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アリスの杜学園、そこははじまりか、おわりか

 空は晴れていた。珍しく雪が降っていないと言われた。今まで家がある街から出たこともなかったけど、どうしてかこんな辺鄙なところの学校にそれも12月になってから転校することになったのか私にはわからなかった。でも、そうだと言われたら『そうなのだ』と思う。


 その学園は寮がある。というか、入寮しないとその学校の生徒になることができない。その学校もまた変わったところにある。飛行機で移動し、船に乗る。波止場からは専用の車で送迎があるのだ。


 後部座席に乗りながら窓から見える空を、私、宗像いおは見ていた。流れゆく景色は横長で、この季節でなければ緑豊かで、そう何もない景色が見えていたはずだ。けれど、12月だと雪が降ることが多いという。そして積もると言う。


 そう、ここは日本でも北。北海道の一部。小さな島。名前は聞いたけれど覚えられなかった。


 しばらく進むとまるで要塞のような建物が見えてきた。高い壁に囲まれた中にアリスの杜学園はある。

ここは全寮制の学校。入ると卒業するまで出ることはかなわない。夏休みや正月ももちろん外出できない。唯一出る条件はこの学園の理事長の承認を得た時だけだ。


 門の前に車が止まる。守衛が門を開けると更に門が出てくる。二重の門。一つ目の門を通り抜け閉じられてから二つ目の門が開けられる。こんなに頑丈にして何から守っているのかわからない。こんな孤島。もしここから『出られたとしても』船がなければどこにも行けない。


 その船も一週間に一回だけ荷物を運んでくれる。私はその船に乗ってやってきた。そう教わった。


 門を潜り抜けるとそこは白い壁に青い扉、青い窓枠の建物が並んでいた。その色彩はすごく目立つ。まるで日本でないみたいだ。そうだ、この景色を私は見たことがある。


 チュニジアの風景だ。ただ違うのが、ここが寒い場所ということ。それだけだ。あたたかくないこの場所で白と青の建物は寒々しく見えてしまう。


 車が止まる。目の前にあるのも白くて青い扉の建物。ただ壁にサウス寮と書かれてある。南に位置するからつけられたのだろうか。だが、私には方角なんてまったくわからなかった。太陽の位置で確認したかったけれど、気が付くと雲に太陽はいつの間にか隠れていた。曇天。雨、いや雪が降っていないだけまだいいのかもしれない。


 赤いダッフルコートを外に出る。ひんやりした空気が肺の中までもぐりこんでくる。空気の違いに遠くまで来たのだと実感できる。


「お待ちしておりましたわ」


 サウス寮の扉の前に一人の女性が立っていた。だが、その女性はどうみても学生にしか見えない。立っている姿から身長が高いのがわかる。すらっとしていて、髪も長い。まるでモデルか絵画から出てきたかのような美人だ。だが、服装は黒いシックなセーラー服に白いリボン。そして、紺のハーフコートを羽織っている。


 私は車を降りる。運転手がすぐにカバンを受け取ってくれる。だが、そのカバンに入っているものは授業で必要なものと私服が少しだけだ。


 すでに荷物は検閲されている。持ち込みを認められているものが少ないのだ。携帯も持ち込みが禁止。ポータブルのラジオですら禁止されているのだ。遮断された世界。ここで私はこれから過ごさないといけないのだ。それにここが私に残された唯一の場所なのだ。


「ありがとうございます」


 運転手は私にカバンを差し出すと車に乗り込みすぐに発車した。


「あなたが宗像いおさんですね。理事長から聞いています。どうぞこちらへ。私はこの寮で寮長をしています、那珂川といいます。何かわからないことがあったら聞いてください。それと、寮のロビーでささやかですが歓迎をしようと思っています。どうぞ中へ」


 そう言われて私は中に入った。


 古い建物。けれど手入れされているのか壁は真っ白に見える。中に入るとすぐに下駄箱がある。


「その左下にあなたの名前が書かれているから。そこに入れておいて。上履きは持ってきていますか?」


 スリッパを使うことを聞いていた。だからかわいいスリッパを選んだのだ。ピンクの。


「はい」


 そう言ってカバンからスリッパを取り出す。下駄箱を見るとシールが貼られてあった。だが、下に名前があるようにも見える。誰か前に使っていた所なのだろうか。まあ、歴史ある場所なのだ。私がはじめて使うなんてことはあるはずがない。私は自分が履いていたローファーを中に入れカバンから取り出したスリッパをリノリウムの床に置いて履いた。


