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アストガルド・ファンタジー  作者: みゃも
【第三期】、第11章《新ワールド大決戦、開始っ! ~白き召還術師のユイリ~》
136/213

ー5ー

 あれから30分ほど急いで南下し、遭遇した敵軍を、わたしはファルモルなどで速やかに迎撃。また、天龍姫さん達の鮮やかな活躍により、途中にある幾つかの拠点を次々と制圧していった。


 ここまで開始から1時間30分だから、あと30分ほどで初日の大決戦は終わる。


 初めは、こちらが全滅することも覚悟で始めた大決戦だったんだけど。意外にも善戦していた。というのも冬馬さんの策士的戦略により、南西シャインティア城へ向かって来る相手を、面白いほど手玉にとっていたからだ。


 さすがだよね!


 そんなこんなで、領国チャット内にて、わたし達の活躍が大きく称えられるようにもなってる。何だかとても照れくさいけど、素直に嬉しいかも?



「思うんだけどさ。冬馬さんが居なかったら、今頃うちの陣営も陥落していたかも知れないよね? アリス」

「うん! 言えてる、言えてる♪」


「確かに。当初はここまで頑張れるなんて、誰も想像もしてなかったからなぁ~っ。

が、ここまでやれたのは冬馬の力だけじゃなく。皆の協力があってのことだと、私は思うがね?」

 ザカールさんのその言葉を聞いて、わたしもそれに凄く納得した。1人の力だけじゃなく、皆の力が少しづつ合わさって、それが次第に大きくなり、初めて叶うこともある。

 だって、わたしなんてさ。ギルド連合体の代表なんて肩書きになっているけど。1人では何も出来やしない。みんなの協力を得て、その上で何とかやれてるだけだし。わたし1人の力なんて、本当に微々たるものだもの。寧ろ、足手まといになってやしないかと、ついつい心配してしまうくらいだもんね?


 そんな思っていると、カテリナが急に手を叩き、右手に持つ剣を高々と上げ元気よく口を開いてきた。

「よっしゃあーっ! このままの勢いで、一気にワイズヘイル城まで陥落させてやろうぜっ」

「おおう! 一気にやっちゃおうー!!」


「「「──にゃにゃん!!」」」


 カテリナのそんな掛け声に、マーナも明るく元気に応え。わたしたち軍は、皆で更に明るく元気よく掛け声を大いに上げ、ワイズヘイル城を目指し走り出した。

 残り30分、まさか本当に陥落できるなんて思ってはいなかったけど。でも、このメンバーなら、それも可能かもしれないなと思えるのだから不思議だ。


 ──が、唐突にわたし達の目の前に、ユニコーンらしき聖獣にまたがり、空を駆け舞い降りてくる者が現れた。


「──な、なにっ!?」

「なんだよっ、アイツ! いま、空を飛んで来たのかぁ!?」

「そんな魔法なんて、あったの??」


 わたしやカテリナ、それからマーナが驚く中。その者は、エメラルド色に輝く瞳を軽く細め、白銀の長い髪を風になびかせ……。そして、聖獣水晶ルミナスオーヴ光が白く輝く杖を堂々とその色白の手に持ち。同じく白い肌の頬を微かに笑んで、形の良いその唇を小さく開いてくる。


「……お前か? 元、アストリアの召還術師というのは」

「──!!」


「どうした、まさか口を聞けないのかぁ? もう一度だけ、聞こう。お前が、元アストリアの赤き召還術師か?」

「……だ、だとしたら?」


「だとしたらぁ? クックッ…。そうか、認めたか。それならば、お前を倒すまでのことだ」

「──!!」


 言うなり、その者はとても信じられない速さでスキルを素早く読み上げ、何かを放ってきた。



「『我が名に従えしなんじらに、今こそ命ずる!

《火の隷:ファルモル!》』」



「──なっ、うそっ。そんな速くに、ファルモルっ!? うあッ!!」

 わたしは全身を紅蓮の業火に焼かれ、被弾した。今の装備だから、大丈夫だったけど。前の装備なら、今の一撃だけでヤバかったかも!?


 にしても……此れって、どうなってるの?? ファルモルはわたしが十八番おはこにしてる召還魔法の1つだけど、こんな発動方法なんて知らない。普通は、最初に基礎となる召還魔法を放ち、その中へ白・黒・赤の魔法をセットし。そこから選択可能なスキルを選んで、合成召還魔法を発動させる。なのにこの人は、いきなり合成召喚魔法を発動させてきた!


 一体、どうなっているの!?


