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アストガルド・ファンタジー  作者: みゃも
【第二期】、第3章《迷惑な策士》
60/213

-3-

「あ、あの!!」


 わたしは天空の城を離れ、首都フェル=ベルへと降り立つと直ぐに冬馬さんを追いかけ、声を掛けた。


「……本当なんですか? あれは……」

「あれ、って?」


「ですから! 前回の《決戦》の時……『天山ギルド本営』に敵対するギルドに所属していたんですか? しかも……その…」

「……えぇ、そうですよ。彼女たちが言った通り《決戦》の当日、古い知り合いから頼まれたものですから、仕方なくね?」


 え? 当日??

 しかも、仕方なく?!


「あ、あの! ということは……その前に行われていた、『対・天山ギルド同盟』の立ち上げには、関わっていない、ってことになるんですよね?」

「うん……基本的には、そうなる筈なんだけど…」


 わたしはそれを聞いて、ホッと安心した。

 それならば、ミレネさん達の単純な勘違いだった、ってことになると思ったから。

 

 ところが冬馬さんはそこで顎に軽く手指をあて、思案気な表情を見せたあと、口を開いてきた。


「が……実のところ、そぅも言い切れない節があるんだよね…」

「え?」


「例の古い知人から相談を受けたので、『それならば』と策を幾つか提示したのは、事実だから……」

「そ……そんな…」


 わたしはそれを聞いて、ガックリと肩を落とし、そのあとに青ざめた。


 だって、策を与えたとなると、天龍姫さんやミレネさんの怒りが収まるとは思えなかったから。

 つまるところ……『天山ギルド本営』に敵対する《ギルド連合体》の人を、しかも幹部だったかもしれない人を、わたしはギルドに誘ったってことになる。


 はぁ~……。


 わたしがそう思い悩み、深いため息をついていると。わたしの隣で歩く冬馬さんは横目で、いつもの優しげな笑みを見せ、それから肩をすくめ口を開いてきた。


「しかし、どうしてなんです?」

「……え?」


「策を練ったところで。それを実際に実行しなければ、ただの空論。絵空事でしかないんだよ?

やるもやらないも、あの時は先ほど言った知人、“彼”次第……って感じで。自分はただ単に、相談されたので、『だったらこういう手もある……』と知恵を授けたに他ならないんだ。

友人からの相談を、無碍には断れないからね……? 

だろ?

つまり自分としては、《故意》にそうしようとした訳ではなく。どちらかと言えば、《過失》に過ぎないと思うんだけど……。

君はこれについて、どう思うの?」

「え? あ、あの……だけど『決戦』の時、敵対するギルドに入ってたんですよね??」


「うん。だけどそれも、単に誘われたからであって、その時は特に断る理由もなかったし。『なんとなく……』といった感じだったかなぁ? 

少なくとも、深い意味も考えもない、単なる場当たり的なものだったんだ。

それがまさか、こんなにも大きな問題になるなんて、当初は思ってもみなかったよ……ハハ…♪」

「…………」


 冬馬さんって、頭は良いのかも知れないけど。何だかどこか肝心な何かが抜けたところがあるような、ないような……?


 いやまぁ、それを言うとわたしなんか余程ヒドいから、言わないでおくけどさぁ~……。


 わたしはそんな冬馬さんを困り顔に見つめ、そのあとも悩み悩み顔に、ギルド拠点へと向かい歩き出した。


  ◇ ◇ ◇



「は? それは本当なのか、アリス」

「ええ……どうもそのようで…細かな所はよく分からないのですが……」


 わたしは冬馬さんと共にギルド拠点へと戻り、事前に知らせておいたフェイトさんやランズベルナントさん達に、天空の城でのことを出来るだけ詳しく話し伝えた。


 フェイトさんもランズベルナントさんも困り顔を互いに向け合い、それから冬馬さんを見つめている。


「それで……今は、その『対・天山ギルド同盟』との縁の方は?」

「いや、特に何も……。そもそも決戦のその日だけ、遊び感覚で入っただけのギルドだったからね。そういう事前約束だった訳だし。

ただ……唐突にギルドを抜けたものだから、それを快く思わなかった者達が、どうやら居るようで……実は、これまでに何度かその人たちから襲われて参ってるんです」

「襲われている?! まさか、今もですか??」


「いや。ここに来てからは、幸いにもないかな……? 

恐らく、下手に手を出すとギルド戦争に成り兼ねないと考えたんじゃないのかな? 実際どうなのかは、分からないけどね」

「…………」


 ……そういえばミレネさんと天龍姫さんも、そんなことを言っていたような……?

 確か、古龍なんてろ、だっけ??


 それにしても、ギルド戦争かぁ……。それだけは避けたいかも?


 その間にも、フェイトさんとランズベルナントさんはほぼ同時に肩をすくめ、顔を見合わせている。


「それで、どこの誰から襲われてるのですか?」

「あ……えーと…確か、古いなんてろ? とかいう名前だったかなぁ~? 

