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アストガルド・ファンタジー  作者: みゃも
【第二期】、第8章《最悪に対する最良の一手》
80/213

-3-

 炎の城は既に、多くの天山ギルド本営軍から包囲されていた。その中へ、わたし達パーティーはかなり強引に突っ込み、城内へと血を流し傷だらけになりながらも何とか入る。


 でもこれで装備品がかなりやられた。所々破れ、肌が見え始めている。

 今回の戦いで、装備品を幾つか失うのは確実かも……?


 城の門付近では、グリュンセルのギルドメンバー達が城内への侵入を防ぐため、懸命に戦ってくれている。


 恐らく他の城門でも、ここと同じ状況なんだと思う。



「みんな、大丈夫ですか!?」

「ああ、お陰で皆なんとか大丈夫だ」

「それよりも状況確認する為にも、早く冬馬のところへ行こうや!」


 ザカールさんに言われ、わたし達は頷き、息を付く間もなく冬馬さんの元へと急ぎ向かった。


 冬馬さんは、炎のエレメント・女神イルオナのその足元であぐらをかいて座り、静かに目を閉じ考え耽っているようだった。


 その冬馬さんの前には、無数のマップ情報やチャットが並べられている。恐らくは、そこから得た情報を頼りに、指示を出してくれてるんだと思う。


 目を閉じているということは、全てボイスチャットに変換して、音声で聴き流してるのかも? 


 世界チャット、ギルドチャット、ギルド同盟チャット、他それぞれを聞き分けてるなんてそれだけでも凄い。

 まるで聖徳太子みたいだよ。



「冬馬さん! 状況は?」


 わたしがそう声を掛けると、冬馬さんはスッと目を開け、微笑んだあと困り顔を見せてくる。



「戦略レベルでは、全て予想通りの流れです。ただ、戦術レベルでは何とも……難しいところで」

「へ? 戦略、戦術レベル??」


 わたしにはちょっと、その違いがよくわからないのでありますが……というか、それってほぼ同じ意味じゃなかったの?

 アレ??



「ハハ! 冬馬は、戦略だと天才的だが。戦術については、ただの討伐戦ですらも普段から苦手にしてるヤツだからなぁ~」

「え? そう言えば、そうでしたねぇー……」


 それはただ単に、冬馬さんが面倒臭がり屋さんだからじゃないんですかぁ??


 わたしは何となくそう思い、そんな冬馬さんを半眼の遠目に見つめた。


「まぁ、確かに苦手なんだけど何とかするよ。

今回、天山ギルド本営が正式に宣戦布告して来たことで、予想される相手戦力の規模は。格段に上がっています。

天山加盟27ギルド……今は24ギルドなんだけど、単純にデッキパーティーを組める軍の総数は48軍。これに対し、こちらは6軍。

48軍対6軍ですから、数の上で8倍の敵をこれから相手にしないといけません。

この最悪の状況に対する最良の策は、早期降伏か条件付き講和ってところなんでしょうけど……」


「「「──!!」」」


 それほどまでに戦力差があるんだ……何となく分かってはいたけど、数字で改めて聞かされると、絶望感すら感じてしまう…。


 直ぐに降伏し、わたし1人が血祭りに遭えば、それで済むのかもしれない……。



 わたしがそう思っていると、冬馬さんがそんなわたしをふっと見つめ、まるで安心させるかように優しげな表情で口を開いてくる。


「相手大手3ギルドの考えは、事前に聞いてますからね。このまま戦いを避け、降伏も和平交渉という選択肢もハッキリ言って無いでしょう。

開戦も既に始まってますし。

とりあえずアリスさん。取り急ぎ皆を、デッキパーティー編成で組む様に指示してください。

そのあと、4門全てを放棄し、この城中央に全軍を集め、応戦。この部屋の入り口付近で食い止めるよう、指示願います。

細かな配置については、編成後に伝えますが……。アリスさんの軍は、このイルオナを狙って突撃してくる軍のみ相手し、そこで確実に仕留めてください。

手が空いていれば、他の軍を支援する分には構いませんが、定位置はあくまでも、此処ということで」

「よ……4門全てを放棄?!」

「城内侵入を許すつもりか、お前はっ!?」


 ミレネさんが驚くのは当たり前な話で、防衛が容易で守る側にとって有利な門を最初から放棄するなんて、有り得ない戦術だよ!


「そんなことを言われても、仕方がないんです。門を一つ確実に守る為には、2軍は配置しないといけない。

つまり、四カ所なので、8軍。

これに加え、万が一突破された場合も想定し、最低でも1軍をこの中央広間に配置する必要があります。

つまり、9軍は必要。

……が、我々が最大組める編成軍は、6軍まで。要するに、数が足りません。

形ばかり数を揃えても、とても守り切れるものではないですからね。

分かりますか?」

「あ……でも、だけどそれなら臨機応変にデッキパーティーを敢えてフルセットで組まないで、少な目に編成して、それを補えばいいのでは?」


「いや、ですからそれだとダメなんです。それだと防御側が得られる防御特典を十分に活用出来なくなります。

この炎の城が持つ防御特典は、そのパーティーの総合力に対して掛け算され、攻撃力と防御力に付加されるのはご存知ですよね?