 少し歩くとソファーが置いてある場所に出た。そこに男女合わせて八名が居た。那珂川さんが言う。


「はい、お待たせ。今日からこのサウス寮に入寮する宗像いおさんです。では自己紹介をお願いします」


 自己紹介。私は自分を紹介するのが苦手だ。何を話していいのかわからないのだ。自分についてそこまで話せることがない。そう思っていたらソファーに座っていない壁にもたれかかっている男性がこう言ってきた。


「なあ、那珂川さん。こんな変則的な時期に転入してくるんだ。しかも十二月だぞ。十二月の転校生は不吉を連れてくると言う噂もあるくらいじゃないか。勘ぐるなって言われたって勘ぐってしまう。それにまだあの事も解決してないままじゃないか」


 黒く短い髪をした男性。服装はジャージだ。背はそこまで高くないけれど、その体形から鍛え上げられている体形なのがわかる。しかもごついのではない。しなやかに鍛えあがっているのだ。だからこそ怖く感じた。


「それは今言っても仕方がないことでしょ。転入や寮決めは私たちじゃなく理事長が決めたことなんだから。ごめんなさいね。宗像さん。では、自己紹介お願いね」


 那珂川さんがフォローをしてくれる。けれどどうしても空気が重い。それにさっきの男性は明らかに私に敵意を持っているのがわかる。にらんでいるし。気にしちゃダメ。私は大きく息を吸い込んだ。


「私は宗像いおって言います。家庭の都合で十二月に転入することになりました。どんな都合なのかは正直私もよく知りませんので説明はできませんが。でも、何かがあってここに来たわけじゃないのでよろしくお願いします。それとよかったら私のことは『いお』って呼んでください」


「呼ばねえよ」


 さっきの男性がそう言い放った。


「宗像さんだったら呼んでやるがな。多分、この寮内のやつもそうだよな」


 さらに大きな声でそう言われる。誰も何も言わない。


「では、宗像って呼んでください」


 本当はこの苗字が好きではない。けれど、それを言える雰囲気ではなかった。那珂川さんが言う。


「では、各自の自己紹介はおいおいで。いきなり何人もが宗像さんに挨拶しても覚えられないでしょうしね。那珂川さんは3階の304号室を使ってください」


 そう言った瞬間周りの空気が変わった。「あそこを使うのか」「おいおい」という声がした。あの怒っていた男性が言う。


「那珂川さん。あの場所はまだ」


「もう、荷物はありません。それにあの場所以外どこがあると言うのです?それにこれは理事長が決められたことでもあります。異論は認めません」


 私には何もわからなかった。ただ、その場所は特別な場所なのだと言うことがわかった。そして私の居場所はそこにしかないという事も。


「俺はまだあきらめていない」


 そう言って男性は走って出て行った。


「あの、いいのですか?私がそこに入って」


 決定が変わることがないことはわかっている。けれどそう言ってしまった。


「ごめんなさいね。宗像さんには関係のないことなのに。とりあえず時間が解決してくれると思うわ」


 那珂川さんがそう言ったらソファーに座っていた金髪の少し細い男性がこう言ってきた。


「誰もそんなもの望んでないと思うけれどね。まあ、ここにいる限りそう言うしかないんだから仕方ないか」


 そう言って金髪の男性が見た先にはモニターがあった。


「テレビがあるんですね」


「ああ、あれはテレビじゃないの。理事長がメッセージを伝えたい時に画面が入るの。まあ後は生徒会あたりかしら。どの教室にもどの部屋にもあるわ。建物の中ならね。後一部通学路にもあるから」


 そう言った那珂川さんの表情はなんだかとてもさみしそうというか、なんと表現していいのかわからない表情だった。強いて言うならば感情のない表情とでも言うべきなのだろうか。けれど、それを追求することは私にはできそうになかった。そう、この空間のいや、雰囲気が、建物自体がそれを拒んでいるみたいだ。


