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明かされる、それは真実か、事実か

 茫然としていた。ただそれだけだ。何が起こったのか理解ができなかった。どうやって知ったのかわからないけれど、気が付いたらこの立ち入り禁止の旧文化棟には大人たちがいっぱい集まっていた。


 那珂川さんが言う。


「帰りましょう。ここは寒いから」


 私は那珂川さんに寄り掛かるように歩いて行った。いつのまにかシャベルがなくなっている。いつ私はシャベルを手放したのだろう。いや、懐中電灯すら持っていない。何もわからない。


 ただ真っ暗な中、那珂川さんの懐中電灯のあかりが足元だけを照らす。誰も何も語らない。そういえば、ミライがいない。


「ミライは?」


 私は周りを見た。トモが言う。


「大丈夫だよ。とりあえず、今日は救護室に行っている。とりあえずそこで様子を見るらしい。この島の唯一の問題は医療だね。


 救護室はあるけれど、病院がない。だから私たちは気を付けないといけないんだ。大きな怪我をしてしまったら手当までに時間がかかってしまう。大丈夫。ミライはさっき意識も戻ったし念のための検査だよ。救護室といってもレントゲンくらいはあるからね」


 そう言ってくれたトモの表情は柔らかかった。


「そっか。よかった」


 私はそのセリフの後、なぜか白い地面が近づいてくるのだけがわかった。どこからか声がした。けれど、私にはどうでもいいことだと思った。



 気が付くと木目の板が目の前にあった。その時私は長い、そうとめどなく長い夢を見ていたのだと思った。


 体を横にしてベッドについている白いカーテンをあける。けれど、そこにはミライはいない。暗い部屋だ。私はゆっくりと体を動かしてベッドから出る。時計を見ると6時半だ。


 私は昨日一体いつ、どうやってベッドに入ったのだろう。そう思っていたらどこからか声がした。


「おはよう。君は惰眠をむさぼっている間に色んなことが起きたみたいだね。さあ、僕に昨日の夜何があったのか話し給え」


 いつの間にか目の前にはあの黒いおかっぱの探偵がいた。制服を着ている。私は自分の服装を見るとジャージだった。


 いつの間に着替えたのかわからない。目の前のテーブルの下に置いていた鞄の位置が変わっている。そこから探して取り出したみたいだ。誰が?それにズボンがちゃんと履けていない。左右ずれているのだ。まるで無理やり眠っている人間に服を着せたかのようだ。


「その服かい?そりゃそうだろう。意識を失っている人間を着替えさせるのは結構大変なのだからね。まあ、僕がしたことじゃないからどうでもいいことだがね。


 それにそれはは些末なことさ。さあ、昨日君は一体何を見たのかい?いや、何を見なかったのかい?こう聞いた方が正しいのかもしれないみたいだけれどね」


 私は昨日あったことが夢でないことがわかった。夢であって欲しかった。あんな首の曲がった人間を見たくなかった。思い出したくない。あのうつろな目を折れ曲がった腕を。耳をふさぐ。しゃがみこんで視界を防ぐ。床だけを見つめる。だが、不思議と探偵の声が聞こえる。


「逃避かい?でも、君はこれから大勢の人に昨日のことを聞かれるだろう。

 大人とはそういう無駄な事が大好きな生き物なのさ。逃げ切れる自信があるのなら逃げればいい。だが、逃げた所で起きた事象が何一つ変わることはないのさ。君は望むまいともう当事者だ」


 私は震えていた。だが、探偵はこう言う。


「まあ、君が見たということはおおよそ検討はつく。ただ、誰がそれを行ったか、その犯人にたどり着くには君が見たことを話す必要がある。


 これは義務だよ。


 その場に居た人間に課せられるね。君は何の負い目もなく生きていけるなんて思っていないだろう。だったら話すがいい。話すことで君はつらくなるかもしれないが、そんなものはまやかしだ。だって、君はここにいる。彼女と違ってね」


