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裏野ハイツの住人(夏のホラー2016)

私と悪魔さん

作者: 青木森羅
掲載日:2016/10/21


 ガチャリ。


(ああ、来たようですね)


「誰がだ?」


(私達が合わなくてはいけない人ですよ)


「何の為に?」


(それは話してみれば分かります)


 ドアがゆっくりと開けられた。


「おじゃまします」


 ゆっくりと203号室の中に入って来たのはひとりの男性、その動きには敵愾心が見てとれますね。 


「誰だ?」


 私と会話していた男が低い声で尋ました。


「お前、悪魔だな?」


「ほう、私が見えるのか」


「ああ」


「それで? ここには何の用で来たのだ?」


 悪魔、ベルフェゴールはそう聞きます。


「この辺りの様子がおかしかったんでね、それと何かに呼ばれている気がして」


 ベルフェゴールはこちらを睨みながら、


「お前、呼んだんだな?」


(ええ)


「なんでだ?」


(必要なんですって、貴方の為にも)


「ったく」


 私と悪魔の会話は彼には聞こえていないので、


「誰と話しているんだ?」


 彼はそう悪魔に尋ねます。


(仕方ありませんね、確かアレはっと……)


 パラパラと自分のページをめくり目的のページを探します。


「なんだ?」


 彼は私が動いた事により警戒してます。

 私みたいなのを見た事ないの人なら、誰も触れていないのに本が開いたら驚きますよね。


「魔本だよ、コイツは」


(ココですね)


 本棚から降りますか。


(ヨッコイセ、っと)


 ポンっという音と共に、私の体は本の形から人の形へ変化しました。


「ふぅ」


 まったく、これをやると体に埃が付くんで嫌なんですけどね。

 服の埃を払うと彼が驚いた顔をしている事に気付きました。


「どうも、初めまして。魔法の本、魔本のリブロと申します」


 彼はまだ驚いているようで、固まっています。


「あら、私の様な物を見るのは初めてでしたか? 藤田京士郎ふじたきょうしろう様?」


 名を呼ばれたのを不審に思われたらしく彼は、再度臨戦態勢をとります。


「まあまあ、そんな風に構えなくてもいいじゃないですか」


「なんで俺の名前を知っているんだ?」


「それは……私がお呼びしたからで御座います」


 嘘を言うべきか考えたのですが、彼の様な実直な青年には本当の事を言うべきだと思ったのですが、逆効果だったのか彼は私の方に向かってきます。

 

