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アストガルド・ファンタジーの世界へと降り立ち、わたしは直ぐに小部屋の戸をそっと開け、他にお客さんが居ないかなどそれとなく窺い確かめ、口を開く。
「ライアスさぁ~ん、居ますかぁ? アリスでぇーす」
「あれ? アリスちゃん、今日はやけに早いね?」
「ハハ……まぁ、色々と事情がありまして…それよりも装備品、直ぐにお願いできますかぁ?」
「ああ、今から早速持ってくるから、そこで待っていなさい」
間もなくライアスさんは戻って来て、装備品を手渡してくれた。
わたしはそれを笑顔で受け取り、手早く装着し。小部屋から出て、店内の大きな鏡の前で可笑しなところはないかなぁ? と何気にチェック。
「それで? 何か事件でも、あったのかい??」
「へ? いやまぁ、あは、あはは! 実はわたしにも、そこがよく把握出来てなくてですね。詳しいところは、よく分からないのですが……どうもそうらしいですよ?」
「え? 何だかそれこそよく分からないけど、どうも複雑な事情があるみたいだね?」
「ハハ、どうもそうみたいで……。では行ってきます!」
わたしは困り顔にも笑顔を見せつつライアスさんと別れ、ギルド拠点へと急ぎ向かった。
正直いって、GMとしてはつくづく失格だよねぇ……?
そうこう思いながら向かうその道中で、ギルド拠点への近道を通るため、わたしは狭い脇道を通る……。
と、間もなく前方に。黒いローブで身を包み、物陰に隠れ潜んでいる人を発見。その時、チラリと横顔が見えた。
あれ……この人、どこかで見たような??
わたしは、『まさかな?』と思いながらも、その人に近づいてみる。と……色白で、スラリとした体躯で優しい感じの人だった。
まさか……とは思うけど。たぶん、間違いないよね?
「あのぅ~……冬馬さん、ですよね? そんな所で、何をなさってるんですかぁ?」
「わ、ぅわ!! あーびっくりした!!」
──び!?
びっくりしたのは、こっちの方だよ……。
「って……よく見ると君。まさかあの、アリスちゃん?」
「あ、はい! 覚えてくれてたんですか? 感謝します♪」
わたしが笑顔で、そう応えると間もなく。急に冬馬さんがわたしの腕を掴んで、引っ張ってきた!?
そしてそのまま、路地の更に裏手へとグイグイと連れ込まれ、誰も居ないことを確認している。
何といいますか……流石にこれは、ちょっとドキドキしてしまうシチュエーションなんですけど。顔、めちゃ近いし!
ここは叫んで、逃げ出すべきなのかなぁ~……?
そうこう悩んでいると、ようやく冬馬さんは黒いローブを外し、あの優しげで穏やかな表情を見せてくれた。
その瞬間、わたしは頬が自然に真っ赤に染まるのを感じ、キュンとキタ!!
それにしても……つくづく綺麗な男の人なんだなぁ~…。
「なんだか悪いね? どうも急に、自分のことを、みんなが捜し出し始めたものだから……」
「……」
理由は不明だけど、捜されるのがどぅもイヤなのかなぁ?
でも、なんで??
わたしが、そう思い悩んでいると。冬馬さんは軽くため息をつき、口を開いてきた。
「自分としてはね、少しでも良い感じのギルドに所属したいから、慎重に選びたかったんだけど……どうやらそんな自由さえも、許してくれなさそうな人たちが居てね?
正直、参ってます……ハハ」
「あ、なるほど! そういうことだったんですか? 要するに、良いギルドをお探しなんですよね?」
「え? あ、まぁ……」
「だったら、『天山ギルド』とかオススメですよ!
なにせ、凄いランカーさんばかり居ますし。なんといっても、あの天龍姫さんがGMなんですから、間違いなしですよ!!」
「…………」
「はぃ?」
その時に見せた冬馬さんの表情は、呆気に取られた感じ、と言うのが正しいのか……何しろ、ポカンとしたものだった。
でも、なんで??
「あ、あの!! わたし、何か変なことでも??」
「いゃ……なんていうか、アリスちゃんって。意外なことを言う人だなぁ~と、思ってさ」
「は? 意外って?? なにが???」
「だって普通は、とりあえずでも自分のギルドをオススメにしません??」
「──な……なるほど!!」
言われてみると、確かにそうだよねぇ~?
わたしは困り顔に苦笑いながら、とりあえず言ってみる。
「では、うちなんてどうですかぁ?」
「イヤです♪」
──ぐは!
分かってはいたことなんだけどさぁ、それはないよねぇ~?
「あの! だったら、初めから聞かないでくださいよ!! 今のホントーに、かなり凹みましたから……」
「ハハ! ごめんね? でもさ、こういうのを一度やってみたかったんだ♪」
へ??
それって……どんななんですか…こちらは凄く、がっくりなんですけどぉー?
一見、とても優しそうに見えるけど。実は冬馬さんて、凄いドSだったりして??