 私は顔を上げた。探偵は笑っている。何がおかしいの。


「何がおかしいの」


 声に出ていた。


「何を知っているの」


 声が止まらない。探偵が言う。


「僕は何もしらないよ。知っているのは君さ。その場にいたのも君だ。さあ、語るがいい。真実にたどり着くにはそれしか方法はないのだからね。僕を退屈にしないでくれ給え」


 探偵はそう言ってくる。私はゆっくり話した。ミライが見つかったこと、佐久間るいが落ちて死んでいたことを。探偵が言う。


「あの建物は4階建てさ。さあ、不思議に思うだろう。佐久間るいはどこから落ちたのかな。あの場所からどう落ちたらその場所に落下するのだろうね。


 広場の真ん中。目立つ場所だ。だが、窓から身を乗り出したのなら窓の下にしか落ちられないんだよ。まあ、今回の件は僕が受けている依頼とはどうも性質が違うようだ。


 僕はこれでも忙しい身なんだよ。後は自分で考え給え。では、今日一日を君は無駄に頑張って勝手に乗り切ってくるがいいだろう」


 そう言って探偵は消えた。私はその気配が消えてからゆっくり立ち上がった。まるで金縛りにでも合っていたかのように動けなかったのだ。



 体を少しだけ動かしてから着替えた。なぜか足に青あざが出来ていた。打ち身をしているのだ。全然覚えていない。昨日夜に何があったのだろう。私は部屋を出て下に降りて行った。


 下におりる。食堂に向かう。ブッフェスタイルだ。だが、今日はパンとスクランブルエッグ、ボイルしたソーセージとベーコンがある。後はサラダだ。和食の献立がない。前にミライが言っていた『あたり』の日の意味がわかった。


「おはよう」


 私は声がした方を見た。そこには那珂川さんが座っていた。凛としたその姿は私と違って疲れていないように見えた。


「おはようございます」


 私はあまり食欲がなかったけれど、少しずつ取り分けてから那珂川さんが座っているテーブルの前に座った。


「昨日はすみませんでした。というか私どうやって部屋に戻ったか覚えていなくて」


 多分、那珂川さんが助けてくれたのだと思った。那珂川さんが言う。


「そうね。大変だったわ。倒れたかと思ったら勝手に歩き出すのだから」


 歩き出した?私にはそんな記憶はない。那珂川さんが言う。


「何か言っていたけれど全然聞き取れなかったわ。でも、そうね。『ありえない』は何回か言っていたみたい。私たちの呼び掛けには一切答えてくれなかったけれど、あれは意識を失っていたのね」


