-5-
「勘違いをしないで頂きたい。私はただ、確証が欲しいのです。これまでの一連の流れは決して、謀略などではなかった、という確証を」
「え?」
最初は何のことだか、わたしには意味が分からなかった。でも、そんな古龍王さんの真剣な眼差しを見つめているうちに、それが薔薇の騎士団の件だと理解した。
つまり、薔薇の騎士団が移籍したのは、そもそもの『計画』があってのことなのか。それとも、ただ単に『偶発的』なものだったのか。
もし、計画的なものだとすれば、それにはきっと冬馬さんが関わっている。
だから!
「あのっ、つまり……それで、冬馬さんに?」
「ええ……そのつもりでしたが。どの道、彼に聞いたところで何ひとつ答えてはくれないでしょう。ですから、今あなたにお聞きしたい。
実のところ、どうだったのかを」
「──!!」
わたしは、思わず言葉に詰まった。だって、実際のところどうだったのか、詳しいことはなにも聞かされていない。だから、直ぐには答えられなかった。
そうして困り顔で悩むわたしを古龍王さんは真剣な眼差しのままに見つめ、ふっと軽く笑み、口を開いた。
「いや……なにも今すぐにとは言いません。とりあえず、アルケミフォス討伐を始めませんか?」
「そ、そうですね! では、始めましょう!」
「「「にゃにゃん!!」」」
何とも申し訳ない気持ちを感じながら、幻獣アルケミフォス討伐を開始した。
幻獣アルケミフォスが居る周辺は、相変わらず深い霧が立ち込めていて視界が凄く悪かった。
その中に、ルミナスオーブ光を発しながら見え隠れしながら移動する大型モンスターの気配を感じる。そして、不思議とレーダーには全く反応がない。が、間違いなくそこに居る。
「古龍王さん、アルケミフォスは《トレラント・ブレイク》を使うことで始めてダメージを与えられます。それから、このモンスターは全方位攻撃を仕掛けてきますから、ご注意ください!」
「了解した!」
「では、いきますね!」
わたしは素早くスキルセット内から《トレラント・ブレイク》を選択し、発動!
そろそろ使い慣れてきたスキルだけど、流石に最高位召還術士スキルだけあって、その消費精神力は相変わらず半端ない……。瞬間、意識を失いそうになるほどだから。
毎回のことだけど、カムカの実だけではとても追いつかないので参るよ。
わたしがそうこう思っている間にも、スキル発動と同時にわたしの身体は勝手にスキルと連動動作し、左右の手と腕を大きく動かし掌の上辺りに光を発しながらそれを合わせ、ターゲットである幻聖獣アルケミフォスへと《トレラント・ブレイク》を仕掛けた。
不思議な光を放ちながらそれは当たり、アルケミフォスはそれでこちらに気づき、威嚇してくる。
それよりも問題はこのあと!
《トレラント・ブレイク〈成功〉30%》
〔全耐性-23%ダウン。防御力-17%ダウン。効果時間:2分〕
「──ぐはっ!」
微妙な成功率。だけど、失敗しなかっただけマシかー。
「流石はアリスさまっ! お見事です!!」
「アリス、ナイスだ!」
「古龍王さん、いきますよ!」
「ああ、わかった! 任せておけ」
「微妙な成功率だが、悪くはない!」
「行くにゃりぞー!」
「アリス、補助もお願い!」
「うん! わかった!!」
わたしは即座に、上級・召還術士魔法 《ゴッデス・ウィング》をシェイキングして掛ける。
デッキパーティー全員の行動速度その他が、180パーセント上がった。
それから直ぐに、白魔法〈フィラルザ〉と黒魔法〈ベスティファル〉の2つ魔法をほぼ同時に発動、そして上級・召還術士スキル〈フェルフォルセ〉を唱えた。
「《デルタフィルホールド》!」
途端、デッキパーティーみんなの防御力と耐魔法が上がる。
更に続けて〈ティアラス〉〈ザグラスト〉の2つ魔法を発動し、〈フェルフォルセ〉を唱え、《リミットオーバーキル》を発動する。
デッキパーティー全員の攻撃力と魔法打撃力が増大した。
これで魔法を発動する精神力がほぼゼロになるので、急ぎカムカの実をポリポリと食べる。少しずつ回復してるけど、やはりこの回復ペースでは間に合いそうにない。今回も魔聖水を使う他ないよねー?