ハ、ハハ♪ あーごめん。ど忘れしちゃったみたいで」

「ん? いや……今から履歴で確認くらいなら出来るでしょ? だって、前に所属していたギルドの仲間から狙われてるんでしょ??」

「あ! それもそうだよねぇー!」


 フェイトさんの言う通り、短期間とはいえ、自分が所属していたギルド名を覚えてないなんて不自然だし。その気さえあれば、履歴を確認すれば、それで済む話。

 それに、記憶力はピカイチ良さそうな冬馬さん……まさか、何か誤魔化さなきゃダメな理由でもあるのかなぁ??


 なんだかちょっと心配になってきたよ……。


 そんな中、カテリナさんがカタリと音をたて、ギルド拠点へと入ってきた。


「ん? そんな所で集まって、お前ら、何の密談をやってんだぁ??」


 み、密談って……。

 カテリナさん、その何気に棘のある言い方はそろそろ辞めようね……?


 わたしが困り顔に遠目で見つめ、そう思っていると。隣のランズベルナントさんが半眼で、口を開き言った。


「ああ……カテリナの『キャラ弁』が意外にも可愛かった、って密談をちょっとね?」

「──な……!! まさか、話したのかぁ?! バカ! そんなリアルでのプライベートなこと、此処で話すなよぉー!!」

「ハ、ハハ……」


 カテリナさんは全身真っ赤になりながら、太一にそう言って抗議を開始。太一の両肩に手を置いて、半泣き顔で激しく揺さぶりながら今も喚いている。


 太一こと、ランズベルナントさんも意外と意地が悪いなぁ~。


 それにしても、カテリナさんの反応をこうやって普段と比較しながら見ていると。なんだか可愛く思えちゃうから不思議だよねぇー?


「いや、すみませんね。冗談ですよ♪ 今は、冬馬さんが他のギルドの者から狙われているそうなので、そのことについて話をしていたのです」

「い、『今』は……なのか? ということは、『その前は』キャラ弁について……ってことになるんだろう?? 

どーせ、そういうことなんだろう?? ランズ!」

「──え?!」

「ハ、ハハ……」


 太一、もう完全にカテリナさんから疑われちゃってるよ? まぁ、自業自得なんだけどさぁ~……。

 でもここは、助け船を出すことにしますか!


 GMとしてね♪ 


 わたしはそこで『コホン!』と軽く咳払いをし、口を開いた。


「カテリナさん。先ほどランズベルナントさんが言ったのは、ただの冗談なので、信じてやってください。

決して! カテリナさんの『可愛いキャラ弁』については一切、触れてはいないので、ご安心を!!」


「「「──!!?」」」


「え?? 『可愛いキャラ弁』って、なになに? なんのこと?」

「──お、お前なアリス!! 今の絶対、わざとだろう?!」


 

 え……へ? あれ??

 ──ぅあ、わあっ! し、しまったぁあ──!! 



 冬馬さんから興味津々に聞かれ。次いでカテリナさんからは震える声で咎められ、自分の失言に今頃気づいたけど、もぅ遅いよねぇ~……?


 カテリナさんの刺すような視線が、やたらと怖い……。思わず苦笑いだよ。


「で……その可愛いキャラ弁って、どんななの??」

「き、聞くな、バカ!!」

「ハハ♪ いや、それがですねぇ~冬馬さん……意外なことにも……ヒソヒソ♪」

「バ、バカ! だから、言うなって!!」

「わはは♪ へぇーそぅなんだぁ? 可愛いかったのかぁあ~♪

いやぁあ~人って案外、分からないものだなぁあー♪」


 冬魔さんはカテリナさんをしげしげと見つめ、愉快そうにしている。わたしとしても、そのキャラ弁のファンだったので、ついつい調子に乗って笑顔になりその良さを伝えたくなった。


「あ、うん! これがもぅカテリナさんのキャラに似合わず、もの凄く可愛いキャラ弁でさぁ~♪ もぅスペシャルに愛情たっぷり、って感じで! 

しかも凄く、美味しかったんだよぉー!! 実をいうとね、ちょっとだけ羨ましかったかなぁ~?」

「……そぅ言ってくれるのは大変嬉しいんだけどな、アリス……お前まで、この私を裏切るつもりかぁ?? 

お前って、実はそんな奴だったのかよ……ガッカリさせんなよ…ぅ~……」


「わ、あ! ご、ごめん!!」


 ヤバい! カテリナさん、いよいよ半泣き超えてキタ……!?