 私は自分がわからなくなった。記憶のない行動。青あざ。私は何をしたのだろう。


「私、変なことしませんでした?その、誰かを殴るとか。迷惑かけませんでしたか?」


「かけたな」


 後ろから声がした。振り向くとそこに居たのは一樹だ。


「おはよう。まあ、一樹になら迷惑かけてもいいような気がする」


「なんだと。でも、大変だったのは那珂川さんじゃないかな。部屋までついて行ったみたいだしな」


「まさか、女子側に来たの?」


 私は不安になって身構えた。だって、起きたらズボンはちゃんと履けていなかった。パンツが丸見えだ。あんなかっこを見られたのはいやだ。那珂川さんが言う。


「大丈夫よ。女子寮側には入れてないから。でも、今日はこれからが大変でしょうね。ここは警察組織がない変わりに理事会と生徒会がしっかりしているから」


「生徒会は出てこないだろうね」


 私の横にトモが座ってそう言った。トモが続ける。


「今回は人が死んでいる。だから理事会のみだ。まあ、それでもイヤだけれどね」


 トモはそう言いながらサラダを食べる。トモの食べているものを見るとサラダとフルーツしかない。そんなので大丈夫なのだろうか。


「食欲ないの?」


「うん。ちょっとね」


 私の質問にトモはそう答えてくれた。残りの二人はがっつり食べている。一樹が言う。


「食べないと今日を乗り越えられないぞ。今日は大変な日になるだろうから」


 そう言ったら食堂の壁にかかっているモニターの電源が入った。そこに写っていたのはローブをかぶって白い仮面をつけている人、そう理事長だ。理事長が言う。


「昨日、大変残念な事故がありました。けれど、安心してください。この学園は平和です。皆さんの安全は保証されています。さて、今日ですが授業は中止します。皆さん今日は寮から出ないようにしてください。それと、今から呼ぶ4名はこれから理事長室でお茶会を開催しますのですぐに来るように」


 そう言って予想通り私たち4人とミライの名前が告げられた。



 理事長室がどこか私にはわからない。だから3人について行く。流石に今日迷子になると洒落にならないことはわかる。


「あの理事長に会うのか。イヤだね」


 那珂川さんが言う。


「俺も苦手なんだ。あの人つかみどころがない」


 一樹が言う。


「なんか変なプレッシャーあるものね。何度会っても慣れないよ」


 トモも言う。画面越しにしか見たことがないからわからない。確かに変な格好をしている人だと思う。ローブをかぶり、白い仮面をつけている。想像してみたけれど少し変な感じだ。そんな人が真剣に話しかけてくる。おかしい。私はそう思っていた。


「でも、なんで理事長って顔を隠しているの?変じゃない?いつも画面越しだし」


 私は何気なくそう言った。那珂川さんが言う。


「宗像さんは理事長と面談したでしょう。この学園に入る時は理事長と面談は絶対だし」


 一樹が言う。


「そうそう。あの時の面談、特に感情のこもっていない質問の仕方がいまでもトラウマだ。俺はあのイメージが強いな」


 トモが言う。


「私の場合はピアノについて聞かれたね。この学園に入るとコンクールには出られなくなる。それでもいいのかと。僕はもともとコンクールに興味はないからね。どうせ僕はスペアなのだから。目立ってはダメ。そう言ったのだけれどあの無言のプレッシャーが痛かった」


 トモの独白は引っかかるものがあった。スペアって何?トモはどうしてこの学園にいるのだろう。私はトモのピアノを聞いたことがない。でも、授業も受けず毎日ピアノを弾いている。それなのに誰にも聞かせることのないピアノって変だ。聞いてみたい。


「私、トモのピアノ聞いてみたい」


 気が付いたら声に出ていた。トモが言う。


「いいよ。落ち着いたら一緒に音楽室に行こう。一緒だと迷子にならずにすむしね。それで、宗像さんは理事長には会ったことないでいいのかな?」


 トモの優しい声が気持ちいい。どうしてこの人はいつもやさしいのだろう。おだやかな風が吹いているみたいだ。


「はい、私は画面越しにしか会ったことありません。この学園に来た時と、今です」


 私のそのセリフに3人はびっくりしていた。だが、何も言わなかった。


 沈黙のまま私たちは寮を出て歩き、校舎はとはまた別の建物に向かって歩き出した。


 外にもモニターがある。不思議だ。黒く光るその画面は色を失った私を映し出していた。黒と白。そして、遠くに見える青い扉。私はどこまで遠くに来てしまったのだろうと思った。


 しばらく歩くと白以外の建造物が見えてきた。黒い鉄柵に囲まれた場所。奥に建物がある。モニター以外で見た黒だ。とがった鉄柵に沿って歩くと黒い門が出てきた。青じゃない。どうして黒いのだろう。統一感がない。そう思った。


 門の前に行くと自動的に門が開いた。門の上にテレビカメラがある。これで確認したのだろう。門は分厚かった。門を通り抜けるとまた大きな音を立てて門がしまった。どうしてここまでの門が必要なのだろう。わからない。