つまり計算上、軍辺りの総戦力値で損をします。

これは相手に与える攻撃値、そして与えられる防御値に直結する問題なんです。

要するに軍と軍で総当たりすると、弱体化したこちらが側が、圧倒的不利になる。更に付け加えると、防御特典を十分に効率よく活用出来ていない、そういうことを意味します。

お分かりになりますか?」

「あ……え?」


 ダメだ。話が難しくて、わたしにはとても無理かも……。



「……理屈は分かった。だが、ここは臨機応変に対応するべきではないのか?」


 ミレネさんだ。

 理屈は分かった、って……それ、本当なんですかあー?? 

 何だかわたし、急に自信がなくなってきたよぉ~……。


 冬馬さんはそんなミレネさんを見つめ、ふっと笑み言った。


「ですから、それこそまさに臨機応変にこの中央広間で応戦すればいいんですよ。

4軍を四カ所の出入り口付近に配置し、1軍を中央に配置させて臨機応変に対処してもらう。

そしてアリスさん達の軍は、このイルオナを守りながら、同じく臨機応変に対応。

如何です?」

「……あ」


 細かいことはわからないけど、なるほど! それならフルセットの6軍で、バランスよく対応可能になるんだ!!


 フェイトさん達もそれで納得したみたいで、直ぐに指示を始めた。


 ギルド同盟チャットを利用したので、軍編成は各自パーティー同士が判断し、近くのパーティーとデッキ編成してゆく。


 その頃合いを見て、冬馬さんが各軍に門からの撤退と同時に配置位置を指示し。更に細かな、軍同士の個別的な入れ替え指示を行っている。


 どうも攻め手側の戦力に合わせて、配置位置を決めたみたい。

 強い戦力には、強い編成軍。そうでもないところには、それなりの。

 軍の組み合わせも、バランスを考えた編成に事細かく入れ替えてるみたい。



『いいですか? 今回はあくまでもこのイルオナを守れば、それだけで十分です。深追いなどは、禁止します。

極力壁際に隠れ、城内への侵入阻止にのみ、皆さん専念してください。

よろしいですね?』

『──にゃにゃん!!』



 中央には、グリュンセルのGMグランセルさんが指揮する軍が配置された。

 そしてわたし達は、予定通り女神イルオナさんの付近で周りの様子を窺う。


 その背後には、冬馬さんがあぐらをかいて座り、相変わらず思案顔を見せている。

 既に半ば乱戦状態ながらもみんな、冬馬さんの指示に従い、城内侵入阻止に全力対応してくれていた。



『……西側からの攻めが、どうも厳しいようですね。グランセルさん、そこ特に注意して対処願います』

『わかった』


 グランセルさんの軍には、大弓や術士を入れ替え配置し、北南西東の四カ所へ必要最小限の移動で対応出来るよう再編成している。


 これも冬馬さんからの指示。



『……拙いな。アリスさん、すみませんが早急に南へ! 但し、深追いはせず、軽く押したら引き、定位置へ直ぐに戻って来てください』

『あ、はい!!』


 わたし達デッキパーティーは、冬馬さんからの指示に従い、南出入り口へと急ぎ向かう。

 と、そこではかなり激しい攻防が繰り広げられていた。


 相手は、3軍だ。圧倒的過ぎるよ……。



 わたしはその様子を見て、杖をギュッと握りしめ、突撃前に上級・召還術士魔法ゴッデス・ウィングをシェイキングして掛ける。

 デッキパーティー全員の行動速度その他が、180パーセント上がった。


 それから直ぐに、白魔法〈フィラルザ〉と黒魔法〈ベスティファル〉の2つ魔法をほぼ同時に発動、そして上級・召還術士スキル〈フェルフォルセ〉を唱えた。


「《デルタフィルホールド》!」

 途端、デッキパーティーみんなの防御力と耐魔法が上がる。


 更にわたしは続けて〈ティアラス〉〈ザグラスト〉の2つ魔法を発動し、即座に〈フェルフォルセ〉を唱え、《リミットオーバーキル》を発動する。

 デッキパーティー全員の攻撃力と魔法打撃力が増大した。


「よし、行くぞ!!」


 フェイトさんの掛け声と共に、わたしはカムカの実を口一杯に放り込み、ポリポリボリボリと即座に食べ始め、24名のわたし達デッキパーティー軍は南の城最深部出入り口へ全力で、突撃を開始する。



「「「──にゃにゃん!!」」」

「──モグ、モグモグっ!!」




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