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立ち入り禁止、立ち入る場所

 不意に肩をたたかれた。


「きゃあ」


 声が出た。振り返るとびっくりした顔をした那珂川さんがそこにいた。


「ごめんなさい。そこまでびっくりすると思っていなかったから。話し込んでいたみたいだから様子を見ていたの」


 そう言った那珂川さんの表情がちょっとだけ面白くて笑ってしまった。だって、いつも凛としているのに、本当に申し訳なさそうにしているのだ。確かに薄暗い食堂前で声をかけられたのだ。びっくりするかもしれないと思ったのだろう。


「いえいえ、気にしないでください。ずっと待っていてくれたのですか?」


 なんだかそう思うと申し訳ないと思ってしまった。那珂川さんが言う。


「いいえ、ちょっと電話をしていたの。あそこで」


 この廊下をまっすぐ行ったところに電話がある。そう、少し前だけれど私のその電話をつかった。那珂川さんが続けて話す。


「理事長に佐久間るいさんのことを報告したの。時間も時間だから大人の人に探してもらうわ」


 そう言った那珂川さんの表情は冴えなかった。その理由はわからない。


「行きましょう」


 そう、私には佐久間るいさんよりミライのことの方が気になる。それに一樹から言われたセリフが頭の中にこだまする。


「ミライに気をつけろ」


 私はその言葉に否定も肯定もしなかった。まだ、私は誰を信じていいのかわからないのだ。それに私は私でさえも信用できない。仕方がないのだ。


 階段をあがる。どこからか話し声が聞こえる。でも、内容まではわからない。そして、視線も感じる。誰かに監視されている。そう思ってしまうのだ。


 扉の前に立つ。私の部屋。私とミライの部屋。まだ実感がわかない。ノックをしてからドアノブに手をかける。冷たい空気が体をつつむ。部屋は暗い。電気をつけるが誰もいなかった。窓が少しだけ開いている。


 おかしい。窓を開けた記憶はない。他に変わったところがないか確認する。ベッドの布団はくちゃくちゃだ。でも、きれいにした記憶はない。朝は急いでいたのだ。床に何かが散らばっていることもない。そもそも、私はそこまで私物がない。私とミライのテーブルの間にあるモニターもある。どの部屋とも同じような感じだ。真っ黒のその画面が私と那珂川さんを映している。いや、違いがあった。そう思って自分のテーブルの方に行く。机の上に紙がある。そこにはこう書かれてあった。


「ミライは預かっている。返してほしければあの日記と交換だ」


 那珂川さんも横にいる。その手紙を覗き込んでいる。日記はもう私の手にはない。だが、それを信じていない人がいるのだ。私は那珂川さんの顔を見て「どうしよう」と言った。どうしようもない。


 だが、その手紙を裏返すと地図が書かれてあった。


「ここは?」


 那珂川さんが答える。


「そこは、今は使われていない4階建ての専門教室よ。立ち入り禁止の場所。でも、その場所は・・・」


 どうしてか那珂川さんは私と視線を合わせてくれない。


「おやおや、あの場所の説明を那珂川さんはしないのかい?」


 声がした。部屋の中から。そう、いつの間にか探偵のあの子、おかっぱで色の白い女の子がいるのだ。いつの間に。


「いつからそこにいたのよ」


 那珂川さんが言う。扉は窓からの風のためか閉まっている。私は寒さを感じたので窓を閉めた。探偵が言う。


「僕はどこにでもいるし、どこにもいないんだよ。だからいつからじゃない。いつでも君たちのそばにいるし、いつでも君たちのそばにいない。僕というのはそういう存在さ。そんな事はどうだっていい事だ。


 どうして那珂川さんはあの棟のこと、旧文化棟とでも言えばいいのかな、あの場所のことをそこにいる宗像って名乗っている子に教えてあげないのか僕にその理由を教えてくれ給え」


 そう言って探偵は笑っている。笑っているのにまるで表情が無いように見える。ここまで怖い笑顔を私は見たことがない。


「おやおや、黙っているのかい?それとも僕の方から話した方がいいのなら話すけれど。それに僕だってクライアントから依頼を受けているから説明をしたって問題ないだろうしね。さあ、僕の口から語られるのがいいか自らの口で語るのがいいか、君が決め給え」