 門の前には古い建物が見える。近づくとそれはもともとレンガで作られた建物なのがわかる。無理やり白色を塗ったのがわかる。どうしてそこまで白にこだわるのだろう。そして、扉も青く塗ったのがわかる。


 所々剥げている。この扉も重そうだ。押して入る。そこはロビーと呼んだ方がいいのだろうか。少し開けているが目の前はガラス張りだ。真ん中に雪が積もっているのがわかる。そのガラス張りの手前にソファーがある。そのソファーにミライが座っていた。ミライが私たちを見て立ち上がり駆け寄ってきた。


「昨日は助けてくれてありがとう」


 そう言って私の手を握ってくる。私はただついて行っただけ。


「ううん、大丈夫だった?」


「うん、多分大丈夫」


 ミライは少し元気がないのがわかった。その時左右から人が出てきた。メイドのかっこをしている。


「理事長がお待ちです。どうぞ」


 そう言って左右の廊下に消えていく。


「ねえ、どっちについていけばいいの?」


 私がそう言ったらミライが不思議な顔をしてこう言ってきた。


「かたっち。何言っているの。入学前の面談でここに生徒は絶対来させられるでしょう。どっちを選んでも一緒だったじゃない。まあ、片方しか選んでいなかったら知らないかもだけれど、でも目の前のガラスでわかるでしょ。私たちはあの奥。あそこに連れて行かれるの。もう、緊張するわ」


 そう言って皆歩き出す。とりあえず右側を選んだみたいなのでそのまま歩く。確かに真ん中に無意味な空間がある。ガラスに囲まれたその場所は何の目的であるのかもわからない。反対側の壁には写真が飾られている。


 見るからに古い写真だ。建物の写真。この学園の写真なのだろう。古ぼけた写真。そして、見知らぬ人たちの写真。


「中へどうぞ」


 そう言われて開けられた扉の中に入る。赤い絨毯。白い壁。高そうなテーブルに青いテーブルクロス、そして銀の燭台。物は何も言わないと思っていたけれど、ここにあるものは物を言っているみたいだ。それくらいのプレッシャーを感じる。


「私はここに座ろうかな」


 そう言って丸いテーブルの比較的奥の方にトモが座った。その横にミライ。一つ空いて一樹に那珂川さんが座る。私は入り口から近い席、開いている場所に座る。目の前が空席だ。そこに理事長が座るのだろう。あのフードは取るのかな。まだ理事長が来るまではそう思っていられた。


 だが、違った。奥から出てきたら空気がぴりっと変わった。背筋が伸びる。私だけじゃない。ほかのみんなも、あの一樹でさえぴりっとしている。ローブを着て、白い仮面を書けている。画面で見たのと同じだ。だが、空気が違う。理事長が言う。


「やあ、皆さん。お久しぶりです。あ、そうですね。宗像さん」


 名前を呼ばれた時に心臓を握られたような緊張が走った。


「はい」


 思わず声が裏返る。理事長が言う。


「今のあなたとは初めて会いますよね。その理由をここにいる人たちには話していますか?」


 顔は隠れている。だが口元だけは出ているのだ。その口元が笑っているように見える。私は首を横に振る。理事長が言う。


「私から今伝えたほうがいいですか?それとも自分の口で説明しますか?」


 優しい口調だが、プレッシャーしか感じない。怖いのだ。そして選択を間違えると何かが終わるような気がする。


「わ、私の口から説明いたします」


「よろしい。では、まず説明してください。自分の状況について」


 私は深呼吸をして話した。


「私は記憶を失っています。自分に関することのすべてを。ただ、気が付いた時私の手には1冊のノートがあった。そこには平仮名で『いお』とだけ書かれていた。苗字はその時の主治医のものです」


 私がそう言ってすぐこう一樹が言った。


「伊央星羅はノートに名前を書く時いつも平仮名だった」


 一樹の目線が私には怖く映った。世界が周る。薄れゆく中で私は懐かしい匂いを嗅いだ。




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