事件の向かう先、誰もが知りたい先は、どこ
図書館であの新聞以上の情報は得られなかった。同時期の学園報を見ても何も書かれていなかった。
新聞に書かれていた内容はこうだった。
北海道▽△島の住宅で12月15日來原春江(17)が刺され死亡する事件が発生。住宅から道路まで被害者女性のもととみられる血痕が飛び散っているほか、大勢の警察官が駆けつけるとともに、▽△島は物々しい雰囲気となっています。
なお、犯人は逃走中とみられています。凶器を持ったまま逃走している可能性があり、さらなる犯行に及ぶ危険性もあるため、近隣住民の方は念のためご注意ください。
これが第一報である。その後▽△島にある学校法人アリスの杜学園に12月1日に転校をしてきた少女Aが逮捕されている。そのことで思い出した。
「12月に転校してくる転校生は不吉を連れてくると言うのもあるくらいだ」
探偵が前に言っていた言葉を思い出した。はじまりがないと噂は広まらない。これがはじまりというのだろうか。逮捕された少女については何もわからなかった。
「少年法の闇ね。この少女を知ることはできないのでしょう」
那珂川さんがそう言った。でも、那珂川さんは、いや、ここにいる3人は少女Aについて知りたいなんて思っていないはずだ。知りたいことは來原春江についてだろう。17歳。伊央星羅も同じ17歳だ。何かあるのだろうか。一樹が言う。
「まあ、わかることは、30年前はこの学園にもちゃんと警察が関与していたということだ。だが、この学園にはずっと黒い噂がある。人が消える。人が死ぬ。今回だって佐久間るいが死亡したにもかかわらず警察が学園に来たなんて聞いていない。おかしいんだ。いつからおかしくなったと言うんだ」
そう言うとトモがこう言いだした。
「多分この事件からなのかもしれないし、もしかしたら理事長が変わったからなのかもしれない。ほら、この学園史を見てほしい」
そう言われてトモが指差したところには新理事長の就任が書かれてあった。所在理事長は來原藤次郎だ。次は來原重富。血縁者なのだろう。だが、29年前に理事長が変わっている。その名前が『伊央一清』だ。
「どういうことなんだ」
わからないことだらけだ。そこから先理事長は定期的に変わっている。直前までの理事長の苗字は『伊央』だ。だが、4年前に着任した理事長は「向原藤一郎」だ。そこからの変更はない。だからこの名前が今の理事長なのだろう。あのフードにマスクの理事長。写真もない。何者なのかもわからない。
「やはりあの理事長が怪しすぎる。何が起きたって秘密裏に隠しやがるしな」
一樹がそう言う。私はあのノートに書かれていたことを話したほうがいいのかどうかまだ迷っている。あの時は意味がわからなかったけれど、今ならわかる気がする。私の決意はでもトモのこの言葉で消えてしまった。
「この学園報を見てほしい。丁度新理事長が着任時に挨拶を乗せているんだ」
そう言われて学園報を見つめる。文章ではなくその写真に目がいった。フードもマスクもつけていないのだ。そこには今までの理事長とは違って若々しい男性の顔が写っていた。顎はシャープで中性的な顔立ちをしている。どことなく誰かに似ていると思った。
「この理事長誰かに似てない?」
「さあ?知らないな」
一樹はそう言った。私はひょっとしたら思い出せない記憶の中で会ったのかもしれないと思った。写真の次に内容に目がいった。挨拶の中にはこう書かれてあった。
今までの学園の体制は一族による管理でした。残念な事故もありましたけれど、これからは世界に誇れる教育体制を構築していきます。そのために従来あるカリキュラムを見直し生徒の自主性を重んじます。また、才能に特化した特待生の受け入れも実施し、このアリスの杜学園を新たな学園に変革いたします。
この言葉に目が言った。
「だからトモみたいなのが受け入れられたのね」
那珂川さんが言う。それに、授業だってそうだ。どの学校よりもわかりやすいと思う。というか、あれだけの授業についていければどの大学にも合格できそうだ。そういう意味ではこのアリスの杜学園は確かに世界に誇れる教育体制なのかもしれない。
