地獄行き
(´・ω・`)地獄……かな?
♢
とある男が死んだ。
男は誰にも見送られることなく独り死んでいった。
彼には妻と子がいたが、数年前に離婚してそれっきり。
離婚の原因は彼の金遣いの荒さと酒癖の悪さだが、離婚してからというもの尚更ギャンブルにのめり込み、酒に溺れていった。
最期は借金をしこたま抱えて自殺した。
そんな男は今、荒れた大地を覚束ない足取りでふらふらと歩いていた。
特に歩きたいわけでも、さりとて歩きたくないわけでもない。
だが、先に進まなければならない気がしてなんとなく無意識に歩いていた。
周囲には草木一本生えておらず、灰色の景色が延々と続いているだけである。
「ここが地獄なのだろうか」と男は思う。
彼は自身が地獄行きであろうと悟っていた。
彼は生前、地獄行きにふさわしい人生を歩んできた自信がある。
やがて、彼の視線の先に大きな河が現れた。
「三途の川だろか」彼はそう見当をつける。
しかし、少ししてそれは三途の川というよりは発光する靄だと分かった。
三途の川、もとい靄には多くの人影があり、彼らは皆その靄の中を泳いでいる。
男は躊躇うことなくその靄に足を踏み入れた。
そして彼は引きずられるように、靄の底へと消えていった。
♢
気が付くと男は無機質な黒い空間に立っていた。
少し離れた位置には一対の巨大な椅子と机があり、そこに腰かけた閻魔大王が男を見下ろす。
「あなたが閻魔様?」
男の問いに、閻魔大王は「いかにも」と答えを返す。
「私は地獄行きでしょう?」
男がそう聞くと、閻魔大王はまたしても「いかにも」と返した。
「そうでしょうとも」
男のその一言には一種の諦めがあった。
「分かり切っていたことだ」と男は思う。
そして閻魔大王は男に「地獄行き」を言い渡した。
♢
一つの命が「世界」に転げ落ちた。
その命は自分が何者なのかも、ここがどこなのかも……とんと見当がつかなかった。
見当はつかなかったが、ここが「悲しみ」「痛み」「絶望」に満ちた「世界」だと直感で理解する。
きっとここは地獄だ。
その命は、自身の運命の前途を思い「おぎゃぁぁぁぁあ」と張り裂けんばかりの泣き声を上げた。
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