 その口調は丁寧だが心がこもっていない。那珂川さんが言う。


「わかったわ。私の口から話す。でも、待ってほしい。あの事件、伊央星羅の事件は私だけの問題じゃない。ちゃんと話すのなら一樹にもトモにも確認してからにしたい」


「まあ、それで納得すか納得しないかを決めるのは僕じゃない。それで君はいいのかい?」


 探偵にそう言われた。そもそも私に選択権があると思っていなかった。


「ええ、だって、話すか話さないかそれを決めるのは話す人であって聞く人じゃないですから」


 私は疑問をそのまま伝えた。さらに続ける。


「それに、この時間。早く行かないとミライが危ない。ねえ、行きましょう」


 だが、那珂川さんは動かない。どうして?探偵が言う。


「君はあの噂をまさか信じているなんて言わないだろうね。あんな非科学的な噂を。そう、夜になると魔物がでるという噂がねこの学園にはあるんだよ。まあ、この学園は歴史があるし、古いからね。色んな噂や伝説があるんだよ。一つには12月に転校してくる転校生は不吉を連れてくると言うのもあるくらいだ。


 そんなの迷信だけれどね。でもね、不思議なことにそういう噂ってリアルじゃないと広まらないのだよ。こんな何もない所だからみんな噂好きなんだ。でも、噂にははじまりがないといけない。誰かが語り部にならないと噂は発生しないのさ。


 夜に出る魔物は人をさらっていく。そう、この学園は人が定期的にいなくなる。それは夜に行われる。夜外に出たものは忽然と消えることがある。荷物もそのままに。誰にも何も言わずに。何度もそれを見てきている。


 だから噂になった。噂には出所があるのだよ。まあ、僕にとっては等しくどうでもいいことだがね。それとも僕の依頼主を守るために君はそこに佇んでいるのかね?まあ、探偵は依頼主に先に死なれると非常に困るからその思いはありがたいけれどね。


 でも、何も言わないと誰もわからないのだよ。その行動も、その理由も。さあ、君はどうしたいのかね。きちんとその口で言い給え」


 そう言われて那珂川さんはこう言った。


「怖いわ。私は怖い。いきなり消えたくない。でも、誰かを犠牲にしてまで助かりたくもない。でも、一人ではいかない。行くのなら声をかけたい。一樹とトモに。ねえ、宗像さん。1階で待っていてくれない?二人を読んでくるから。懐中電灯を持って、防寒もちゃんとして。私は逃げない。こんなヤツに負けない。ねえ、探偵さんも一緒に来るよね?」


 那珂川さんの目が怖かった。睨みつけている。探偵が言う。


「どうして僕がいかないといけないんだい。僕は傍観者さ。君たちが行って助けたと思ってくればいいだけのことさ。まあ、勝手にし給え。では、僕は消えるとするかな。僕の用事はもう済んだことだしね」


 そう言って探偵はいなくなった。那珂川さんが言う。


「私も二人を呼んでくるから。それと、その手紙を失くさないで持ってきてね」


 那珂川さんも部屋から出て行った。一人になるとこの部屋がものすごく静かなことがわかる。無音。私は耐え切れなくなって部屋を出て下におりていった。


 降りている途中で1階の暖房がきいているのがわかる。あたたかい空気がやさしく体にまとわりついてくる。どうして冷たい空気は早く、まるで体を切り刻むようにやってくるのだろう。


