本の虫な店長と本を読まない彼女
初めまして。
両親の跡を継ぎ、妹と古書堂を開いています。
毎日色んなお客さんが主人のいない迷子の子達を保護しにやってきます。
常連さんもいてくださって多分問題なく経営できていると思います。
唯一問題があるとすれば、本が好きすぎてついつい読みだしてしまうこと。
一度読みだすと誰かに声をかけてもらうまで気が付きません。
本の整理をしていると、いつの間にかページを開き読み進めてしまっているのです。
これまで何度もしっかりした妹に注意されています・・・。
あ、、唯一ではありませんでした。
人と会話するのがとても苦手で、初めのうちは接客はすべて妹がこなしてくれていました。
妹や、うまく話せなくても待っていてくれた常連さんのお陰で今ではなんとか簡単な接客はできるようになりましたが、会話が苦手なのは変わりません・・・。
「にいちゃーん!今日部活の大会で夜まで帰れるかわかんないから、昼ご飯と夜ご飯こっちに置いとくね!ちゃんと食べなきゃ駄目だからね!」
「う、うん!ありがと。」
噂をすれば妹登場です。いなくなるっぽいですが・・・。
「あ!今日は兄ちゃん一人なんだから本に集中しないでちゃんと接客するんだよー!」
「わかってる!」
今の会話から何となくわかると思いますが、僕と妹の二人暮らしで家事全般は妹が。
店の経営や本の整理などは僕が担当しています。
妹の言う通り、今日は一人なんだから本を開かないようにしないと・・・
「んじゃ、行ってきまーす!」
「はーい、頑張ってね!」
こんな会話をした1時間後、午前10時。開店準備を済ませ、看板をオープンに変えようと外に出ました。
すると、見たことない顔の女性が店の前に立っていました。
この町はすごく小さいので、町の大体の方の顔は把握しているのです。
なるべく会話するのは避けたかったですが、さすがに素通りはダメだと思い声をかけてみました。
「あ、えっと・・・いらっしゃいませっ・・・。」
女性は突然声をかけられて驚いたのか、一瞬びっくりした顔をしていましたがすぐにこう問いかけてきました。
「あなたが店長さんですか?」
なんでそんなことを聞くんだろうと思いながらも、実際僕が店長なので「あっ、はい!」と戸惑いながら言うと、女性は
「・・・見つけた。運命の人。」
と言ったように聞こえました。が、顔も知らないし会ったこともないのでそんなはずはないと思い無言で首を傾げると、
「な、何でもないです!」と言われました。やっぱり僕の聞き間違えですかね?
どうすればいいかわからなくなって、
「えっと・・・寒いですし、外で話すのもあれなのでよかったら店内へどうぞ・・・!」
と大して寒いわけでもないのにそう言うと、女性は楽しそうに笑い「じゃあ、そうさせてもらいます!」と店内へ入っていきました。
女性は背が少し低めで、髪型はポニーテール。顔は少し幼く元気な感じで服はパーカーにショートパンツとラフな格好でした。
女性というよりは少女と言うか、高校生くらいなんですかね・・・わかりません。が、明るくてコミュ力もありそうで僕とは正反対の方だな・・・と一人で考察していました。
あぁ、駄目です。はやく看板をオープンに変えないといけません。
オープンと書かれたほうを表に向け、ようやく店の中に戻って少しすると江戸川乱歩が大好きな常連さんが来てくれました。
「い、いらっしゃいませ・・・」
「はは、相変わらずだなあ。あれ、今日妹は?」
常連さんでも緊張してあまりうまく話せませんが相手の方がうまく会話のボールを投げてくれます。
これのお陰でぎこちなさはありますが、なんとかキャッチボールができるようになってきました。
「部活の大会、だ・・・そう、です・・・」
「そうかそうか、帰ってきたら褒めといてやれよ?中学生が両親無しで暮らすなんて相当大変だもんな。お前も、高校生なのによく頑張ってるよ。」
こうして僕らのことを気にかけてくれたりもします。古本屋、続けてよかったです・・・。
「あ、ありがとう・・・ございます・・・!あっ、江戸川乱歩の新しいの入りました!!」
「おっ!どれどれ~」
そこからここに僕と正反対の女性がいることを完全に忘れて、乱歩が大好きな常連さんと2時間近く夢中になって話し込んでしまいました。
本のことを話すのはやっぱり楽しいし、なぜかつっかえずにスラスラ話せるんです。
常連さんが帰った後、さっきの女性がカウンターにやってきて、
「あなたってあんな風にも話せるんですね!!」
と言ってきました。やっぱり普通の人には理解してもらえないですよね・・・と思いながら「ごめんなさい、うるさかったですよね・・・」と謝りました。
しかし女性は、とんでもない!とでもいうように激しく首を左右に動かすと
「謝らないでください!江戸川乱歩?や本について話しているときのあなた、とてもキラキラしててとても幸せな気分になりました!!」
と、聞き間違えかと思うようなことを言いました。
