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「あれ? ねこパンチさん……? でも、どうしてここに??」
ギルド拠点へ入ると、そこにはねこパンチさんが待っていた。
「どうもこうもにゃい! 天山ギルド本営の執行役員である筈なのに、ワシが居らぬ間に今回の排除処分を勝手に決めおったからニャ。天龍姫殿と大喧嘩して、それで腹を立て、天山から出て来たのだ!」
「え? じゃあ、あの……」
「ワシも共に戦うぞ! アリス」
「──!!」
わたしはそれを聞いて、嬉しくて泣きそうになった。
「喜ぶのはまだ早いにゃりぞ、アリス。ほれ、あれを見よ……」
「え? あの、まさかギリゥさん……?」
何故かうちのギルド拠点内に、黒騎士団の団長ギリゥさんが居た。
「ギリゥ殿も共に戦ってくれることになったので、アリスも感謝感激でありがたするだにゃ♪」
「──!! え、あの、それは凄く助かるのですが……でも、ですが何故なんですか……?」
だってさ、今回の戦いは間違いなく激しいものになると思う。相手は天山ギルド本営の上位3ギルドだから。最低でも3倍、それ以上の可能性だってある。
もしかすると、他にも加わってくるギルドだって居るかもしれないから!
「それは簡単な理屈ですよ、アリス殿。今回の件へ至った経緯を聞き、天山に正義はない、そう感じたからです。
とは言え、ギルド内の説得に苦労はしましたがね……」
ギリゥさんはそこで肩をすくめ、微笑んでくれた。
わたしは感涙し、頭を下げた。
「あ……ありがとうございます!!」
「まだ喜ぶのは早いですよ、アリス様!」
「──!?」
驚き後ろを見ると、そこにはミレネさんが居た。
「実はつい先程、グランセルから緊急の連絡が入りまして……我が《グリュンセル》も、今回の決戦で黄昏側に着くことに決めたそうです!
ですからアリス様、どうぞお喜びくださ…………──わ!」
わたしは嬉しくて、ミレネさんに飛びつき抱きついた。ミレネさん自身は頬を赤らめ、凄く驚いていたけどね?
これなら……これなら、本当に生き残れるかもしれない! そんな気がした。
ううん、例え生き残れないとしても、もぅ悔いはない。そう思えたんだ。
そんなわたしの元へ、ザカールさんがどこかで見たことのあるような気がする人を数人、引き連れやって来た。
「アリス、紹介する。コイツ等は、古くからのオレの知り合いでな。今回のことを話したら、手助けしてくれることになったバルカスってヤツだ。
とにかく無口でつまらねぇーヤツだが、かなり強いぜ。
んで、その隣に居るオルトスについては既に知ってるだろう? この前の亜種討伐で、同じパーティー組んで一緒していたからな」
「あ! その節は大変、お世話になりました!!」
「あ、いや、気にしなくていいよ。それよりも凄く大変なことになっているようだね?
力不足かも知れないが、助太刀させて貰いますよ、アリスさん」
「あ……ありがとうございます!!」
「あと……もう一人は、例外的ではあるんだがなぁ~…」
そういうザカールさんの隣に、どこかで見たようなとても綺麗な女の人が立っていた。
確か、この前の亜種討伐の時にも居た人だったと思うけど……。
そうこう思っていると、その女の人が軽く微笑み、口を開いてくる。
「《薔薇の騎士団》サブGMのアザミューナよ。改めまして、よろしくね! アリスさん♪」
「あ、え? あの……薔薇の騎士団って、まさか──!?」
対・天山ギルド本営の主要構成ギルドだよね……?
しかもそこの、サブGM?? こんな時期だし、それって流石に拙いような……。
言われてよくよく見ると、羽織っている聖騎士用マントに薔薇の騎士団を象徴する華麗なエンブレムが刺繍されていた。
──か、カッコイい……!!
「今回はゲストとして、参加させて貰うから。ちょっと強引なようだけど、文句は言わせないわよ?
