないから作らない。
そんな雰囲気を初日から漂わせていたら人一人すら声を掛けてはこなかった。
高校を出てきてまだ1ヶ月。
就職先も決まっていたにも関わらず"ここ"に集められた。
そう、"ここ"とは国家白英学園のことである。
簡単に説明すると、模様が浮かび上がった大学生以下高校卒業生以上が集まる学校の事である。
一度入れば卒業を認められるまでこの学園から外出することができない。
また、模様の力を許可なく使用した場合は学園の地下にある24時間見張り付きの独房に放り込まれるらしい。
「はぁー」
まあこんな状況下だからため息着きたくなるのは仕方ないかな。
なんて自分に言い聞かせて見てもやはり落ち着かない。
寮生活ではあるが、仲の良い友達が居ない奴にとっては非常に窮屈であるためだ。
もちろん全ての箇所に監視カメラが仕込まれている。
教室だけでも5台。
何かしようともすぐに捕まる。
「おい来たぞ」「今日も格別だな」「そこ道開けろ!」
なにやら廊下が騒がしいようだ。
否。
騒がしくなったのではなく静かになった。
騒がしく聞こえるのは見たもの達がヒソヒソと話しているからであろう。
物音一つ聞こえなくなった時、一際目立った一人の足音が廊下を巡った。
唐揚げを口に頬張り、廊下を横目で眺めた。
歩いて来たのはこの学園トップ成績を誇る”天才”と言われた金髪ロングの少女、レネ・アルベッタ。
その容貌は一言で可憐であり、男子生徒のみならず女子生徒からも絶大な指示を得ている有名人だ。
極度の無口ではあるが。
そこで一人の男子生徒がレネの前に出た。
「…これは面白くなりそうだ」
弁当を食べながらその様子を眺める。
これはあれだ、定番の告白タイムってやつだ。
男子生徒は顔を赤くしてもじもじとしていたが、覚悟が決まったのか顔を上げた。
おーがんばれ同じ男子として応援するぞ。
「あ、あの、そ、その…ぼ、僕はあなたに一目惚れしました…付き合ってくだひゃい!」
「…」
全て言い終わり後は返事を待つのみ。
「…」
返事を待つのみ。
「…」
「ん?あれ、あの…返事をもらいたいんですが」
「…」
ただただじっと黙ったまま動かない彼女に動揺する男子生徒。
回りも同じような反応だ。
というか彼女は固まっているのか。
と思っている者も少なくはないと思うのだが。
静寂に包まれた廊下近辺。
男子生徒はやがて気がついたかのように涙を流し走り去った。
あーこれは俺でも辛いわー。
まだ状況を掴めていない連中もいるなか、人が段々と減っていった。
と、そこでようやくレネが表情一つ変えないまま歩いていったのだった。
そこでようやく皆が理解した。
「「「あの子無口だった」」」
そんな感じで昼休みの半分が終わったのだった。
*
放課後。
あの騒動がまだ学校中を駆け回っている時だった。
一枚の手紙が自分の靴箱に挟まっていた。
「…これは…」
誰も見ていないことを確認し、手紙を展開した。
話があるので3階の左から2番目の教室に来てください。
待っています
レネ·アルベッタ
「……帰ろ」
手紙を閉じて再び靴箱に直すと、靴を履いて外に出た。
自分が外に出ようと思ったのは二つ理由がある。
一つ目、俺は仲の良い友達がいないのでイジメ的なことに巻き込まれる可能性が高いから。
二つ目、まず彼女は無口であり、今日の昼休みを見る限りどうやっても口を聞かないため話があるとかは嘘。
以上である。
ここまで考える時間はいらなかった。
我ながら今日は冴えているようだ。
すっかり夕日の出た一本道を薄気味悪い笑みを浮かべて歩く。
それを見た女子生徒が少しはや歩きで通り過ぎて行った。
うん、順調に死んでるわ俺。
学校から寮までさほど距離は無いため、すぐ前の角を曲がればあとは真っ直ぐ進むだけである。
長くあくびをして角を曲がると何かにぶつかり、勢いよく転倒した。
「痛っ大丈夫で…あ…」
「…」
目の前にいたのは本当は3階の左から3番目の教室にいるはずのレネ·アルベッタであった。
やはりあれは罠だったのか。
小さく安堵したものの、ぶつかっていまったのは悪いと思いつつ手を差し出した。
「すまんな、ほら捕まれよ」
「…」
相変わらず無口だな。
なにも語らなかったがしっかりと手を掴んで立ち上がった。
こうやって見てみると普通の女子と変わらないな。
いや、これいったら信者どもに何されるかわからん。
ここは早くおいたした方がいい。
「んじゃな」
「…」
少し罪悪感は残ったが、これでいい。
仲の良い友達が居ない奴にこいつは不釣り合いだ。
寮に向かう足どりは自然と早かった。
なんだよ俺、悔しいのかよ。
その日、帰って寝た。