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アストガルド・ファンタジー  作者: みゃも
【第三期】、第1章《マイハニー》
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-2-

 わたし達はそのあと綿菓子を買って仲良く食べた。

 因みに、さっきの女の子も一緒。頬に綿菓子を沢山付けながらだけど、凄く嬉しそうな満面の笑みでアムアムと食べている。

 女の子の名前は、神家弥鈴(かみやみれい)。今年の春に中学生になったばかりで、思った通り、この神社の宮司様をやっている神家基輔(かみやもとすけ)さん (34歳)の1人娘らしい。そして昨日同じく並んで弓矢を教えていた潮間冬樹(しおまふゆき) さん(23歳)は、現在修行中で、境内から少し外れにある同じ屋敷に住んでいるんだってさ。



「へぇ~。じゃあ弥鈴(みれい)ちゃん、ゆくゆくはこの神社の女宮司様になるの?」

「いえ、モグモグ……そんな気は更々ないです。うちのバカ親父はそのつもりのようですが、神職なんて儲けない仕事やっても先が知れてますから、その前に自分の可能性を開いてみて、それでもダメだった時に初めて戻って来る程度のものですよ」

「儲けない? そんなことはないだろう……というか、儲けるとか儲けないとかそういう問題なのかぁ? だって神職なんだろう??」


「……ふん、余りきれい事ばかり並べて言うな、花藤。アムアム……今日のような祭事もなく、奉納品も偏った月などは、モグモグ……草や芋ばかりを喰うて過ごしておったものだ。その惨めさと切なさなど、到底解らぬだろう? 米が奉納された日には飛んで喜んだほどだ」


 わたしは弥鈴ちゃんの話を聞いて驚く。


「これだけ大きな神社なのにっ?!」

「そうだよね……とてもそんな風には思えないんだけど…」


 どうやら真中もわたしと同じ意見みたい。

 でもその隣で弥鈴ちゃんは頬に綿菓子を沢山付けたままわたしの方を見上げ、困り顔に口を開いた。


「大きいと言っても、神社としては並み程度ですよ、アリス様。それに、この直ぐ近くにはここよりも遥かに立派な神社があるので、主な収入源である冠婚・祈祷・お祓いなどは、みんなそこへばかり行くのです。御守り1つ売るにも、昨日のようなイベントでもやらない限り、なかなか売れませんので」


 その話を聞いて、わたし達は互いに肩をすくめ合った。確かに、この近くには此処よりも大きな神社があって、とても有名。正直なことをいうと、つい最近までここに神社があることさえも知らなかった。だけど、目の前の賑やかかお祭りを見ているととても想像出来ない。


「お陰で毎月のお小遣いは500円のみなんです。学校の帰りに友達と買い食いなど、私からすれば、それこそファンタジーですから」

「あらら……」


 そう言えばさっき綿菓子を買う時にも、弥鈴(みれい)ちゃんはとても困った表情をしてた。結局はわたしが弥鈴ちゃんの分も出して上げたんだけどね。

 色々と話を聞いているうちに綿菓子を美味しそうにパクパクと食べるその様子が、キュンとするほど愛おしく感じてしまう。


「じゃあ、弥鈴ちゃんのお父さんの代で神職は終わり?」

「いえ、恐らくそうはしません。婿を取るか養子縁組みをするなりして誰かに家を継いで貰うことになると思います。何しろうちはこれでも代々続く社家の家柄ですから、そんな簡単には潰しませんよ。もっともうちのバカ親父はそれを潮兄(しおにぃ)にと考えているようですけど……潮兄ほどの人が、私なんか相手にしてくれるのか実に怪しいもので…。

あ! 潮兄(しおにぃ)は、うちで下宿修行中の潮間冬樹って方で、つい5年程前からうちに居着いているのです。実は今日のこのお祭りにしても昨日のイベントにしても潮兄の考案で、本当に凄い人なんですよっ! 

おかげで今は、少しだけ余裕が出てきたんです」


 弥鈴ちゃんはその潮兄?さんの話をする時、終始ニコニコ顔。余程好きなんだなぁ、と思った。とても素直で本当に可愛い。

 その時、弥鈴ちゃんの顔が七色の眩い光に染まる。


「──あ! 花火っ!!」

「お! ホントだあーっ!!」


 夜空を見上げると、鎮守の杜の向こうに大きな音と共に光の花びらが鮮やかにパッと開いていた。


「アリス様、こちらに来てください!」

「え? なになに??」


 わたしは弥鈴ちゃんから急に手を引かれ、大鳥居を抜け、左手の小さな境外社の脇にある『関係者以外立ち入り禁止』の立て札がかかっている戸を開け、「こちらです!」と更に引っ張られる。だけど此処、良いのかなぁ?と思ったけど、考えてみたら弥鈴ちゃんは関係者だから……いいのか?

 

 間もなく鎮守の杜から少し突き出した石垣の広場に出た。そして直ぐ目の前で、花火が大きな音と共にド迫力でドーンと開く。



 凄いっ! ここ特等席だ!!



「たまやぁあ~!」


 弥鈴ちゃんがそこで笑顔一杯に元気よくかけ声を上げていた。それを見て、わたしも真中と花藤さんと一緒に笑顔で花火に向かってかけ声を上げる。


「かぎやあー!」

「たーまや~!」

「かーぎやぁ~!」


 それに遅れて太一たちも楽しそうにかけ声を上げ、花火の音と光に彩られながら、わたしたちは心ゆくまで楽しみ笑い合った。




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