窓の向こうに
さて、ネコゾンビとは何か。僕も話を聞こうと輪に加わった。
話によると、このネコ集会とは別のネコ集会にも参加している猫が聞いてきた話らしい。
なんでも、その一匹の飼い猫が突然死し、家族に悲しまれる中、その家の庭の片隅に埋められたそうだ。
その日の夜、その猫の死を悼んで、人間に見つからないように庭に忍び込んだのだが、庭お片隅にある猫の墓は掘り返されていたのだという。
スンスンとにおいを嗅いでみたものの、嫌なにおいがするだけで、掘り返された墓の猫がどうなったのかは、わkらなかったようだ。
どうしようかと思っていると、庭の植木がガサガサと動き、そこから泥まみれの猫、死んだはずの猫が現れたそうだ。
まさか生きていたのかと思う間もなく、その泥だらけの猫が不快な悪臭を身にまとわせながら襲い掛かってきたので、慌てて逃げたのだという。
それ以来、その界隈には死んだはずの猫が、出没するようになり、ネコゾンビと呼ばれるようになった。
この話を聞いた僕は、そんな恐ろしい猫でも、こちらのネコ集会のテリトリーの話ではないのなら、自分が遭遇することはないだろうと、根拠もなく考えていた。
さて、その日の夜、飼い主は早々に寝床に入ってしまい、僕は暇を持て余していた。
飼い主と言葉が通じれば、ネコゾンビとは何か話すことができるのだが、あいにくと僕と飼い主では言葉が通じない。
まあ、通じたとしても、寝ている邪魔をしたら怒られるだろうが。
良く寝る子だからネコという名前の由来にふさわしくないくらい、今晩の僕は飛んだり跳ねたりしたい気分だった。
しかし、この間、飼い主の寝ているところに思い切り飛び乗ったら、無茶苦茶に怒られたので、今日はそういうわけにもいかない。まったく困った夜だ。
騒がないように、この部屋で一番居心地のいい場所はどこか、部屋のあちこちに移動しては、じっと座り込んで居心地の良さを探ってみる。
そして、僕は今晩、この部屋でとても居心地が良さそうな場所を見つけた。窓際のカーテンの側だ。
カーテンが少しめくれていて、夜空に満月が浮かんでいる。よし、あそこで月を眺めることにしよう。そう思って窓際に近づいたその時だった。
僕が窓際に近寄るのと同時に、窓の外から一匹の猫が近寄ってきた。
そいつは泥だらけで、その目はこの世ならざる向こう側の世界を見る狂気を湛えており、僕に覆いかぶさろうとするかのように、前足をガラスにたたきつけてきた。
僕はというと、もはや化け物としかいいようのないその猫の姿に、理性が吹き飛んだような悲鳴を上げて、部屋の反対側へと逃げていった。
「なに!?なに!?なに!?なに??」
僕の悲鳴で、飼い主が目を覚ました。これ幸いにと、僕は飼い主の元に駆け寄り、身を丸めてガタガタと震えた。
「どうしたんだい? 何か怖いものでも見た?」
飼い主が、優しく僕の背を撫で、少し気分が落ちついた。
窓の外を恐る恐る見ると、すでにあの猫の姿はなかった。だが、僕は見た。アイツがガラスに残した前足の跡は、泥なんかではない赤黒い得体のしれないものだった。