わたしは悩み顔にそう思いつつ、軽くため息をつき。そこで気持ちを切り替え『魔聖水』を取り出して、グビグビっと一気飲みっ!
精神力が全体の半分ほど回復っ!!
ぅあ~、貴重な魔聖水が……なんか泣ける。とにかく、この間にも『カムカの実』を少しでも多く食べて回復させるしかないよね?
ポリポリっ!!
ただでさえ、前に壊れた籠手も新たに手に入らない状態で、凄く悲惨な財政難が続いてた。今回でアルケミフォス討伐も5回目になるけど、レア装備を拾えたのは、初回の一回のみだったりするから参るよ。
お願いだから、今回は何か落としてくださいっ!
わたしはそんな思いで、半泣きしながら挑んだ。
幻聖獣は偶にその姿を消し、唐突に全く違う場所に現れ、わたし達に攻撃を仕掛けてくる。また、分身のような幻獣を沢山呼び出しては撹乱し、全方位衝撃波型の魔法を使ってくる厄介な相手だ。
「む! これが全方位攻撃か……確かに、厄介だな」
古龍王さんはその都度、周りの動きを確かめながら慎重に様子を窺い攻撃を仕掛けていた。流石に猛者だけのことはある。意外なほど、戦い方は丁寧。
アルケミフォス討伐はかなり順調で、6回目のトレラント・ブレイクで成功率80%を出し、一気に部位破壊成功し、凶暴化するところまで遂に来た。
めちゃくちゃ早いっ!
「古龍王さん、もう間もなく倒せますが、油断なく!」
「分かった! 気をつける。──ッ!?」
その時、アルケミフォスは何故かわたしの方をジッと見つめ、突進して来た。
「──わっ!?」
「アリスっ! 急ぎ逃げろっ!!」
そうは言われても、急には無理だよ!
わたしは怯え慌てて両腕を前の方で組み、防御の構えを取ってはみたけど。ボス級レアモンスター相手では、絶望的としか言いようがない状況。
だ、ダメだ! やられちゃうっ!! このままだと、また装備品が大破する……っ!?
そう思い半泣きしながらも、わたしは身体が震えその場から動くことが出来ず、目を覆うしかなかった。が、
「なにをやっている! 強引にでも、こういう時は押し切るんだッ!!」
古龍王さんはそう言うと、大技を繰り出し、アルケミフォスを仰け反らせ、その動きを封じ止めた。それを見て、他のみんなも力強く頷き、一斉に動く!
わたしもそれに遅れつつハッとし、両手でグッと杖を握り締めると。直ぐにトレラント・ブレイクを仕掛け、更に補助魔法をみんなへ急いでかけた!
そうした激闘の末、幻聖獣アルケミフォスは咆哮を上げ、光り輝く塵と化しながら閃光を放ち、崩壊消滅してゆく──。
「──す、凄い!!」
その強さは、恐らく天龍姫さんに劣るものではない。半端なく強いよっ!!
「あ、あのっ! 古龍王さん、ありがとうございました!! お陰で助かりました!」
「いや。こちらこそ、色々と学ばせて頂きました。感謝したいのは、むしろ私の方ですので」
ぅわ! 好感度も、めちゃくちゃ半端ないよっ!! カッコイいーっ!!
