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「……おかしいな、そろそろの筈なんだけど」
「??」
天山ギルド本営軍の来襲から、既に15分近くが経っていた。決戦も時間的に後半に入り、みんな疲れ始めている。
ここまで何とか抑えて来たけど、流石に数で勝る天山ギルド本営軍が、徐々に優勢な気配となっている。
北南西東の四カ所それぞれを守る軍も、1人また1人と倒され、その数を次第に減らし弱体化してゆく。
グランセルさんの軍も数が随分と減り、油断した瞬間に突破され、女神イルオナさんを狙い突撃してくる頻度も明らかに増えていた。
もちろんそれを、わたし達のデッキ軍が迎え撃ち撃破!!
そんな最中、冬馬さんがポツリとそう零していたのだ。
そろそろって、何がなんだろ??
「このままだと拙い! 本当に突破されるぞ!! 何か他に、策はないのか?!」
ミレネさんだ。
その気持ちは分かるけど、ここまで頑張れただけでも凄いとわたしには思えていた。
もちろん、まだ諦めるつもりはないけど、ここまでやれた。それだけでもう、悔いはないから。
その時、そう思うわたしとミレネさんを冬馬さんは肩をすくめながら見つめ、この状況には似つかわしいないほどに落ち着いた様子で、口を開いてくる。
「……開戦当初から予測されていた、最悪に対する最良の一手は、既に打っています。
あとは、その時を待つだけなのですが…」
「最良の?」
「……あの、その時って??」
わたしが聞いたのとほぼ同時に、みんなのどよめき声が城内に響く。
「──え、なに??」
「アリス、世界チャットみてみ!! 凄いことが起きてるよ!」
真中だ。
何だか興奮気味で、それにはどこか笑顔さえ垣間見える。
「凄いこと……って? ──あ!」
言われ世界チャットを見ると、そこには……ギルド古龍王老を中心とした《対・天山ギルド本営》軍が、天山ギルド本営の拠点『天空の城』へ攻撃を始めたことを伝える情報が乱打されていた。
今や、世界チャットはその情報を元に、騒ぎとなっている。
そんな中、『対・天山ギルド本営』GM古龍王による正式な声明が、世界チャットで発言され始めた。
『我が《対・天山ギルド本営》は、現在友好関係にあるギルド《黄昏の聖騎士にゃん》への《天山ギルド本営》の不当かつ不誠実な行動に対し。緊急救援措置行動を取ることを、ここに決意した。
これにより、我々は正式に《天山ギルド本営》へ、宣戦布告する!
そして、この勢力内に居る他ギルド連盟及び、皆にも伝える……この戦いに於ける正義は、我々にこそある!
これに賛同する者は是非、我々と共に打倒天山となり戦って頂きたい。
以上だ』
「「「──!!?」」」
きっとその情報を見てのことだと思うけど、天山ギルド本営軍が慌ただしく3軍だけ残し、この炎の城から全軍撤退を始めていた。
「宣戦……布告? 友好関係?? ……まさか、コレって…!」
わたしは慌て、冬馬さんを見つめた。
冬馬さんはこの出来事に対し、驚いた様子を見せることなく、それまでと変わらずとても落ち着いたまま状況を確認しているみたい。
その様子を見て、わたしは「やっぱり……」と確信し、そんな冬馬さんを厳しい表情で見つめた。
それからふと、さっき冬馬さんが言った言葉を思い出す。
「……最悪に対する、最良の一手」
きっとそれは、この事なんだと思う。
だけど!
「アリス様、やりましたよ!! これで私たちの勝ちです!