だって、うちのザカールをヘッドハンティングしたギルドがどれ程のものなのか、凄く気になるじゃない♪」
「──へ……ヘッドハンティングなんかしたつもりでは……!!」
「まぁ、オレもされた覚えはないんだがなぁ。
どの道この件は、このアザミューナ本人の意志だけでなく。冬馬からの要請が裏で絡んでるらしいんだが……詳しい戦略内容を、このオレにも教えてくれないんだよ。
なぁ、冬馬」
「冬馬さんが……?」
その冬馬さんを見ると、いつものように呑気な様子でこちらを伺い、軽く微笑んだあと肩をすくめていた。
「実を言うと、わたしも詳しい戦略は知らないのよ。困ったことにね。
どうも、SSクラスの極秘情報にしてるみたいだから。これは余程、リスキーな策、ってことになるのかしら……?
ホント、何でも楽しみに変えてしまう冬さんらしいわね。
でも冬さんの考えた策なら、間違いはないと思うわよ? あくまでも経験的にね♪
だからあなたも信じなさい、アリスさん」
「……」
と言われても、わたしには判断なんてつかないよ。
フェイトさんとランズベルナントさんを見ると、何も言わず頷いていた。
どうやら、「それでいい」ということのようだけど……。
「……どうしました? 昨日の威勢が、まるでウソのようですね…」
「──!?」
誰かと思えば、冬馬さんだった。
何だかわたしのことを、それまでになく冷淡な表情で見つめていた。
「あ、あの……」
「合議制で決めるなら、速やかにそれで決めればいいでしょう? ここに来て、何を1人でそんなにも迷っているのですか?
少なくとも、昨日のアナタはそんなじゃなかった……。もう間もなく、《決戦》は始まるんですよ。
アナタは切迫したこの現状を、分かっているのですか?
最早、アナタ1人だけの問題ではないんです」
た、確かにそうだ……。今は迷ってる時じゃない!
とにかく、直ぐに行動しなきゃ!!
「すみません! 皆さんから今回の件について、ご意見はありませんかあー?」
しばらく待ったけど、誰1人として反応なんてなかった。
そんな中、フェイトさんが軽くため息をつき、口を開いた。
「……ないよ、アリス。今は他に手がないんだ。これでもまだ、戦力的にどうなるのかわからない程なんだからな。
何せ相手は、あの天山ギルドだ」
「フェイトの言う通り、これもまた、生き残る道なのかもしれません……。ただ、アリスにとってはこの事で、とても辛い選択を選ぶことになるかも知れませんが…」
「……」
今、わたしはようやく少しだけ理解出来た気がする。
アザミューナさん達の力を借りた途端に、何が起こるのかを。
そして冬馬さんが、今回どういう戦略を練ったのかということも……。
もう既に、種は蒔かれてあるんだ!
本当に……敵に回すと怖い人、冬馬さんて…。見た目はこんなにも優しげなのに…。
あ、違う。本当に怖がっているのは、相手の方なんだと思う。わたしはここに来て、何を怯えてるんだろう。
「とにかくアリス様、ここは手狭なので炎の城へ一旦移動しましょう! 3ギルド連合なら、きっと勝機はありますって!!」
「あ、ぅん……そうだよね! きっと大丈夫!!!
じゃあミレネさん、皆に炎の城への招待をお願いします!!」
そんな訳で、《決戦》開始2時間前になってわたし達は一次炎の城へと集まり作戦会議を短時間ながら行って、その場からそのまま戦場へと向かうことに決めた。
考えたらつい昨日まで、うちだけで戦う筈だった絶望的な決戦が、たったの一晩で3ギルド連合と更に他の人たちの協力まで得ようとしている現状に。わたしは未だ動揺と戸惑いを隠せないまま、炎の城へと向かい暗転移動しようとしている。
不安はあった。恐くもあった。だけど今は、皆を信じてみよう。わたしは、そう思っていた。