「それにしても……毎回これでは大変だ」
「え?」
古龍王さんは、わたしの方を見つめ軽く微笑みそう言った。たぶん、今にも大破しそうな装備だらけだからだと思う。
「あはは♪ まあ……いつものことなので」
いやまぁ~実際、情けないよねぇー。本当に足手まといだ、わたし。
そう思っていると、古龍王さんがこう言った。
「よろしければ装備品ドロップを狙い、今度ヴォルガノ狩りをお手伝いしますよ?」
「わ、ぅわっ! ありがとうございます!!」
オマケに凄い優しいーっ。良い人だあー!
「アリスさまっ! この私も当然っ、手伝いますからっ!!」
「もちろん、私も手伝うよっ、アリス!」
「オレ達も手伝うからさ、安心しろ」
「わ、ぅわっ! みんな、ありがとうー!!」
わたしって、幸せ者だあー♪
古龍王さんはわたし達のそんな様子を見つめ、ふっと笑み、口を開いた。
「何にしても、今日はここまでですね。装備品を修理しないことには、とても危なくて行けそうにない」
「は、あはは……」
それもそうだよね? 大破したら、それこそ意味がない。それに、時間も時間だしね。
「じゃあ、今日はここまでということで。解散にしますか!」
「「「にゃにゃん♪」」」
「ハハ! いや、とても楽しい1日でした。では、私もこれで!
冬馬殿にも、よろしくお伝えください」
「──! ……ぁ、あのっ!!」
それで行こうとする古龍王さんに、わたしはつい声を掛け引き止めてしまった。古龍王さんは怪訝な表情を浮かべ、こちらを見つめている。
「ぁ……いえっ! あはは、何でもないですっ。あはは♪」
わたしはそう言い、困り顔に苦笑う。
冬馬さんの名前に、つい反応してしまったけど。腫れ物にはなるべく触らないのが賢明だよね?
そう思い、わたしが作り笑いを浮かべたまま何も言わないで居ると。古龍王さんは肩をすくめ微笑み、また軽く手を上げ去ろうとする。その何気ない微笑みが、この時のわたしの胸を、チクリと刺した。
「…………。す、すみません! 古龍王さん!」
「「「──!?」」」
「バ、アリス!」
「あ……そのっ、なんと言えば良いのか…。と、冬馬さん達のやったことが故意か、そうでなかったかについて言うと。わたしには正直いって、細かな詳細についてはよく分かりません。で、ですが、冬馬さん達はあくまでもわたしの要請に従い、行動しただけのことなんです!
なので、ギルドの責任は全て、GMであり代表である、わたしにあります! ですから!!
「…………」
「ですから……その…」
情けないけど、余計なことを場の勢いで勝手に言い出しておきながら、そのあとの言葉が上手く続かなかった。しかも、ガタガタと身体が震え、止まらない。わたしって……バカだ。
そんな中、古龍王さんは何かを悟ったかのように、ふっ……と笑み言った。
「分かりました。事情は大体、理解出来ました」
「──!!」
「しかし……」
古龍王さんはそこで真剣な表情を見せ、口を開く。
「私もまた、同じくGMであり、連盟の代表なのです。あなたの気持ちを察して上げることは出来るが、理解して上げる訳にはいかない」
「……ぁ」
古龍王さんの言い方は、それでも凄く静かなものだった。それはとても、大人なほどに。
わたしは、そんな古龍王さんの表情を悲しげに見つめ、「……はぃ」と元気なく俯く。と、
「ただ……あなたは、とても正直な御方だ。わたし個人としては、あなたを好きになれたのかも知れない…」
──!!
古龍王さんはそう言ったあと、この場から黙って立ち去っていった。
この時、わたし達はもしかすると、一番信頼出来る相手を……敵に回したのかもしれない。
【第三期】、第2章《信頼と後悔と》おしまい。
本作品に対する感想・評価などお待ちしております。今後の作品制作に生かしたいと思いますので、どうぞよろしくお願い致します。