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緋色の将軍カルレイン2<上>①

 これは、『緋色の将軍カルレイン』の続きとして投稿していた短編『緋色の将軍カルレイン2<上>』を修正して再投稿したものになります。(短編の方は既に削除済み)


 『お願い』を賭けた攻防戦から二ヶ月。軍部では将軍同士の笑いあり、涙あり、野次ありの熾烈な争いが始まろうとしていたーー。これは≪緋将軍≫カルレインと≪侯爵令嬢≫メルリアの、縁が続く切っ掛けのお話。

 サースビルグ城攻防戦ーー。


 それはフリューデン王国を護る王国軍第二部隊を指揮する≪緋将軍≫カルレインと、王国でも長い歴史を誇る貴族≪ユーグリフ侯爵家≫の令嬢メルリアの、王城で繰り広げられた『お願い』を掛けた熾烈な戦いだった。

 激闘の末、メルリアの勝利で一応の決着を見せたがその後も度々二人の攻防は目撃されている。


 あの攻防戦から二ヶ月。

 二人は再び公の場で顔を会わせる事となる。



     ◆◇◆



「我がフリューデンの力の象徴達よ!待ちに待ったこの日がやって来たぞ……!」

『うおぉぉぉぉぉ!』


 観客席から野太い歓声が空へと上がる。

 場所は闘技場、天気は晴天。絶好の試合日和だ。

 そんな中、観客席でも数段高い席に座っていた壮年の男性が立ち上がり演説を始めた。


 彼の名はライオネル・フリューデン。


 フリューデン王国の国王陛下である。

 齢四十五とは思えないほど若く、陽の光で輝く金髪と海を連想させる深い青眼はさながら物語に登場する主人公の様。国内外から賢王と謳われ、政治的手腕も素晴らしいの一言に尽きる彼は国民からも愛されている。


「昨年度は帝国との戦争によって開催することが出来ず、非常に残念だった。王国の勝利の為にと割り切り軍の武勇伝だけで我慢したのは、今にしてみれば良い思い出だ」

『我々も残念でしたー!』


 この催し物は軍のお祭りの様なもので、関係者以外の参加は認められていない。

 その為、観客は全てが軍人。

 もちろん、先程から国王の演説にいちいち返事をしているのも軍人達だ。


「本当のことを言うと、戦場と同じぐらい軍部の行く末にも不安があった。何せ昔が酷かったのでな……しかし、皆の顔を見ると余の心配事など杞憂のようだ」

『もちろんです陛下ー!』


 何も知らない者が見たら、どこの舎弟だと思ってしまう光景である。

 このように国王は軍部から圧倒的な支持を得ているのだが、その理由は彼の行った改革にあった。




 帝国との戦争が始まるまで、国の軍は腐敗していた。

 上層部による官僚との癒着や貴族からの横流し、部下への横暴な折檻等々。甘い汁を吸いたい輩の巣窟と成り果てていた。王が軍部に再三態度を改めるよう促したが、反省の色は無く逆に強気な姿勢を崩さない始末。彼らの対応には手を焼いていた。

 しかし、実らない押し問答を続けているうちに最悪の事態が起こってしまう。

 常々フリューデンの豊かな土地を欲していた隣国の皇帝が、この事実を知ってしまったのだ。

 帝国から宣戦布告の書状が届き、城内は騒然となった。

 連日徹夜の会議が開かれ道を模索し、王は帝国に降伏する道を選んだ。

『守護の要である軍部は使えない者達の集まり。強大なを持つ帝国には敵わない』と言い捨てて。


 だが、それに否を唱える者が現れる。


 王太子であったライオネルだ。

 父王の怠慢を指摘し王として相応しくないと人目を憚らず罵ったライオネルは、彼を王宮の奥に幽閉。戴冠式を緊急事態ということで略式で済ませると、素早く始めたのが穀潰し同然だった軍部の強行改革だった。