「わかりました。では、私は荷解きのため部屋にいきますね」


 何をわかったのかはわからない。けれど、私は寮を見渡して大きな階段があるのでそこを上がろうとした。


「宗像さん。この寮の決まりがあるの。二階からは右が男子、左が女子。何があってもお互いの場所には立ち入らない。絶対守ってね」


 私は頷き階段を上った。階段が途中で左右に分かれている。右に男子と黒で書かれ左に赤で女子と書かれている。しかも紙ではなく木に書かれたものが飾られている。歩きながら床がギイギイときしんでいるのがわかる。古い建物。一体いつこの建物は建てられたのだろう。


 私は3階の奥にある304号室の前に立った。木でできた扉。古い感じがする。中央にすりガラスがある。ドアノブに手をかけてひねる。中には二段ベッドと机が2つ並んでいる。机の間には黒いモニターがある。そういえば、この寮は誰かと相部屋になると聞いていた。だが、この部屋に何一つ荷物が無い。そして、異様にきれいだった。私は奥の机を選んだ。窓がその奥にあるからだ。窓から見える景色は先ほど通り抜けた門が見えた。


 そして花壇がある。だが、12月だからさみしいものだ。何も咲いていない。椅子に座り天井を眺めた。幾何学模様の天井。


 なんでこんな模様にしたのだろう。だがその模様を追いかけていて一つおかしいところがあることに気が付いた。そうずれているのだ。一見するとわからないけど、端でもない変な場所のあれは反対のはずだ。


 私は机に上ってそのずれている部分の天井を触った。天井の板は薄く正方形の形で上に持ち上がった。するとそこから1冊の本が落ちてきた。革張りの本だと思った。だが、手に取ってみると日記のようだった。

 1ページ目を開いたところにこう書かれてあったからだ。

 

4月1日 今日このアリスの杜学園に入学した。私は籠の中の鳥。いつ出られるのだろう。いや、死を待っているだけなのかもしれない。私はそういう定めなのだから。


 天井を戻して椅子に座って呼吸を整える。なんだか見えはいけないものを見てしまったように感じだ。でも、どうしてかその先が気になってしまう。ゆっくりページを進めようとした。その時ドアをノックされた。私はカバンの奥にその日記帳を仕舞い込んだ。


 返事の前に扉は開かれた。


「どうも、はじめまして。今いい?」


 そこには明るめの髪をポニーテールにした大きな目をした女性が立っていた。大きなカバンを手に持っている。


「はい」


 びっくりして、そう言ってしまった。ポニーテールの娘がこう言ってきた。


「私、この部屋に引っ越したいの。ねえ、いいでしょう。ねえ、いいよね。ってか、聞いてよ。今までの部屋最悪だったの。花だらけなの。もう壁いっぱいに花が並んでいるの。まあ、壁にあるモニターが隠れているのはいいんだけれど花はダメなの。私アレルギーだから。くしゃみが出っぱなしなの。だから部屋を変わりたかったの。でも、なかなかそういう機会がなかったの。ねえ、あなたが良いって言ってくれた私ここに来られるの。ねえ、いいよね。ありがとう。あ、私加藤ミライって言うんだ。ミライって呼んで。よろしくね」


 そう言ってミライはカバンを置いて私に向かって手を差し出して来た。


「よろしくね、宗像さん」


「はい」


 気が付いたら私はミライに手を握られていた。


「あの、私のことは」


「ごめんね。ここで、というかこの部屋であなたのことは『いお』とは呼べないわ。それはわかってほしいの。宗像さんがどうとかってわけじゃないの。でも、宗像さんって呼ぶのはなんか他人みたいだよね。そうだ。宗像っちってどう?でも、ながいね。かたっちで。よろしくね。かたっち」


 勝手に呼び名が決まった。


「でも、ミライ。どうしてなの。なんか私その理由を知りたいの。みんながその『いお』って名前にそこまで反応する」


 私は疑問だったのでそう聞いた。ミライが言う。


「この部屋に居たんだ。伊央星羅って娘が。伊央は違ったんだ。私たちの希望だったの。でも文化祭の時、文化棟で火事があって、伊央だけ逃げ遅れたの。でも死体は出てこなかった。神隠しにあったの。その1週間後、伊央星羅は転校したと理事会から通知が来たの。