でも、この表現が気になる。トモも同じことに気が付いたのだろう。トモが言う。
「この時期の新聞あるかな。調べたいんだ」
私たちは調べた。
この時期。1997年だ。
ロシアのタンカー「ナホトカ号」が日本海に沈没して重油が流出。
クローン羊誕生で倫理的波紋。
消費税が3%から5%に引き上げ。
ペルーの日本大使館公邸に特殊部隊が突入。犯人ら14人を射殺して人質を解放。特殊部隊3人が死亡。
神戸市須磨区連続児童殺傷事件(酒鬼薔薇事件)この事件を起こした日はヒトラーの誕生日だった。
鹿児島県の出水市で集中豪雨の被害、死者21人。
青森県の八甲田山で訓練中の自衛官3人がガス中毒死。
イギリス元皇太子妃ダイアナがパリ市内のセーヌトンネルで事故死。
エジプトのルクソールでイスラム過激派による無差別テロ。日本人5人を含む観光客60人が死亡。
北海道拓殖銀行破たん。
山一證券が3兆5000億円の負債を抱え自主廃業。
「どうも違いそうだな。もっと地域ニュースが大事なんじゃないか?」
一樹がそう言いだした。地域面のみをもう一度見直す。結構地方面でも事件が起きている。飽きたので少しだけめくるとこの記事が目に付いた。
「來原商事。粉飾決算」
記事を読むと金融、不動産に投機をしていたが回収ができなかった。特にメインバンクであった北海道拓殖銀行破たん、山一證券の自主廃業の影響もあり経営難があったのではないかとアナリストの評価があった。一樹が言う。
「これが理事長が変わった背景なのか?」
「だが、これだと事故というのがおかしい。何かあるはずだ」
トモが言って私たちはまた新聞に目を向けた。
「あった」
私は小さく書かれている記事を見た。伊央和彦が交通事故にて死亡という記事があった。その記事にはこうも書かれてあった。
「山道での事故ではブレーキ痕もなく保険金目当ての自殺ではとの見解もあったが、受取人が受け取りを拒否したことでその疑惑が晴れる」
何があったというのだろう。わからない。でも、これが何に関係すると言うのだろう。そう思っていたら手をたたく音が聞こえた。振り返るとそこに居たのは黒く髪をおかっぱにした細い体に白い顔をした少女。そう、探偵がそこに居たのだ。探偵が言う。
「おやおや、面白い記事を見ているね。いくら鈍感な君たちでもそろそろ気が付いたんじゃないのかな?」
相変わらず神出鬼没だ。いつの間にかそこにいるのだ。いつから居たのかどうしているのかなんてわからない。多分聞いても答えてくれないだろう。一樹が言う。
「お前は一体何を知っているというんだ。お前は一体何者なんだよ!」
感情を露わに叫ぶ。だが、探偵の返答はいつも通り感情がまるでないような感じだ。
「僕が何者かなんて君に関係あるのかい?僕は僕さ。君たちは僕を探偵と言う。死神という。それでいいじゃないか。それとも何を知りたいというのかね?僕の名前かい?そんなもの記号と同じさ。
それに、僕は何も知らない。知っているのは君たちさ。そして、君たちだけが情報を持っている。そういえば、宗像さんと名乗っている君は話さなくていいのかい?」
探偵が私を見る。まるであのどこを見ているのかわからない瞳で見つめられると心臓が止まりそうになる。この感覚私はどこかで知っている。変なプレッシャーがあるのだ。
「何も話さなくていい。こんなヤツに言われるままにする必要なんてないんだ」
トモがそう言う。でも、私には話した方がいいとも思える。タイミングがなかったんだ。トモが続ける。
「それに、この図書館で知りたかったことは大抵知れたよ。会社四季報。ここに書いてある」
そう言ってトモが分厚い冊子を取り出して開いた。そのページには來原商事と書かれてある。トモが続ける。
「この会社。今の代表取締役の名前は向原藤二郎。この理事長と同じ名字だ。ここからは私の推論だから違っているかもしれない。來原家と伊央家は多分親族なんだろう。その一族はこの島がある北海道である程度の会社を経営していたのだと思う。その運営の一つがこのアリスの杜学園だったんだ。この会社四季報に書いてある事業内容を見るといい」
