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「背の低い地下道」

 僕の名前はクロシロ。全身黒い毛におおわれているけど、鼻と口、それと四本の足の先とお腹が白い。人間たちの間では、そのまんま「黒白」って呼ばれる模様。

 ほぼ黒い毛に覆われているから、略すなら「クロ」なんだけど、語感の問題なのか呼びやすいからか、僕の飼い主は「シロ」って呼ぶ。紛らわしい。

 

 さて、とある日の事だ。僕は、近所のネコ集会で顔なじみの茶トラに誘われて、とある穴倉に潜ることになった。人間たちの間では「防空壕」って呼ばれている。

 今年の夏も熱くなりそうなので、よい避暑地を探そうと茶トラに誘われたのだ。僕は飼い猫だけど、家のクーラーがいつでもついているとは限らない。だから、僕は茶トラの誘いに乗ったのだ。

 茶トラの発見した防空壕は、人間が地下に隠れるために作ったものだから、内部は申し分なく冷えていた。しかし、茶トラは夏になればさらに熱くなるだろうから、もっと奥も調べようと言って、さらに奥に進んでいった。


 どれほど深く潜っただろうか、茶トラがさらに奥に続く小さな入り口を見つけた。そこは不自然な入り口で、どうやら防空壕の壁の一部が崩れ、別の穴と繋がってしまったものらしい。茶トラは、迷うことなくその新しい地下道に入っていった。

 猫というのは好奇心が高いのだ。僕もそれに続いた。

 そこは、奇妙な通路で天井がやけに低かった。僕ら猫にとってはちょうど良いぐらいだが、人間が通るには厳しいだろう。だが、天然の洞窟ではなく、明らかに何者かによって掘られた通路だった。今の人類は非常に大きいが、昔は僕ら並みに背が小さかったのだろうか。そんなことを考えていると、やがて少し広い場所に出た。

 相変わらず、天井は低いが横幅は今までいた場所よりはるかに広い。それにすべてが加工された石でできていた。さらには、この地下空間には多くの細長い石棺が並べられていた。この地下空間は広すぎて落ち着かないが、この石棺のなかに入ることができるなら、さぞや落ち着くことができるだろう。

 そう思って、石棺のひとつに入ろうとしたが、そこを茶トラに声を掛けられた。茶トラは、すごいものを見つけたぞと僕を呼んだ。

 茶トラは、さらに奥へと続く細い通路を見つけていた。


 その通路には、両側にレリーフの刻まれた歴史の間だった。それも、人間以前の未知の生物のものだ。

 その生物は遥かな昔、恐竜の栄えていた時代の生物で、その歴史は手に槍を持ち、狩りをするところから始まっていた。

 その生物は肉食だったが、農耕によって食料を大量生産することで彼らの食用となる家畜を育てるようになり、順調に文明を発展させていった。

 やがて、彼らの中に指導者が現れる。手に書物のようなものとシンボルのようなものを携えていることから、おそらくは宗教的な指導者なのだろう。その指導者の元にルールが定められ、生物は国家を形成していった。

 続くレリーフは、彼らの繁栄を刻んでいた。彼らは星々を観測し、自分たちが銀河のどこにある惑星の上に居るのかを把握し、かなり正確な宇宙の地図を作っていた。また、彼は魔法と思えるような高度な科学も発展させていた。彼らの支配する帝国は地球全土に及んだ。

 しかし、彼らの帝国は大いに栄えたが、そのころから堕落が社会にまん延し始めた。彼らは人間によく似た家畜を丸のみすると、そのまま惰眠を貪るものが増えてきた様子がレリーフには描かれていた。それは、彼らの宗教的指導者が作ったルールに反するものだった。そして、あろうことか本来、そのような社会を戒めるべき宗教的指導者たち自身が、大衆と同じく食後の惰眠にふけっていた。その場面の端には、空に輝く凶星が描かれていた。

 凶星が大地に激突し、世界に大破壊が訪れる。世界各地に凶星の破片が火の玉となって降り注ぎ、多くの生命を死滅させた。もちろん、彼らの帝国も滅びの道を進むことになった。


