-4-
「それでアリス、結局どうするの?」
「あ、GMの件?? それについては、どうするもなにも……どうすれば良いのか、わたしの方が誰かに聞きたいくらいなので…………は、ハハ…」
その次のお昼休み、いつもの学校の屋上で真中と何気ない会話をやっていると、そぅポツリと聞かれたので。それに対し、わたしは困り顔にも苦笑いながら答えていた。
わたしがGMになったせいで、黄昏がギルド解体になったりしたらイヤだしなぁ……。
「そんなに重たく考えなくてもいいと、私は思うんだけどなぁ? いざとなれば、岡部くんも太一くんも居るし、フェイトさんだって居るでしょ? だからさ、何とでもなると思うよ?」
「……そぅ、なんだけどね。わたしとしては、フェイトさんに迷惑だけは掛けたくないって気持ちもあって……」
「アリス、お前。そんなことなんか気にしていたのかよ?」
「ぅわ!!」
誰かと思えば岡部くんだ。
その隣には太一も居て、にこやかな笑顔を浮かべ軽く手を上げている。
わたしもそれには爽やかな笑顔で応えた。が、
「オレが良い、って言ってんだから。もぅそれで良いんだよ。だから気にするな」
「……」
岡部くんの唐突なそのぶっきらぼうな言い方を聴いて、わたしは途端にムッとなる。
「岡部くんがそうだとしても、フェイトさんも同じだとは限らないでしょ?」
「だからなぁ……このオレが、その!! ……あ、いや」
「?」
岡部くんは途中まで何かを言いかけてたみたいだけど、なぜか辞めた。
そこまで言ったのなら、最後までちゃんと言って欲しいよ。だって、気になるから。
わたしは不愉快な顔をして、岡部くんを横目に見つめ聞いた。
「……岡部くんてさぁ~、ゲーム内でもそんなところあるよね?」
「へ?」
「ここでこうやって話している時の岡部くんはさ、凄く頼りになる気がするけど。ゲーム内でカエル軍曹さんとして居る時の岡部くんてさぁ~、何だか頼り甲斐がないよね?」
「か、カエル軍曹ぉおー?! アリス、お前なぁ……」
「なによ? 違うって言うの?」
「──ぷ! ク、クク……」
「??」
どういう訳か、太一が岡部くんの隣でお腹を抱えながら指なんか差して、
「か、カエル?! コイツが、あのカエル軍曹だってぇえー? わはは♪」と笑い始めている。
「……………岡部くん、アレ放っといていいの? なんか、笑われているよ??」
「ああ……アリス、お前のせいでな…」
「は? なんで??」
太一の方を軽く指差しながら岡部くんにそう言うと、何故かわたしが頭を抱え込んでいる岡部くんから半眼にそう言い返された。
意味わかんないよ。
なんだかわたし、急に腹が立ってきた!
「そもそもさ、どうしてカテリナさんがわたしなんかをGMに指名してきたのか意味分かんないし。わたしには、ギルドの運営なんてとても無理だと思うよ?
確かに、外交関係については良いのかも知れないけど……。
あ! 実は昨日、天龍姫さんとミレネさんに相談したらそう言われたから!」
言うと、太一と岡部くんは互いに顔を見合わせ、それから改めてわたしを見つめ口を開いてきた。
「ああ……そうだな。確かに外交関係についても、アリスが適任だと思う。けどな、主な理由は実のところそこじゃない」
「え? 違うの?? じゃあ、なに?」
「これはカテリナに確認の意味で、その日のうちに聞いたことなのですが。彼女がアリスをGMに推薦したのは、ただの気まぐれではなく。彼女なりに深い考えがあってのことだと、後でわかったんですよ」
え?
「カテリナはその日、オレ達に対しこう言ったんだよ。
『……だって、これから人が居るんだろ?』ってな」
へ??
「あの……ごめん。まだ意味がわかんない……」
本当に解らなくて、わたしが困り顔に聞くと、2人はまた互いに顔を見合わせながら肩をすくめ言った。
「アリス、お前の名前は。お前自身が思っている以上に、A・F内では未だに有名なんだよ。攻略サイトへいけば、必ずと言っていいほどお前の名前が掲載されているくらいにな?」
「それだけ有名なアリスがGMをやっているギルドとなれば、ただそれだけで人は自然に向こうからやって来て集まります。カテリナはそのことを踏まえ、推薦した訳です」
「……あ!! それって、つまり……」
「ああ、アリス。お前の名声を利用するようで悪いけど。まぁつまりは、そういうことだ。だからさ、ギルドの為に一度、やってみてはくれないか?」
「……」
わたしがGMに選ばれた理由を聞いて、今更だけど色々と納得出来た。
そしてわかった途端に、何だか2人に対して申し訳ない気持ちで一杯になる。
「……ぅん。わかった、やる。頑張ってみるよ!! というか……何だか、ごめん! わたし、自分のことしかずっと頭になかった……」
わたしの言葉を聞いて、また太一と岡部くんは互いに顔を見合わせ、笑顔を見せている。
それからわたしの方を向いて、言った。
「よし! じゃあ、これで決まりだな!!」
「これから頼みますよ、アリス!」
「頼りにしているからね、アリス!!」
「──ひいっ?!」
改めて3人からそう言われ、わたしはその重責に心が押し潰されそうになり、思わず苦笑いながらも泣きそうになる。
「あ、いやぁ~……は、ハハ……一応は頑張ってみるつもりだけど。困ったら、助けてくれるんだよね?」
「「「にゃにゃん♪」」」
──ぅわ! ぐは!!
こ、ここでそれをやるかなぁ……?
学校の屋上に居る他の人たちが一斉に、驚いた表情をしてわたしたちを見つめている。
何だか恥ずかしくて、わたしはその場で身を小さく丸め、3人に苦笑いを浮かべた。
「……にゃん? 今のって……まさか…」
そしてこの時、その場にはわたし達がまだ認識していなかったよく知る人物が居たんだけど。この時点ではまだ、知る由もなかった。