「待て、人間よ」


 私を狙い彼が打ち出した右拳を、ベルフェゴールは大きな掌で受け止めました。

 まったく、そんな事しなくても私だって躱せたんですけどね。


 ベルフェゴールの手と彼の手が接触した時、ベルフェゴールの手から小さな光が生まれました。


「お前、面白い力を持っているな。退魔か」


「俺の力が効かないなんて、流石に名の知れた悪魔だな、ベルフェゴール」


「ほう、俺の事を知っているのか、利口だな。だが、人に褒められたところで嬉しくはないがな」


 場の空気が一気にバトルモードに移行してます、一触即発とはこんな状況ですね。

 まったくこの方達は、私を無視して熱くならないで下さいよ。


「何も喧嘩させるために来て頂いたのではないのですよ。御二方、少し冷静になって下さい」


 彼等はバチバチと音を立てていた拳と拳を離しました。


「ちっ、仕方ねぇな」


 ベルフェゴールは悪態をつきながらも言う事を聞いてくれます。


「へぇ、悪魔なのに素直なんだな」


 彼もようやく臨戦態勢を解いてくれました。

 これで話ができますね。


「仕方がないですよ、彼はある契約で私に縛られてますから」


 人間にんげんさんは驚いたみたいです。


「魔本が悪魔を縛る?」


 普通は無いでしょうね、魔本、魔法の本は悪魔や魔物の力を借りて普通には起りえない事を起こすための物。

 どちらかと言えば悪魔に仕える側ですので。


「ええ、細かい内容は言えないですけど、彼は私を守らないといけないんです、そういう契約なんです」


 まぁ、彼にも見返りはあるんですけどね。


「それで? コイツをここに呼んだ理由ってのはなんなんだ?」


 まったく、悪魔はせっかちでいけませんね。


「彼に私達と、この土地の事を知っていてもらいたかったからです」


「どういう?」


 かれの疑問は当然です。


「貴方も感じられていたようですが、この土地は特殊なのです」


「それか、なんて言えばいいんだろう。ここは悪い気が溜まっている様な印象もあるんだが、それと相反するように神聖な場所の様に澄んでもいる。そんな印象を受けたな」


「いい感覚ですね。それは概ね合ってます。それを説明するには、私とこの場所の関係をお教えしないといけないですね」


 その為にココ、裏野ハイツに来てもらったのだから。


「あれは今より百年以上も昔の事です。その時の私はまだ単なる書物でしかありませんでした」


 その時の私にどんな事が書かれていたのかは今の私には思い出せません、誰が書いたのかも。

 ただ今となっては些末な事です。


「その当時のこの場所は怨念や邪念、それに悪霊の巣窟だった事もありこの地に住んだ人は必ず不幸が起こりました。飢餓や貧困、それに流行り病や、しまいには一家が惨殺された強盗事件や放火殺人まで」


 あの時の私には自我はありませんでした。

 けれどあの時の悲惨さを思い出すと寒気がします。


「そんな土地にあるお医者様がやってきました。彼は医者として、この土地で起こっている疫病を直そうと孤軍奮闘していました」


 そう彼は懸命でした。

 病のある者は性別や貧富の差、そのようなもので差別する事は無くただ無心に人の為だけを思って治療していました。


「しかし、そんな彼にも穢れた土地は容赦をしませんでした、彼は倒れたのです。彼はそれでも自分の病を直すための研究をしつつも、訪ねる病人を拒む事はしませんでした」


 ベルフェゴールは退屈そうでしたが、気にせず続けます。


「しかし彼の病は治る事は無く、そのまま亡くなりました。原因は衰弱死でした」


 一瞬の沈黙が部屋に訪れました。

 この話をするのは、私も辛いんですよ、だけど話さない訳にはいかないので。


「死の間際にいる彼を見た私には、ある思いが芽生え始めていました」


 単なる本だったはずなのに。


「それは、彼を助けたい。ただそれだけでした」


 今思うと、彼に恋をしていたのかも知れませんね。

 

「そう願った瞬間、私は変わっていました。ただの本から魔法の力が宿った本へと」


 普通の土地だったら力を得る事はなかったでしょう、命が宿るとしても魔本ではなく付喪神だっだと思います。

 付喪神も意志は有るのですが、魔力は持たないので今の私ほど自由ではなかったと思います。


「しかし、私が魔本になった時には彼はもう亡くなった後でした」


 もう少し早かったら、なんて考えは私が甘いからですかね。


「ただ魔本になった私には彼が見えていました、霊になった彼が。彼も私の事を分かっていました。そんな彼が私にこう言ったのです」


『死んでようやく分かったよ、ここは呪われているんだね』


 私はその問いに「はい」と、短く答えました。

 そうかと答えた彼の顔は、寂しそうでもありましたが納得した様な表情でもありました。


『初めてあった君にこんな事を頼むだなんてどうかしていると自分でも思う、ただそうしないといけないと思っている事があるんだが聞いてくれるかい?』


 ええ、と私は答えます。


『この土地を浄化してくれないか? これから先、ここに住む人が不幸にならない様に』


 私に出来るでしょうか?


