本の虫〜11月の図書館〜
カレンダーをめくり、もう11月なんだ とため息が漏れた。
ついこの間高校生になったような気がする。
ついこの間近藤君と知り合った気がする。
あの夜 近藤君の隣で隠れて泣いたあの日が
昨日のような気がする。
1ヶ月前のことなのに。
近藤君の気持ちが本の中の女の人へ向いていたとしても、きっと私のほうがそばにいる。
それだけでじゅうぶんだと思うことにしよう。
制服を着て、外に出る。
もうかなり肌寒くて、少し前に制服も冬服に完全移行していた。
既にセーターやカーディガンを着てる人も多い。
マネージャーは制服で朝練に参加してもいいからジャージで外を歩かないで済むのがうらやましい!ってテニス部の女子が言ってたのを思い出し、1人で笑った。
確かに、近藤君の前でジャージは着たくないかも。うちの学校のジャージってダサいし。
そんなことを考えてるうちに学校に着いた。
グラウンドには誰もいなかった。
と、思ったら部室に近藤君がいた。
近藤君はベンチに座って本を読んでいた。
寒いのに集中していて、私には気づかない。
思わずくすりと笑った。
それでようやく近藤君は顔をあげた。
「あぁ、おはよう。」
「おはようございます。朝から何読んでるんですか?」
「んー、昨日の夜ちょっと読んだら止まらなくて。気づいたら寝てたんだけどね」
表紙を覗き込むと見たことのない小説だった。
「誰の本ですか?」
「よくわからない。図書館で見つけて適当にかりたんだ。でもおもしろいよ」
「へぇ」
相槌をうって、それ以上話しかけるのはやめた。
本当に本を読みたい時、邪魔はされたくないものだってことが私にはよくわかってた。
だから話しかけたりはせず、隣に座ってボールにういた土を取ることにした。
小さなボールを1つずつ撫でる。
「・・・爪に土が入るよ」
近藤君がぼそりと呟いた。
「平気です。」
「・・・そっか」
近藤君は本を閉じるとかばんに閉まって背伸びをした。
「読み終わったんですか?」
「ううん、きりがいいからやめておいた。そろそろ準備しなきゃね」
そう言って近藤君は笑うと『寒い』といって震えた。
「カイロありますよ?使います?」
「ううん、平気。どうせ走ればあったまるし。」
近藤君は立ち上がってあくびをした。
その瞬間、ふわりとオレンジの優しい甘いにおいが鼻の中に広がった。
「・・・いいにおい」
思わず言うと近藤君が不思議そうにこちらを見る。
「近藤君、オレンジのいいにおいがする。」
「あぁ、朝食べてきたし・・・飴も舐めてるしね」
そう言って近藤君は笑った。
「私、近藤君のそのオレンジのにおいって好きなんです。なんか落ち着く」
「そう?飴、いる?」
「はい、もらいます」
私がそう言って手を出すと、その上に近藤君が飴を置いた。
「俺はね、小川さんの隣が結構好き」
「え?」
「なんか落ち着く。気つかわなくていいんだよね」
近藤君はそう言って笑うと部室を飛び出していった。
部室に1人、残された私は頭を抱えていた。
どうすればいいんだろう?
この気持ちは、どうしたらいい?
『近藤君のそのオレンジのにおいって好きなんです。』
私の微妙な告白に、近藤君は気づいただろうか?気づいていないのだろうか?
『小川さんの隣が結構好き』
この言葉を、喜んでもいい?
こんな風に顔を赤らめて、心臓をばくばくいわせて 喜んでしまってもいいですか?
「・・・やっぱ、好きだ」
小さな声で呟いて深呼吸をする。
まだかすかに、オレンジのにおいが残っていた。
私は手の中にあるオレンジの飴をそっとかばんにしまった。
食べてしまうのなんてもったいない。
近藤君、どうしたらいい?
この気持ちは、どうしたらいいの?
伝えても、いいですか?
桜の木がすっかり葉を落として、私達と同じように寒さに震える11月のことでした。
なんか久しぶりの投稿です。
近藤君が春ちゃんをなんて呼んでるのかとか忘れていて、前のを読み返したりしました;;