……え? あ、あの、アリス様??」
「…………」
わたしはこの時、喜び勇んで来るミレネさんに、思わず苦い顔を見せてしまっていた。
◇ ◇ ◇
一方、その頃。天空の城、付近にて。
「……くそ、天山め。大々的に世界チャットで宣戦布告しておきながら、本軍は『天空の城』に留め置いていたか。
意外にも用心深いものだな……それともこれは、単なる偶然かぁ?」
「ふん……『天山の主だった者達は《炎の城》へ向かっている筈だから、今が狙い目』か…………クク。よくも平気な顔して、あんな戯れ言を古龍王さんに言えたものだなぁ?
なぁ、フェイルモードさんよ。
が、まぁいいさ。今なら戦力的にこちらが優勢なのは、間違いねぇからなぁー。
なぁ、そうだろう?」
「……」
アリス達が炎の城で激闘している丁度この時、『対・天山ギルド本営』サブGM補佐ゲシュトバールを中心とした軍勢が、天空の城を攻め始めていた。
その数、およそ20軍。
戦略参謀役としてゲシュトバールの脇に控えるバヌーは、現状を苦い顔で見つめ。更に、その隣に居た『対・天山ギルド本営』連盟サブGMであり《薔薇の騎士団》GMでもあるフェイルモードを厳しい表情で見つめ言い、その真意を確かめ探るかのような様子を見せている。
先程バヌーが言った内容は、フェイルモードがGM古龍王に進言したものだったからだ。
しかし、
まったく、つくづく他人を信用しない男だな。戦略的判断としては、大きく間違っちゃいなかっただろうに?
まぁもっとも今回ばかりは、言い訳なんか出来そうにないんだがね……。
フェイル=モードはその様に密かに思い、軽く肩をすくめたあと、やれやれ顔で口を開く。
「申し訳ないが、私はただ単に作戦提案をしてみただけのことで。これを決めたのも、そしてこの軍数で攻めることを最終的に決めたのも、私ではなく、古龍王殿とバヌー殿だったと記憶しますが?
しかも、『これは良い作戦だ』とつい先ほどまで浮かれ喜んでいたのは、何処のどなたでしたっけ?」
「…………へぇ。つまり、古龍王は《バカで間抜け》で。このオレについては、《目算の甘い愚か者》そう言いたい訳だな?
フェイルモード殿」
「まあ、待て! 今は内側で揉めている場合ではない。既に攻城戦は始まっている。数が足りないなら、直ぐに支援を要請すれば済む話だ。
そうだろう?」
「……チッ、分かったよ。
おい、そこのお前! 急いで支援を要請しろ!! あくまでも、お前の名前でな……てめぇー、オレの名前なんか一言でも出すんじゃねぇぞ!」
「え? あ、はいっ!!」
「…………」
当初、天空の城に留まっている軍勢は精々6軍程度だと見込んでいた。
が、城内外から次々と現れ10軍以上もの数を直ぐに編成し、こちらを囲みながら向かって来ている。
数の上では、それでもまだこちらが優勢ではあるが……どうやらこの戦い、楽は出来そうにない。
何せ城内には、GM天龍姫を含めた多数の上位ランカーが揃う《天山ギルド本軍》が布陣して居る。
これは本当に、予想外の事態だ。
まさか本軍が宣戦布告したにも関わらず、ここで動かずにジッと待機して居るなんてな。参ったね。
予定としては、この天空の城を〈最後の置き土産〉として確実に陥落させるつもりだったんだがなぁ~……。
バヌーの目算の甘さというよりも、今回のこれは。天山が思いの外、黄昏に対し、わざわざ宣戦布告までしておきながら差し向けた軍勢の数が予想よりも少なかった、と言うことか?
しかし、何故だ??
「おいおい、とまやん……まさかコレも、計算の内だ、なんて冗談でも言わないでくれよ。頼むからさ」
このあと、炎の城から戻って来る軍勢との衝突も十分に予想される中。フェイルモードは、どうやって被害を最小限に留め凌ぎ、この一連の流れを予定通りの戦略導線上へ向かわせたものかと真剣な面持ちで思案に耽っていた。
【第二期】、第8章《最悪に対する最良の一手》おしまい。
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