『大丈夫、君なら出来るさ』


 そう言って彼は消えました。

 

「それから私は私の中にある知識を使い、この地の浄化の方法を探し当てました。それは混沌の地に混沌を混ぜる事。そうして一度中和するとその地は清浄になる。そうありました」


「それって」


 彼の疑問に、


「ああ、俺だ」


 悪魔が答えます。


「そう悪魔をこの地に置けばいい。しかし、悪魔なんてそうそう来るはずがないですし、魔本とは言え成りたての私は今の様に歩いて行く事が出来ませんでした。けど、彼はこの場所にやって来たのです」


 彼曰く、この土地はいい贄が居そうだったそうです。

 当然ですよ、この地には肉体的にも精神的にも弱った人ばかりでしたから。


「そんな彼と、この地に居て私が消えるまで私を護るよう契約を交わしました」


 見返りは、この地の住人の精気を日常生活に支障のない程度だけ吸ってもいいと。

 この話は人の彼には出来ませんね、正義感が強そうですし。


「そんなこんなで、今この地は浄化の最中なのです」

 

 そう、まだ途中。

 その間色々な事がありましたね、私は変身できるようになりましたし。

 初めて出歩いた時にあった女性が、ここの201号室に住むなんてのは思ってもいませんでしたが。

 無言で聞いていた彼は、


「それで? それをなんで聞いてほしかったんだ?」


「単純に知って欲しかったんですよ」


 それだけではないんですけどね、何かあった時に人間のコネは必要ですし。


「それとあまりここに干渉しない様にお願いしたくて、ベルフェゴールがここから居なくなるとここの住人に不幸が起こる可能性があるので。それにタダでとは言いません、何かあったら私の知識を貸しますよ」


 優しい彼ならこの事を聞いて断れないだろうと分かっていた。

 それと知識は彼にというよりも、彼の知り合いにといった方が正しいですが。


「どうでしょうか?」


 ベルフェゴールは欠伸あくびをしていた。

 全く、一番は貴方の為なんですよ、貴方が消滅したら困るんですから。


「ああ、分かった」


 彼はそう答えてくれた。

 優しいですね、あのお医者様のように。


「そうですか、ありがとうございます」


 私達に背を向けた彼は、


「そろそろ行くよ」

 

 と短く言い、

 

「それでは、また」


 彼が去り、閉じた扉に私はそう呟きました。

 そんな私に、


「なぁ、聞いていいか?」


 ベルフェゴールが尋ねてきました。


「なんですか?」


「今、あいつと会う必要性あったのか?」


「ええ」


「そうか」


 ベルフェゴールは、たいして興味も無さそうに言った


「もうひとついいか?」


「はい」


「契約の事なんだが、お前はいつ消えるんだ?」


 彼は真剣な顔で聞いてきました。


「分かっているんじゃないですか?」


 彼と私は契約を結んでいる。

 それでお互いの事が言わなくても分かる様になっているのに。


「お前の口から聞きたい」


 まるで人間の様な事を言いますね、人の世との繋がりが長くなったからですかね。


「仕方ないですね」


 私は溜め息をつき、


「あと、数百年位ですかね」


「やっぱりか」


「そうですよ、これからもよろしくお願いしますよ」


 当分の間、私とベルフェゴール、裏野ハイツは続くだろう。

 

「仕方ないな」


 貴方も優しいですね、悪魔さん。



 裏野ハイツの住人(夏のホラー2016)シリーズ、完結編です!

 今回の話は今までの総まとめという位置づけの元、書いています。


 私の書いている連載作品の「魑魅魍魎打」、その主人公である藤田京士郎をゲストとして出しました。

 元々は幽霊が出るならそれを除霊する話も書くかなと思ったので彼を出すかと決めたのですが、裏野ハイツの建った時は書いたものの、土地は書いてなかったなと思い今回、こういう話が出来ました。

 作中で魔本と白鳥さんが会ったと書いていますがあれは、「白鳥家」の途中に出ていた行商人の事です。

 他にも、「金無し男の喜劇とその価値」にて人形を売った露天商でもあります。


 今回の話はシリーズ完結という事で裏野ハイツを失くすかとも思ったのですが、逆にずっとどこかに残っているいわくつきの物件(土地)って方がいいかと思い、こういう幕引きになりました。


 今までこのシリーズを読んで頂きありがとうございました。

 読んで頂ける皆様のおかげで、モチベーションを保ったまま、無事完結させることが出来ました。

 ありがとうございました!


 追記

 感想、評価等々お待ちしております。

 それと良ければ、今回出てきた藤田京士郎が主役の作品「魑魅魍魎打」の方も読んでみて下さい。

 

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