 そろそろ本当に泣き出しそうだったので、このネタはここまでで辞めた。


 だけど、あのキャラ弁、本当に美味しいのになぁ~。


  ◇ ◇ ◇


「……それで?」


 結局、また仕切り直しの振り出し。『それで?』と言われても、わたしなんて何の話だったのかすら直ぐには思い出せない程なので参るよ。


「えと、実はね……《古龍王老》というギルドに……ほんのちょっと?」

「「「──はあっ?! 古龍王老!!」」」

「??」

 

 わたし以外のみんなは驚いていたけど。わたしには、何のことだかさっぱり分からなかった。なので、聞いてみることに。


「あの……《古龍王老》って、有名なの?」

「「「──はあ?!」」」


「え?」

 何故か、2度驚かれた。


「アリス…… 《古龍王老》は、 今じゃこの南西シャインティア勢力内では有名ランカーギルドの一つだよ。

前回の《決戦》ギルドランキングを見たら直ぐに分かるから、とりあえず確認してみろ」

「まったくお前は、そんなことでよくGMなんかやっていられるよなぁ~?」

「うっ……!!」


 カテリナさん、さっきの仕返しのつもりなのかもしれないけど。そんな半泣き顔で言われても、威力半減ですよぉー?


 わたしは内心で、ちょっとだけイジワルなことを思いつつ、不愉快気な表情のままそんなカテリナさんを横目に見つつ、前回の決戦ランキングを直ぐに確認。


 そして直ぐに驚いた。


 あの天山ギルドにも差し迫る勢いの2位で、ポイント的にも、それ程の差がなかった。何よりも3位との差が激しく、その強さは圧倒的過ぎる……。

 確かにこうやって見ると……知らない方が、どうかしていたかも? 


 はぁ……。 

 

「つまり……その 《古龍王老》に所属していた訳ですね?

「まぁ、そういうことになるのかな?」


「いや……曖昧なこと言ってますけど、ズバリそうなんでしょ?」

「は、ハハ♪ はい……」


 太一からの度重なる追及を受け、冬馬さんは苦笑い顔に頷いている。


「だけどなんで狙われてるんだ?? ギルド抜けるくらい、別にそんなの本人の勝手だし。自由だろう?」

「あ! それもそうだよねー?」


 カテリナさんの言葉を聞いて、わたしも気づいた。

 確かに、ギルドを抜けたくらいで狙われるとか、意味不明だよね?


「まぁ、そうなんだけど……あのギルドの人たち、自分たちが一番になる為なら、手段を選ばないみたいなんだよね? 実はそれもあって、自分には合わない気がして、ギルドを抜けたんだ」


 冬馬さんの話を聞いて、わたし達は互いに驚き顔を見合わせる。


「手段を選ばない?? 例えば、どんな?」

「ギルドメンバー皆にサブアカウントを取らせて、内外勢力問わず、スパイを送り込ませる。大小の違いはあるけど、組織ぐるみでこれをやるなんて、明らかにやり過ぎ……。

あとは、自分達と敵対しそうなギルドの悪い風評を振りまく。

天山ギルドの天龍姫さんもこの所、それで色々と騒がれているみたいだよね?

因みにここ黄昏も、GMが実は《地雷》とかテキトーなこと言われてるみたいだし」


「あ……は、ハハ…」


 その最後の部分については、テキトーとも言い切れないように思われ……わたしとしては、ただただ思わずため息だよぉ~。


 そんな訳で、わたしは苦笑いつつも肩をすくめる。


 そうしたわたしの様子を冬馬さんは不思議そうに見つめ、でもそれを追及することなく再び話を続けた。


「GMの古龍王さん自体は、なかなかの人格者なんだけど。その周りに居るアシュベルとゲシュトバールが、かなりたちの悪い策士でね。色々と吹き込んでは、実行させているんだ。

その中でも一番最悪なのが、バヌーかな? アイツだけは、本当に手に負えない……。

まぁもっとも、自分がそのギルドに入ったのは、清翔妃さんから誘われてのことなんだけど」

「「「──!!」」」

 

 先ほどから冬馬さんが何気に語っているけど、聞く人みんな上位ランカーばかりなので驚いてしまう。

 しかもみんな、天龍姫さんレベルの怪物ばかりだ。言われてみて今調べてみたら、みんなギルド古龍王老に所属している。


 なるほど、ランカーギルドになる筈だよねぇ、コレは……。

 

「これは参りましたね。その……古龍王老から狙われているとなると、とてもうちだけでは対応出来そうにありません…」

「……確かに、そうだな」


 太一の言葉を聞いて、フェイトさんも納得顔でそう頷いている。

 それをみて、カテリナさんが切れよく口を開いた。


「それどころか、同じギルドメンバーの私らも狙われるたらどうする? このままだと、ヤバいんじゃないのか?」

「あ、その時は天龍姫さん達に相談して……………あ!」


 そうか! あれは、そういうことだったんだ……。


 今日、天空の城で天龍姫さんやミレネさん達が冬馬さんについて色々と言っていたのは、このことを全て含めてだったのかも……?

 

 わたしは今になって、ようやく合点がいった。

 そして同時に、思わずため息が出てしまう。 


 だってそれなら、あの時に全て天龍姫さん達にお任せしておけば、今ここでこんなにも悩まなくて済んだんだよねぇ……?


 つくづく、自分の情報収集力の無さと無知がうらめしいよ。


 はぁ~……。




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