1階のロビーに誰かが座っている。黒い髪。そして来ているのはジャージにジャンパーを着ている男性だ。そう、私の苦手な一樹だ。


「なんでここにいるのよ?」


 私はつい口から言葉が出ていた。一樹が言う。


「そりゃ、ミライを探すためだろう。というか、ミライをさらったやつを捕まえるが正解だろうな。そいつは絶対に伊央星羅のことを知っている」


 そう言って一樹は立ち上がった。手に金属バットを持っている。手は皮手袋までしている。


「一樹って野球好きなの?」


「いや、たまたまあったから持ってきた。物置にあったんだ。お前も何か用意した方がいいんじゃないか?」


 私はまだ楽観視していただけなのかもしれない。でも、よく考えたら安全なんて保障はない。自分の身は自分で守らないといけないのだ。


「物置ってどこにあるの?」


「ああ、食堂の隣にある部屋だ。鍵は開けているから何か取ってくればいい」


 そう言われて私は歩き出した。手に懐中電灯しかない。扉を開けるとシャベルをもった那珂川さんが居た。


「あら、宗像さんも何か探しに来たの?シャベルならいっぱいあるわよ。雪かきに必要だから」


 私はそこまで大きくないシャベルを一つだけ手に取った。大きくないと言っても傘よりも大きい柄に地面がほれそうなやつだ。シンプルなシャベル。那珂川さんは身長があるためなのか、大きいシャベルだ。というか塵取りみたいなのが付いている大きなシャベルを持っている。シャベルを持って戻るとそこにはトモが居た。手に懐中電灯を2本持っているだけだ。


「トモは大丈夫なの?」


 そう言うと懐中電灯をこっちに向けてきた。眩しい。ものすごい閃光だ。


「これで十分だよ。下手に怪我でもしたら大変だからね」


 だが、一番効果的に思えた。ものすごい閃光の懐中電灯。


「じゃあ、行きましょう」


 那珂川さんがそう言ってドアを開けた。うっすらと雪が降っている。この景色を見ると私はやっぱり遠くに来たのだと思う。私の記憶に雪はない。この凍てつく寒さもない。ここは私がいる場所ではないのではと思ってしまう。



 歩いていると那珂川さんが話しかけてきた。


「さっき、一樹とトモに承諾を取った。あの日、文化祭の日に何があったのかを話すわ。あの日伊央星羅とともに私たち4人は文化祭をまわっていた。


 文化祭といっても模擬店を出したり、ライブをしたり、肝試しをしたり、各部の取り組みの発表だったり様々だった。トモのピアノの演奏を見た後、私たちは今から行く旧文化棟の4階、そこに行ったの。そこはちょっと変わったコンセプト喫茶店をするって話しだったの。


 行くと女性は男装、男性は女装をしている喫茶店だったの。入店するには着替えないといけない。私と伊央星羅は男装をしたの。星羅はすごく似合っていた。一樹は見られたものじゃなかったけれどトモはすっごくかわいかった」


 そう言って那珂川さんはトモを見る。トモが言う。


「そんなことで人気が出るのならいいけれどね」


「ファンは増えただろう」


 一樹が茶化すように言う。横で那珂川さんも笑う。けれど、すぐ3人とも真剣な表情になる。那珂川さんが言う。


「そんな時、そのコンセプト喫茶店で爆発があったの。階段は一つしかない。私たちは混乱をしていた。でも、その時伊央星羅はこう言ったの」



『こんなの小火だから大丈夫。落ち着いてゆっくり一人ずつ降りて行けば大丈夫』


「その大きすぎることもなく、ゆったりとした声にみんな安心をした。私たちは伊央星羅を中心に最後まで残っていたの。そして私たちも避難しようとしたときに伊央がこう言ったの」


『ごめん。先に行って。追いかけるから』


「私たちは少し降りた3階と4階の間にある踊り場で待っていた。消防が来て鎮火された。小火と言っても結構火も煙もあがったの。でも私たちはその後伊央星羅を見ていない。死体も出ていない。そう、私たち3人の前で伊央星羅は忽然と消えたのよ」


 続けて一樹が言う。


「ああ、その後の学園の対応もひどかった。文化棟は立ち入り禁止。伊央星羅の部屋も立ち入り禁止。部屋にあったものはすべて調べられ持っていかれた。


 その翌日。伊央星羅が転校したという話しになったんだ。おかしいだろう。そんな状態で転校するなんて。文化祭の火事があった時が最後だなんて。だから俺たちは学園を信用していない。でも、俺たちだけでは何もできない。この学園はそういう所なんだ」