正直、とても驚いたけど、それ以上に嬉しかったです。こんなこと言われたの初めてだったので・・・。
「そ、そんな・・・あ、ありがとうございます!!」
「いえいえ!私も聞きたいです!!本の話!」
幸せと言ってもらえただけですごく嬉しかったのに、女性は本の話を聞きたいとまで言ってくれました。
しかもとてもわくわくした感じで。本が好きな方なんでしょうか・・・。
「えっと・・・好きな本とか小説家さんって居ますか?」
緊張したけどとても嬉しかったので噛んだりせずすんなり話せました。すると女性は首を横に振って、
「んー、本は正直あんまり読みません。でもあなたが話してるところを見て、話し方がうまくて国語の読み取りが苦手な私でもすごく面白くて、それで本の話聞きたいなあって思ったんですっ!本が好きな人しか駄目、ですか?」
と言ってくれました。僕なんかの話し方がうまいなんて・・・。
「いっ、いえっ!た、楽しんでいただけたならすごく嬉しいです!ぼ、僕でよければ本のお話しさせてもらいたいです!」
本があまり好きではない方にどの作家様のお話をしようか割と真剣に悩んでいると女性が
「あの、このままだと少し話しにくいのでよかったら自己紹介しませんか?」
と提案してくれました。た、助かった・・・?「もちろんです」と答えると、
「私は、大里菜々香って言います!少し前にこの町に引っ越してきました!
高校1年生です!知っている小説は友達の勧めで少しだけ読んだ、そして誰もいなくなったと、オリエント急行殺人事件です!よろしくお願いします!」
なるほど、両方アガサクリスティー先生の名作ですね!
これについて話してみればいいのでしょうか・・・
「えっと・・・僕は本田佑貴って言います。少し前から、両親の跡を継いで・・・古書堂の店長をやらせてもらってます。
一応、高校三年生です・・・。好きな本はいろいろありますが、ミステリーやファンタジーや・・・駄目です。全部好きで面白くて・・・とりあえず、本が好きです!」
僕のぐだぐだな自己紹介が終わると大里さんは「本のことを話す佑貴さん好きです!」とすごく笑顔で言ってくださいました・・・。
大体の方は普段話さないのに本のことだと突然話し出して気味悪いって思われるのに、
本が好きでもない彼女にそんなこと言ってもらえるなんて・・・。
「え・・・あ・・・あ、ありがとうございます・・・っ」
緊張しすぎて消え入りそうな声で言うと、
「そんなに緊張しなくても大丈夫です!そ、それより本のお話聞かせてください!」
と言ってくださいました・・・。そこから僕はアガサクリスティー先生について彼女に語りました。
こんなに話してしまったのに、迷惑そうな顔一つせず、むしろ楽しそうに相槌をうちながら聞いてくれました。
閉店の時間になり、話を終えると大里さんはとても満足したというような顔で
「今日はありがとうございました!とても楽しかったです・・・また来てもいいですか?」
と言ってくれました。
こんなに話したにも関わらずまた来てもいいかとまで言ってもらえてとてもうれしくて
「も、もちろんです!またのご来店、たっ楽しみにしてます!」と思わず言ってしまいました。
彼女はくすっと笑い
「ありがとうございます!そして誰もいなくなった、読んでみます。
こんなにお話し聞かせてもらったのにこれだけしか買わなくてごめんなさい!また感想言いに来ますね!では、おやすみなさい!」
と言い、帰っていきました。彼女が帰ってからも僕は彼女のことばかり考えてしまっていました。
しばらくして妹が帰ってきてもぼーっとしたまんまだったのですごく心配かけてしまいました・・・。
しかし、彼女が何回か来た時に妹は何かに気が付いたようでそれからは僕がぼーっとしていても
ニヤニヤしながら見つめてくるだけになりました。一体何がそんなに面白いのでしょうか・・・。
それから彼女は毎週日曜日にここに来るようになりました。
その日が僕の一週間の楽しみとなっていました。彼女に本のことを語るのが最大の至福の時でした。
段々彼女も本を読むようになっているのがまた嬉しくて・・・。
たまに学校帰りにも顔を出してくれることもあり、それも楽しみにしていました。
あ!もちろん本を読むことも楽しいですよ?日常茶飯事過ぎて忘れるくらいに。
すっかり常連さん扱いになってきたある日、妹と彼女が何やら楽しそうに話しているのが視界に入り込みました。
何を話しているのか気になりましたが、レジから離れるわけにはいかないのでそのままじっと耐えていました。
しばらくすると妹と話し終わったっぽい彼女がこちらにやってきて、
「お店終わった後ちょっといいですか?」
となぜか頬を赤く染めながら尋ねてきました。
もちろん断る理由などないのでオッケーすると嬉しそうに妹のところへ戻っていったっぽいのです。
ほんとに何をしているのでしょう。
気になってたまらなかったのですが、どうにか我慢して閉店まで耐え抜きました。
自分で言うのもなんですが、良く耐え抜いたと思います・・・!
