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かごの中の鳥が思うこと .1

街から少し離れた、高台にある施設。

俺達はその入場ゲートにいる。


「結構人がいるんだな。」

「今日祝日だしねー。グルメ関連のイベントの開場にもなってるみたいだし。それを考えて遅めに来たつもりなんだけどなぁー。」

「みんな考える事が同じだったんだろうな。」


都子からは動物園だと聞いていたが、その実態が巨大な複合型のテーマパークだということに気付いたのは昨日の話だ。

鳥類園の他に、しばしばイベント開場となる公園と、遊園地が併設されている。

この辺では随一の観光スポットということもあり、郊外にもかかわらず交通アクセスは良い。専用のバスまで出ているほどだ。

ちょうどそのバスの到着と重なったのか、入場券売場に並ぶ人の数は尋常なものではない。

外国人らしき観光客のグループもいて、受付のお姉さんが対応に追われている。


「もう少し遅れてたらどうなってたことか、都子の母さんに感謝だよ。なんか予定あったみたいなのに、悪いことしたな。」

「友達と食事に行くって言ってたから、大丈夫だよって言ったんだけど、ついでだから送るって聞かなくて...。亮太と一緒だといつも余計なこと言うから困るんだよ。」

「娘をよろしくって言ってたしな...」

「なんか勘違いしてるんだよー。ごめんねー、亮太も迷惑だよねー?」

「そんなことないよ。」


むしろ羨ましいくらいだ。

以前は俺も、そういった母親特有のお節介にうんざりしてた。

だが、母が死んで時間が経つにつれ、自分はお節介に生かされていたことに気付く。

もう世話を焼かれることもないのかと思うと、無性に悲しくなる。

でも、最も辛いのは、同時に母の記憶が薄れていくことだ。

母の陰がぼんやりと霞んでいき、やがてそれが正しい姿かどうかもわからなくなるのだろうか。

消えたものの価値さえも忘れてしまうのだろうか。


「ごめん。気に障ることいったよね...」


俺の気持ちを察したのか、都子が言う。


「ただ母さんのこと思い出してただけだよ。それに都子が謝ることでもないだろ?俺は都子が心配してくれる方が申し訳ないんだけど。」


そうこうしてる間に、列の先頭に来た。

未だ少し気にしている様子の都子を安心させるため、早々に受付へと歩く。


「すみません。高校生なんですけど。」

「それでしたら、大人2名様になりますので......」


料金を支払い、チケットを受けとる。

1度受付を終えれば、あとはスムーズだ。

横にあるゲートを通り中へ入ると、すぐ目の前で大きな鷹の像が俺達を迎えてくれた。


「スゲーな、実物大らしいぞ。連れ去られそうなくらいデカイ。」

「さすがに人は無理だろうけど、小鹿くらいなら連れ去れるらしいしねー。あとで鷹のショーにも行くつもりなんだー。一応鳥とふれあえるってのが主なテーマみたいだからね。遊園地ばっかり目立って忘れられがちだけど。」

「確かにこの時期ほとんどプールと遊園地しか宣伝してないもんな。」


俺自身ここの宣伝をテレビでよく見かけるが、鳥といえば最初の数秒程度、フクロウが写るくらいだ。都子に行き先がここだと聞くまで、鳥類園があることを知らなかった。


「でもここなら俺とじゃなくても、友達と来れただろ。そんなにマイナースポットでもないし。」

「それだと、一日中遊園地の方にいるはめになるし.........亮太と一緒がいいっていうか.....」

「なんだって?」

「いや、なんていうか、女子だと気を使うんだよ!」

「その台詞そのまま返したいわ。」


たまにこいつは俺の事が好きなんじゃないかと思う時がある。

都子みたいに可愛くて、優しい娘に好かれるのは嬉しいし、誇らしいことだけど、でもその気持ちは俺にはもったいない気がして、そんな時は勘違いだと思う事にしている。

なにより本当だとして、俺は都子の事が好きなんだろうか?

都子と居ると、胸のなかに何かを感じるのは確かだ。

でもそれが愛なのか、感謝か、自己嫌悪か、はたまた別の感情なのかはわからない。たぶんその全てが複雑に混ざりあっているからだ。


巨大な猛禽類の左右に伸びる道を、遊園地に向かう人の流れとは逆に曲がると、目当ての場所へはすぐにたどり着いた......

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