Cross Road .1
「君にチャンスを与えよう。」
一点の染みもない真っ白な天井。その中央、ちょうど自分の真上にあるライトが眩しい。
目覚めるとこんな妙に無機質で見覚えのない天井に迎えられるなんてのは、いわゆる物語のテンプレだ。その上どこからともなく、こんな台詞を吐かれたなら、自ずと話の展開は絞られる。
いったい自分の身に何が起きたのか。
ぼんやりとした意識のなかで、望月亮太は必死に思考を巡らせる。
自分が生きているなら、改造手術を施されるか、人型決戦兵器に乗ることを強要されるか。
死んでいるとすれば、マトリックスか?
異世界に持っていく物を決めるとか?
死後の世界であれこれって話は無数にある。
そもそも俺は死んでいるのか?
「さっきから口開けたまま動かないが、話を聞く気はあるのか?」
気付けば視界の端にスーツ姿の男がいた。男はゆっくりと近づき、亮太のそばで止まった。
顔を見ようと試みるが、首が動かない。
手も足も、まぶた以外はすべて、凍ったようにピクリともしない。
「...ここはどこなんだ...何が起こってんだ...俺は死んだのか?」
未だはっきりとしない意識の中で亮太は男に尋ねた。
どうやら声はかすかに出せるらしい。
「今の君にすべてを知る権利はない。私が教えられることは君が乗っていたバスが崖から転落したこと、君が瀕死だったこと、そして我々が君を助けたことだ。」
男の言葉を聞き、だんだんと思考がもどってくる。
俺はバスに乗っていた。バスが傾き、体が宙に浮くのを感じたのも覚えてる。だがなぜ瀕死の俺を助けたんだ?
そのとき、とてつもない不安が込み上げてきた。
「都子は?!俺の横に座ってた!あいつはどうなったんだ!生きてんのか!」
彼女は俺の横で寝ていた。俺が瀕死なら彼女も無事ではなかっただろう。
「牛島都子か。今は生きているが、いずれ死ぬだろう。」
「いずれ死ぬ?!どういう意味だ!都子になにかしたのか!」
「さっきも言ったが君に教えられることは限られている。あの事故の生存者は一人だ。それは君でもなければ牛島都子でもない。そこで君と取引をしたい。それが本題だ。」
必死の問いにも、男は表情ひとつ変えず、ただ淡々と答えるのみだった...