看板の裏表を変え、店の中に戻るとさっきより頬を・・・いや、耳まで真っ赤になった彼女が二枚のチケットを取り出してこう言いました。
「あっ、あのっ、もし良かったら、次の日曜日に一緒に映画に行きませんかっ?も、もちろん古本屋に行ったり本が置いてある場所とかにも・・・!」
僕はこんなこと初めてでびっくりして一瞬固まってしまいましまいましたが、
「ぼ、僕でよければっ・・・ご一緒しゃっ、させていただきたいです!」
と、家来か何かのような盛大に噛んだ返事をしました。いえ、してしまいました。
内心物凄く落ち込んで、穴があったら入りたかったです。はい。
僕が盛大に噛んだにも関わらず、彼女は優しくとても嬉しそうにこう言ってくれました。
「よかったですっ!!日曜日とても楽しみにしています!」
と・・・。彼女、大里菜々香さんに出会えて本当に良かったと思った瞬間でした。
そのあともお互い真っ赤になりながら時間と集合場所を決め別れました。
そこからの一週間は天国でした・・・。
ワクワクしながら仕事して、苦手な接客も普段よりはうまくいって。
前日の土曜日なんて楽しみすぎて全然寝付けませんでした。
落ち着きなくこそこそ動いていると、妹に怒られました。ごめんなさい・・。
そしていよいよ当日。
準備満タンで彼女を待っていると、遠くからとても女性らしくかわいらしい格好をした彼女が歩いてきました。
普段と違う彼女の姿にドキドキして固まっているといつの間にか目の前に彼女が立っていて・・・。
本当に思考停止するかと思いました。
彼女は真っ赤になって、「やっぱ・・・変ですかね・・・」と上目遣い(身長的にそうなっているだけだと思う)で聞いてきました。
もちろん変なわけがないのですが緊張から言葉が出てこず、すごい勢いで首を左右に振ることしか出来ませんでした。
しかしそんな僕に彼女は呆れたり怒ることもなく、更に赤くなって「よ、よかった!」と本当に嬉しそうに言いました。
この時、今までに感じなかった感情が芽生えました。
なんなのかはうまく言えませんが・・・なんというか、こう、自分のものにしたいというか、他の人に触れてほしくないとか・・・。
「い、行きましょうか!」
彼女の声がして我に返り、無事?出発することが出来ました。
映画を見て、お昼ご飯を食べ、もちろん本屋さんにも行きました。
とても楽しい夢のような時間でお互いまだ帰りたくなくって、最後はいい感じになって・・・星を見ながら・・・き、キスをして・・・帰ってきました・・・。
このデート?がきっかけで、お互い名前で呼び合うようになり、会話も敬語は入りつつも殆どため口で話すようにもなりました!
こうして段々距離を縮めていき、僕たちは・・・つ、付き合う・・・ことに・・・なりました・・・。
付き合いだしてからも、店を毎回休みにするわけにはいかないので会えるのは殆どここなんですが、
ここがなかったら彼女にも出会えていなかったからいいでしょう。
それに、本と1日居れるって素晴らしいことですし・・・!
それから何年もずっと気になっていたことがあるんです。
僕らが出会った日、彼女が言っていた「見つけた。運命の人。」っていう言葉。聞き間違いって思うようにしていたんですが、やっぱり気になって・・・。
それで彼女に問うと、色々とうまくいかなくて占い師さんのところへ行くと、
「引っ越した街で古本屋を経営しているのがお主の運命の人じゃ。」と言われたらしく・・・。
彼女自身も本当かどうかは疑っていたけど、気晴らしもかねて引っ越して古本屋を見つけたと言います。
(本当はうち、古書堂なんですけどね。普通の古本も扱ってるしセーフにしておきます。)
なんとも信じがたい話ですが、
それで僕たちは今とても幸せに暮らしているので良しとしましょうか・・・!