 無論、上層部の強い反発にあった。

 ぽっと出の王子に何が出来る、と。

 ライオネルは怯まなかった。

 彼らを黙らせる秘策を携え軍部に乗り込み、荒療治とも言える方法で膿みを一掃したのだ。また、少人数の精鋭部隊を戦場へと送り込み国境付近まで接近していた帝国軍相手に足止めの奇襲を成功させた。


 即位して間もない王は、破天荒だが采配に隙がなく有能であるーー。


 この評価と共に彼の英断は瞬く間に広がった。

 その後、新たに編成した軍部は負け無しの奮闘ぶりを見せ、遂に勝利を捥ぎ取り国へと凱旋した。

 ーーサースビルグ攻防戦の数ヶ月前の出来事である。




 王位争いからの軍部改革。おかげで軍部の彼に対する評価はうなぎ登りだ。

 瓦解寸前の軍部を短期間で一枚岩に生まれ変わらせた国王ライオネル。忠誠を誓うことはあれど、嫌いになる者はいない。


「余も王国を護りし≪剣と盾≫がこの七年でどれだけ磨かれたのか楽しみである」


 父王と違い、国王はどの部署の催し物にも参加している。

 人が楽しそうに笑う姿を見るのが好きらしく、進んで行事を企画することもあるらしい。

 今も嬉しそうな表情で軍人達を見ている。

 そう、現国王はきちんと臣下を瞳に写しているのだ。


「そろそろか……。よし、ーーこれより、恒例の『序列争奪戦』を開始する!!」

『おぉぉぉぉぉ!』


 だからこそ、自分達を『ちゃんと見てくれる王』に自分達の自慢の将軍の力を見てもらいたい。

 そんな思いからか、会場を轟かせる歓声には実に熱が入っていた。




 『序列争奪戦』とは年に一度行われる部隊の順位を変動させる行事である。

 部隊を纏める将軍同士が自らが率いる部隊の格を上げる為、戦うのだ。

 ではどこが『争奪戦』なのか。

 簡単な話、将軍が従える部隊の『数字』を賭けて奪い合う。

 『数字』とは、例えば第五部隊なら『五』。

 これが軍の中での部隊の順位に当たる。

 また、数字が小さければ小さい程≪位≫が高い。

 その為、一番≪位≫が高いのは第一部隊だ。

 もし第七部隊が第三部隊に勝てば、次から『三』を名乗る事が出来る。

 逆に第三部隊に負ければ順位は現状維持となる。

 しかし、部隊の順位はそのまま将軍の実力と同義。

 差もはっきりと表れているので、易々と欲しい『数字』は手に入らないのが実状である。

 下位の将軍にとっては下剋上の場であり、上位の将軍にとっては挑戦者を迎え撃つ場。

 それが『序列争奪戦』なのだ。




 王国軍には第一部隊から第八部隊まで存在しており、これを纏める将軍八人を≪八将軍≫と呼ぶ。

 部隊に入る者は皆が優秀で、戦地では前線に立ち仲間を鼓舞して敵を狩る。

 彼らの姿は兵達の憧れであり目標でもあった。

 しかも、現将軍達は近年稀に見る強者揃い。

 どう転ぶか判らない勝敗の行方は無視出来るものでは無い。


「さて、さっそく我が王国が誇る≪八将軍≫に登場してもらおうか」


 なのに、


「陛下!至急の知らせです!!」


 良いところで流れを遮ったのは近衛と思われる騎士であった。

 会場からは不満が上がったが、騎士はおかまい無しに国王に近づいて膝を折る。


「何事だ」

「第四部隊≪蒼将軍≫ケルン・ユーグリフ様が食当たりで重症とのこと!」


 会場が俄にざわついた。

 国王も思わぬ知らせに眉を寄せた。


「≪蒼将軍≫が、食当り?」

「はい。それと一応、会場には来ているのですが……」


 騎士が言いにくそうに口籠る。

 すると、



「遅れて申し訳ありません!国王陛下!!」



 この場には不釣り合いな可愛らしい声が聞こえた。

 皆がそちらへ振り向くと。

 そこには一人の少女がいた。


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