3話
「ねえ、お願いがあるの」
妖精が声をかけてくる
「何?」
「この子を守って欲しいの」
この子とは卵の事だろうか?
守るって言っても僕は謂わばカウンター専門で肉を切らせて骨を断つスタイルしか出来ないのに卵を守るなんて不可能に近い
「無理だと思うよ?」
「今のままだとね。だから力の使い方を教えてあげる。だから……ね?お願い!」
力とは何か分からないがどうせ死ねないのだから付き合う事にした
「わかったよ」
妖精は見て分かるくらい喜んだ
「じゃーまずは自己紹介ね! 私はキルスよ」
「僕は…………あー名前なんだっけ? ごめん。思い出せなかったんだ」
「まあいいわ。じゃあ瞳にならってシンクと呼ぶわね」
「それでいいよ」
「では、シンクには魔力の使い方を教えるわね。その感じじゃ使えないでしょ?」
「まだ来たばかりだからね」
キルスは丁寧に教えてくれた
まず魔力とは
①:この世界の生き物なら人間以外なら誰でも持っている
②:魔力が使える人のような生き物を魔族と呼ぶ
次に魔眼の説明を受けた
魔眼とは
①:精霊など本来不可視な物を視る事ができる
②:魔力を集める事で鑑定、透視、時間停止などが可能だが個人差はあるらしい
次はいよいよ魔力の使い方だった
まず魔族が魔力操作を覚えるのは親などから強制的に魔力を流し込まれ魔石を暴走させるらしい。随分と荒療治の様だ。後から聞いた話だが死ぬこともあるらしい
結果から言うと僕は運が良かった様だ
魔力が空のキルスは一晩休んでからと言い魔力の送り込みは翌日へと繰り越した。そのおかげでキルスの魔力が満タンになりそれをありったけ僕に注ぎ込んだ
何故か僕には魔石がある様で内側から溢れる魔力で殺されるのではないか? という程に強い力を感じた。痛みは感じなかったけど
暫くして魔石から全身に魔力回路が造られ落ち着くと血管の様に脈を打つもうひとつの何かが体の中にある事がわかる。これが魔力回路の様だ
キルスが「次は属性を見るわ」と言う
されるがままにしていると
「凄いわね。シンクは6属性全部使えるわよ。しかも炎はもう解放されているわ……しかも精霊契約じゃないわね。これは……炎神と契約されているわ。凄いわね」
「どういうこと?」
属性はその基本はその系統の精霊と契約して使えるらしい
しかし僕はキルスが見た所、全ての属性の神に気に入られているらしい。しかも炎は契約済みで既に使えるらしい
僕をこの世界に送った幼女が炎の神様の様だった
また、神と契約した者は極稀で歴史上でも僅かな例しかないらしい
早速、炎魔法を使ってみる
ちなみに、精霊と契約して現象を起こす事を魔法
媒体術式を用いて一度きりの契約を行い使う事を魔術という
僕が使うのはいつの間にか契約していた魔法だ
ターゲットは卵だった
キルス曰く魔力は注げる限り注ぎ込んだから後は死ぬ程暖めるらしい
僕は体内を通る魔力を目を閉じて感じ出口を右手にし掌に集めて行く
今度は右目に魔力を集めると掌の魔力が見える
そのまま炎をイメージする
イメージするのは酸素を供給した青い高温の炎だった
掌にソフトボール大の炎が出来るが掌が焼け焦げる
焦げ臭い匂いが漂う中でキルスに掌も魔力で纏う様に注意を受けた
痛い思いをしながら右手も魔力で覆うと熱さを感じなくなった
最後はありったけの魔力を右手に集めると10m程の火柱が掌から伸びる。それを凝縮する様に外側を魔力で覆い元のソフトボール大まで縮める
そして出来た炎玉を卵に放つと豪炎と言えるほどの炎が卵を覆う
この炎はシンクの魔力で燃えている。要するに消える事は誰かが打ち消すかシンクが回収するまで無い
余りにも飛び散った炎は掌から魔力を紐の様に伸ばし先端で吸い取る様に回収する
卵だけ炎で覆う様にしてからも魔力操作の練習をキルス監修の元でし続けて2日経った
この2日間で随分と魔力操作を学んだ気がする
おかげで魔力を使える様になったから文句などある筈がなかった
さらに1週間が経った
卵は時折左右に揺れたりしている。そろそろ生まれるかもしれない
キルスはまだかまだかと気が気じゃなさそうだった
シンクも魔眼を鍛えて透視を覚え、更に鑑定まで使える為に卵の中にいる生き物の事を考えると興味はあった
そんな事を考えていると卵にヒビが入った
キルスが卵の前に待機している。それにつられ僕も卵の前に移動した
ヒビは徐々に大きくなっていき遂に殻が割れ落ちた
中からは
「キュー」
と鳴き声とともに竜が生まれた