 荷物はその後撤去された。でも『いお』の荷物はどこにも運ばれていないのは一樹が調べたみたいなの。船も来る時期じゃなかったし、それにこの学園の外に出るトラックにも荷物は積まれなかった。まあ、そんなこともあって、この寮では特に『いお』という名は禁忌なの。


 みんなのアイドル。でも不可思議に消えた『いお』。そしてそれを隠すようにした学校。誰もが何かがあると思っている。


 そして調べている。でも、何もできずにいたの。この部屋も同じ。ようやく立ち入れるようになったかと思ったらかたっちが転校してきたの。それまでは封鎖されていたから。まあ、今でも『いお』のことを調べているのは3人だけだけれどね。


 まあ、その3人が影響力強いからこの寮では何も言えないんだ。そんなに気にしなくてもいいよ」


 そうミライは言ってくれた。


「私ベッド上でもいい?」


 目の前にある2段ベッドを指差している。すでにミライは上にあがっている。


「いいよ。別に」


 そう言いながらミライはベッドにあがったシーツを取り出した。


「どうしたの?」


「あのモニターにかけるの。私反射して映る自分が嫌いなんだ。だって黒く見えるでしょう。肌とか。私元々肌が黒いから気になるの。鏡で見る分にはまだ平気なんだけれどね」


 そう言ってモニターをきれいにシーツで囲んだ。


「これでOK。後、わからないことがあったら言ってね。そうだ。今からこの寮の中だけでも案内してあげる。行こう」


 そう言ってミライは私の手を取って歩き出した。


 寮の中は古いけれどしっかりしたつくりだ。空調が聞いているのが寒さを感じない。いや、若干は足が冷えるけれど、外の寒さに比べると暖かく感じる。


 でも、誰もが私を少し離れて見ている。話しかけてこない。変な感じ。歓迎されていないのがわかる。でも、ミライはまったく気にせずに私の手を引いて案内してくれる。


「以上よ。後は男子寮側だけれど、あっちは入れないからね。入りたいとも思わないけれど。こんな季節じゃなかったら外も案内してあげたいのだけれどね。丘から見える景色がきれいなのよ」


 そう言って窓の奥にある小高い丘を指差してくれた。頂上に一本大きな木がある。そこに一人男性が居た。寒くないのだろうか。誰かはわからない。顔もよく見えない。けれど人が立っているのだけはわかる。


「あそこに人がいるけれど、寒くないのかな?」


 私はふと声に出していた。ミライが言う。


「寒いに決まってるじゃない。でも、まあ。仕方ないのかも。あの場所は一樹にとって特別だから」


 そう言ったミライの表情はどこかさみしげだった。


「じゃあ、後は晩御飯までは自由行動だから。私はちょっと部活棟に行ってくるね~」


 そう言ってミライは扉から出て行った。だからなのか。手にコートを持っていたのは。部屋に戻ろうとしたら那珂川さんに声をかけられた。


「加藤ミライさんとは仲良くやれそう?」


「はい、なんか振り回されてるっぽいですけれど、楽しいです」


「なら、よかったわ。晩御飯前に鐘がなるからその時は食堂に来てくださいね」


 そう言ってそのまま立ち去って行った。いきなり私の周りは静寂に包まれた。とりあえず部屋に戻ろう。それほど荷物はないけれど片付けておきたい。それにあの気になる日記の続きを読んでみたい。


 そう思って私は部屋に入り椅子に座った。カバンの奥から日記を取り出す。織り目が付いている場所があったので開く。そこにはこう書かれてあった。



「私は殺される。その理由はここに書いてある。この日記を手にしたあなたには悪いけれどあなたも狙も狙われるかもしれない」


 私は思わず日記を閉じてしまった。この日記は誰かに発見されるためにここにあったのだ。どうして私がこんなものを手にしないといけないの。


 遠くでボーンと鐘の音がした。私は怖くてただ震えることしかできなかった。



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