 生物の生き残りは、それでも再生のために力を合わせようとした。しかし、堕落してしまった彼らはもはやかつての栄光を取り戻すことができなかった。

 何度もかつての栄光を取り戻す試みが行われたが、彼らの退化は誰にも止められなかった。宗教的指導者たちの行う試みは、時代とともに科学というよりは魔術、いや迷信だらけのまじないの類、生贄を捧げてかつての力を取り戻そうとするような野蛮な儀式になり下がった。

 また、彼ら自身の退化も著しく、かつて二足歩行をしていた生物は、手を地面につける四足の生き物になり、あまつさえその手足すら退化し、彼らの歴史の最後のページ、もはやレリーフではなく壁画に描かれていたのは、醜く地べたを這いずり回るヘビそのものの姿だった。


「こりゃまたすごいものを見つけたな」

 茶トラがそう言った。

 確かにすごい。だが、僕はそろそろだいぶ深いところまで潜っていることに、ほのかに不安を覚えていた。

「もう帰ろうよ」

「待て、まだ先が続いている」

 茶トラの言う通り、まだ通路は続いていた。

 僕は正直、もう帰りたかった。しかし、ここで引き返せば、茶トラの口から僕は臆病者だと、ネコ集会で吹聴されることになる。

 結局、僕は茶トラについて、地下道をさらに進むことになった。


 そこから先は実に単調な道だった。あいかわらず天井は低く、また、さきほどまでの整った地下道と近い、ここはただ地下を掘りぬいただけのような粗雑なものだった。

 これが本当に、あの素晴らしいレリーフを作り上げた生物のものだとしたら、恐ろしいほどに退化してしまったのだということをうかがわせる。

 あのレリーフを作った生物の末裔は、自分たちの祖先がここを作ったのだということすら忘れ、下等生物になり下がったのだろうか。

 そんなことを考えていると、不意に先を行く茶トラが足を止め、僕は頭をぶつけてしまった。

「急に止まらないでよ」

 僕は茶トラに抗議した。

 しかし、その茶トラはというと、背を低くし警戒態勢を取りながら、じっと通路の前方を見つけていた。その前方から、何かしゅうしゅうという息遣いが聞こえてくる。

 通路の前方には、無数の目があった。それはヘビだった。あのレリーフを描いた生物の末裔、旧支配者であるヘビたちが、この地下道には潜んでいたのだ。僕は、車の往来の激しい道路の真ん中で硬直してしまったかのように、動けなくなってしまった。

「逃げろ!」

 茶トラが叫んだ。

 その声を聞いたとたんに、身体の硬直が解け、僕と茶トラは一目散に出口を目指して駆けだした。

 背後からは、通路を埋め尽くす無数のヘビたちが僕らを追いかけてくる。ものすごいスピードだった。獲物を捕らえようとする奴らの執念はすさまじく、僕は何度も尻尾を噛みつかれそうになった。

 とにかく夢中で走り続けた。


 そして、僕らはなんとか地上に戻ることができた。明るい太陽の元にまで彼らは追ってくることはなく、僕らは命拾いした。

「こわかったね」

 僕は茶トラにそう言った。

「にゃーお」

 茶トラの返事を聞き、僕はもう一度、恐怖した。

 なんてことだ。茶トラは言葉を失ってしまった。きっとあまりにひどい恐怖が、茶トラの理性を破壊してしまったのだろう。

 その後、茶トラが言葉を取り戻すことはなく、茶トラは普通の猫になってしまった。


 仲間によると、僕らの恐怖体験のあとに、何匹かが防空壕の中に危険はないか調べに入ったそうだった。ところが奇妙なことに、僕らの見つけたヘビの地下道は見つからなかったそうだ。

 そんなことはないと僕は反論したが、なら案内してくれと言われてそれ以上の反論ができなくなった。その地下道に潜るのだけは嫌だ。今度こそ、獲物を取り逃がしたヘビたちに捕まってしまうだろう。

 言葉を失った茶トラを少し羨ましく思う。茶トラは、ヘビを見るたびに怯えなくていいのだから。

 僕はヘビを見るだけで怖い。最近ではヘビを見るたびに、飼い主の元に身を寄せている。

 僕は確かに見たんだ。この街の地下に、かつて繁栄したヘビ人間の祭壇があることを。その末裔は今も地下深くに潜んでいて、再び地上の支配者になるのを虎視眈々と狙っているんだ。


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