そう言ってトモは会社四季報を見せてきた。事業内容を見るとこう書かれてある。
漁業、工業、製造業、情報通信業、卸売・小売業、金融・保険業、不動産業、医療、福祉、教育、学習支援行、サービス業。
何をしている会社かよくわからなかった。でも、確かにそこに教育と書かれてある。トモが続ける。
「だが、不運が続いた。來原家の基盤は北海道だ。だが、97年に北海道拓殖銀行破たん、そして、山一證券の自主廃業。その後に発覚した粉飾決算。おそらく創業者は責任を追及され経営からはじき出されたんだと思う。
変わりにやってきたのが向原家だ。これは新聞からの推測だ。でも、ここからは私の想像というか妄想かもしれない。何も証拠なんてない。でも、こう思ったんだ。おちぶれた來原家、伊央家は創業の地であるこの島にやってきた。でも、そこも差し押さえられてしまう。娘である伊央星羅は復讐のためにこの学園に来たんだ」
トモがそう言ったことに対して那珂川さんがこう言う。
「それはちょっとおかしいわ。もし復讐としたらどうして今の理事長は伊央星羅を受け入れたのだろう。それにあの理事長は何度も伊央星羅と会っているのよ。しかも二人で。おかしいじゃない」
私はようやく決心がついた。次は私の番だ。
「私は復讐かどうかの判断つかないけれど、伊央星羅さんは身の危険は感じていたと思うの。もし私が手にしていたノートは伊央星羅さんが書いたものだとしたらそこに書かれていた内容はものすごく重要だと思うの。そこに書かれていた内容で印象に残っているのは2つなの」
・学園に殺される
・理事長室を調べないといけない
「この2つがあのノートに書かれてあったことなの。それと私が思ったことなんだけれど、もし敵対する二人が仲良く話しているのなら理事長である向原藤一郎が伊央星羅に恋をしていたらどうだろう。どこまでの負債を來原家、伊央家が負ったのかわからないけれど、少なくとも経営は向原家が支えているわけなんでしょう。なら何かを見返りに求めたのかもしれない。私は会ったことがないけれど伊央星羅って魅力的なんでしょう」
私がそう言ったら3人とも黙ってしまった。何か私は言ってはいけないことを言ってしまったのだろうか。一樹が言う。
「おい、探偵。お前はどう思っているんだ。教えろよ」
だが、探偵はくすりと笑ってこう言ってきた。
「君たちは面白いね。特に源友則くん。君は最高に面白い。君たちの仮説でいいんじゃないのかい。だって、君たちはそう思いたいのだから。
それが君たちにとって真実であり、事実なのであるのならばそれでいいじゃないか。でも、真相なんて味気なく面白くもなんともないものだよ。そう思わないかい。源友則くん」
探偵は口を開けてわらっている。その奥がいやに赤くて気持ち悪い。唇も赤い。そのしぐさが気持ち悪いのだ。探偵が言う。
「それに君たちがここでいくら議論をしたって何も始まらないだろう。そんなに真相が知りたければ理事長を直接問いただせばいい。
まあ、あの理事長が何を語るのか楽しみでもあるけれどね。それに君たちも面白いよね。あの理事長にあれだけ面と向かって会っているのに何も気が付かないなんて。やっぱりここはもう一人くらい犠牲者がでないと真相にたどり着けないんじゃないのかな。まあ、誰が犠牲になろうとも僕には等しくどうでもいいことなんだけれどね。じゃあ、検討を祈っているよ」
そう言って探偵は消えた。
「なんなんだあいつは」
一樹が怒っている。だが、トモがこう言ってきた。
「だが、ここでいくら議論を続けても憶測でしかない。とりあえず知った情報をまとめて理事長に会いに行こう」
そう言って地下から1階に上がろうとした。私は一樹の横に言ってサファイアのバレッタについて聞いた。一樹はこう言ったのだ。
「ああ、あのバレッタ不思議な所にあったんだ。あの洋館に行く手前になんか棺みたいなのが置いてある部屋あっただろう。あそこで拾ったんだ」
なんでそんなところにあるのだろう。だけれど、私はこの後サファイアからもう一つだけ衝撃的なことを言われるのだ。それが何につながるのか私はまだ気が付けてもいなかった。