 一樹は空を見上げた。星も見えない。ところどころある電灯と懐中電灯でしか世界は見えない。雪が頬にあたる。風が吹いているのだ。トモが言う。


「もうすぐ旧文化棟だ。ここからは静かに行こう。どこで誰が聞いているかわからないからね」


 この先に犯人が待ち構えている。私たちはゆっくり頷いた。ただ、道の上には黒いモニターだけがあった。



 そこまで古い建物に見えなかった。白い壁に青い扉は他の建物と変わらない。こんなに寒くなければ、ここをチュニジアと思えたかもしれない。ただ、他の建物と違うのはこの建物に入るまでがロープが囲まれている事だ。だが、人が通ったのだろう。道ができている。雪がよけられているのだ。


 雪は私たちが来た時は降っていなかったし、積もっていなかった。だからその後に誰かがこの立ち入り禁止のロープをまたいで奥に行ったのがわかる。しかも人が一人歩けるだけの雪かきもしてくれてある。


 ただ、この場所を歩くという事は確実にこの旧文化棟の上に誰かがいてカーテンの隙間から覗いていたらすぐにわかることだろう。だが、一樹はこう言った。


「行こう。時間がおしい。それに俺はミライじゃなく誰がミライを連れ出したのか、この上に誰がいるのかのほうが重要だ」


 一樹は多分そうなのだろう。那珂川さんも頷く。トモは少しだけため息をついた。トモが言う。


「おそらくここに来る前に気が付かれている可能性は高い。それならばスピード勝負がいいかもしれないね」


「なら突撃だな」


 そう言って一樹は突進する。那珂川さんも同じように走って行く。トモは前、そして上を懐中電灯で照らす。


「行こうか。残るほうが危ない」


 トモがそう言ってくれた。溶けた雪の上を走るのはこわい。私はゆっくり歩いていく。扉の前にすでに一樹と那珂川さんがいる。落とし穴でもあったらどうしようと思っていた自分がなさけない。


 入口につく。中は埃っぽかった。


「電気はつかないみたいね」


 那珂川さんが言う。薄暗い。非常灯だけが付いている。緊急避難を示す緑が頭上にある。懐中電灯で照らしていく。


「多分、上だろうな」


 一樹がつらそうな表情でそう言う。


「あの教室に行って何もなかったらすべての教室を調べましょうか」


 那珂川さんもそういう。3人とも歩いていく。入ってすぐ右側に階段がある。階段部分はやたらと暗い。電気がないだけで階段を登るのは怖いのだ。


「大丈夫?」


 そう言ってトモが手を差し出してくれた。


「大丈夫」


 私のその手を取らなかった。多分トモの手を取ってしまったらもう二度と離せないと思ったからだ。それに私の手には左手にシャベル、右手に懐中電灯がある。使っていない懐中電灯を腰にぶら下げているトモと違って両手がふさがっているのだ。同じ条件の一樹も那珂川さんもなんなく登っていく。


 時間がかかったが、4階についた。3人がゆっくりと奥の教室に向かって歩いていく。教室はあるけれど、何も書かれていない。怖いのについ窓から見える教室の中を覗き込んでしまう。でも、誰もいない無人。私の遅い動きをトモだけが待ってくれている。それ以外の二人はどんどん先へ進んでいく。


 しばらくすると二人が立ち止まっていた。


「どうする?」


「見当たらないな」


 そう話していた。窓から見える教室の中にはミライが中央で椅子に座っている。猿轡をされていて、体もロープで縛られている。一樹が言う。


「教室に他に誰かが居るようには見えない。隠れているだけかもしれない。机も椅子も教卓もロッカーもある。これから俺と那珂川さんで突入する。トモとお前は周りを見張っていてくれ」


「了解」


 そうトモが答える。しばらくして雄叫びをあげながら一樹は扉を開けて中に入った。だが、すぐに静かになる。一樹が言う。


「ミライ以外誰もいない。ミライも気絶しているだけだ。大丈夫」


 そう言った瞬間にドスンと大きな音がした。音がした方は廊下側ではなく窓側だ。カーテンがしまっている。力いっぱい一樹があける。


 外が見えた。私たちが来た道がここから良く見える。そして、その中央。あの走り抜けたあの場所に人影がある。人が倒れている。誰?私は気が付いたら下に向かって走っていた。


 玄関について、倒れているのが誰かわかった。ありえない角度で首と腕がまがっているけれど、その顔は知っている顔だった。そう、佐久間るいが私の目の前で死んでいたのだ。


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