そうこうわたしが悩ましげに困り顔で見つめていると。冬馬さんが急に人懐っこそうな表情を見せ、楽しげに『ふっ』と小さく笑み、また話し掛けてきた。
「まだ正式に入るつもりはないけど、『仮』って感じで、入れさせて貰える?」
「はい?」
「だからさ。一時的に、《仮・加入》でもいいのなら、と思ったんだけど……そういうのは、ダメなのかな?」
「あ、えと……ダメということはないと思いますけど。一応ギルドメンバーに、相談してからでもいいですかぁ?」
「え? だけどアリスちゃん、黄昏のGMなんでしょ??」
「ハハ……確かにGMなんですけど、何せこんな頼りないGMなものですから…」
実際、笑っていられないくらいにヒドいもんねぇ~……。
冬馬さんもそれに納得したのか、直ぐに承知してくれた。
『直ぐに』ってところが、なんだかわたしとしては微妙な気分なんだけどねぇー……。
「にゃ?! にゃんですと!!」
「いや、ですから……『仮』で入りたいそうなので、どうかな? と思いまして、こうやって相談を……」
ギルド拠点へ、冬馬さんを連れ事情を説明すると。その場に居たねこパンチさんが凄く驚いた様子で、わたしと冬馬さんを交互に見つめ、ムンクの叫びよろしく可笑しな顔の表情を見せつつ慌てふためいていた。
間もなく情報を得た、フェイトさんや太一ことランズベルナントさんなど、ギルド皆が揃う。
「……どうもこうもにゃいじょ、アリス! 迷う間でもにゃい!! 急ぎ、仮・加入許可するだにゃあーー!!」
「そうだ! アリス、早くしろ!!」
「ぅわ! そ、そんな急かさないでくださいよ……そもそも、まだ申請だって貰ってないんですから…無理です」
「なら、早くお願いしてください。頼みます!」
あの太一まで、この有り様。
もしかして、わたしが呑気過ぎるのかなぁ??
「お前は、どれだけ天然なんだよ? この足手まとい……」
「──て、てんねん……?!
わ、わかりましたよ!! お願いすればいいんでしょう?
えと、だ……そうなので。申請の方、お願いしてもいいですかぁ? 冬馬さん」
「うん。いいけど、何だか随分と大変そうだね?
それじゃあ、これから申請を出すから、直ぐにお願い」
間もなくギルド加入申請が来たので、わたしは間違いないか念のため確認して、それから申請許可をタップ。
「……はい。加入申請、受理しました」
「「「──!!」」」
途端、ギルドメンバー全員がわっと喜び出し、拍手喝采する。
今では冬馬さんの頭上に、ギルド名《黄昏の聖騎士にゃん2nd》が表示されていた。
その間にわたしは、いつものメモを袋の中からスッと取り出し、軽く「こほん」と咳払いをして読み上げる。
「えと、なんだか前後しちゃいましたけど……。一応、決まり事なのでこれから簡単なギルドの規約を説明しますね?
うちは、PK禁止です。
あと、出来るだけ決戦や大決戦への参加願います。
長期ログイン出来ない場合には、事前に連絡してください。それがない場合には、10日をメドに除名処分ということになりますので、ご注意願います。
それから、流石に権限はまだ何も与えられません。そこはご了承願います。
あと、ギルド規約の方も改めて確認願います。他にも細かな規約がありますので……。もし分からない所があればいつでも説明はしますので、サブGMや補佐か外交官または内務官へ気軽に聞いてください。
……って感じなんですが、よろしいでしょうかぁ? 冬馬さん」
「うん。わかった」
「「「…………」」」
わたしが淡々といつもの様に対応していると、ねこパンチさん達が目を点にし、こちらを呆然とした様子で見つめている。
「あのぅ~……なにか??」
「あ、いや……なんでもにゃい…」
「??」
後で聞いた話なんだけど。冬馬さんを相手に話すわたしが、あまりにも淡々としていて、その場の雰囲気的にも凄く浮いてたんだってさ。
そのせいで、歓迎ムードなんか一気に、冷めてしまったらしい……。
そんなこと言われてもさぁ~……わたしはわたしなりに、目の前のことだけで頭一杯で。気持ち的な余裕なんてまるでなかったから、そんなこと言われても困るよ。
確かにさ。色々と思い返してみると、もぅ苦笑いしか出て来そうにないけどねぇ~……。
そんな訳で、うちのギルドに新たな仲間が加わることになった。
何だか、ちょっと変わった感じの人、みたいだけどね?
そして……この日のこの出来事が、とあるギルドを激高させることになるだなんて。この時には、誰一人として知る由もなかった。
【第二期】、第2章《新たな仲間》 おしまい。
今回は、〔現実世界〕の盛り上げ役を1人追加。
そして・・・このまま普通に《大決戦》が始まれば、4大勢力で最弱となる南西シャインティア。そこへ、まさかの救世主が現れた、という感じのオチです。
しかしこの救世主、同時に厄介事までアリス達ギルドに持ち込みます。という訳で、次の章をどうぞお楽しみに!
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