「クックッ、どうした? 何を驚いている。反撃はしてこないのかぁ?」

「……」

 小馬鹿にしたようなそんな言い方をされ。わたしは真剣な眼差しで相手を見つめ返し、杖をグッと握り締め、サッと高くそれを掲げ、上級白魔法〈レジェヌドール〉と上級黒魔法〈ファイアスピリッツ〉の2つ魔法を素早く発動。そして、召還魔法〈フェルフォルセ〉を唱えた。



「『なんじら、我と共に在れ……《フェルフォルセ!》』」

「『我が名に従えしなんじらに、今こそ命ずる!

《風の隷:シルフィル!》』」



「──えっ!? うあああーッ!!」

 召喚され現れた風の隷シルフィルの放った風の刃によって、わたしの身体は切り刻まれ、そこから血が吹き出し体力ゲージを見る見る奪ってゆく。


 なにっ、今の!? やはり速すぎるッ!!


「アリス!! くそっ!」

 フェイトさんがわたしの前に立ち、次の攻撃から庇ってくれようとしてくれていた。

 見ると、他の皆もわたしの周りに立ち、相手に剣や弓矢を構え牽制してくれている。


「ほぅ……。この私に、歯向かうつもりか? お前たち、怖いもの知らずなのだな」

「はん! 怖いもの知らずは、お前の方だ!」

 そう言うなり、ミレネさんはスキルを唱えながら身を屈め、その姿勢のまま前へと素早く飛び出し、18本の矢を高速の高精度で放った。


「──!? チッ!!」

 相手は意表を突かれ、数発の矢を腕や脚、脇腹などに受け、赤い血飛沫を上げながらも後退し、本来整ったその顔を歪ませ不愉快気な表情を浮かべ再びスキルを唱える。



「『生と死を司るエリューズニルの館に住みし、大いなる女神よ。我との契約に従いて、その力を今こそ示すがいい!

《冥界の女神:ヘル!》』」



「──!!?」

 途端、ミレネさんの足元に青と赤い魔方陣が複雑に絡まり合い展開し。その円陣の中より、上半身が人と変わらぬ美しき姿。しかし、その下半身は腐敗した醜い姿をさらけ出す、半死半生の女神が現れた。


「な…なんだ、コヤツ……!?」

 ミレネさんが動揺する中、次に不思議な時計の針の音と歌が聞こえてきた。

 見るとあの白き召還術師が、ミレネさんを覆い尽くす光り輝く魔法陣の上で軽いステップを踏みながら愉快そうに笑い踊り、華麗にくるくると回って、こんな歌を口ずさむ。



「『カチコチ♪ カチコチ♪ カチコチ♪ カチコチ♪ あなたは生きる? それとも死ぬの? 裁断の魔杖は、こう言った……』」



     ── 死になさい ──



「「「──!!」」」

 その言葉と共に、ミレネさんの身体が瞬時に氷結し、間もなくひび割れ砕け散り、光の粒子となって消えてゆく。



「──み、ミレネさんっ!?」

「「「──!!?」」」

 しかも、合成召喚したその白き召還術師自身は、先ほど負傷した弓矢による傷が光輝き、見る見る癒え塞がってゆく。


 な、なにっ?? 今の合成召喚は!!?



 その白き召還術師ユイリは円球の魔方陣の上から降り立ち、その癒えた腕をこちらに見せつけながら、ふっ……と軽く笑み、口を開いてくる。

「クククッ、身の程知らず共めが。どうあがいた所で、お前たちは私に勝てはしない」

「さあ……それは、どうなのかしら?」

「──!?」

 言うなり、天龍姫てんりゅうひさんは連続でスキルを発動し、地を蹴って身体を捻りながらも俊敏な速さで、そのユイリの身体を一閃する!


 だが、それは際どい所でその者に避けられた。

 が、天龍姫さんは再び地を勢いよく蹴って回転しながら振り向き様に横に大きく一閃し、そのまま連続スキルで続けざまに斬り付けた。

 さすがに白き召還術師ユイリも天龍姫さんの速さと力に圧され、それで幾多の箇所を負傷し、額や押さえる腕などからダラダラと血を流し、苦悶の表情を見せている。が、直ぐに小さく笑みを浮かべてくる。


「ふ…………そうか、お前が噂に聞く、天龍姫か。まさか、ここまでだったとはな。が、これならばどうだ?」

「──!!」



「『最強のもの、邪悪なるもの……天を衝くほど大いなる鋼の翼の持ち主よ。三頭、六眼の千術を操りし悪神の子よ……今こそ、我との契約に従いて、その力を示すがいい……。

《合成召喚:邪竜アジ・ダハーカ!》』」


「──!!!」

 途端、目の前に光り輝く最大規模に大きな魔方陣が展開し、その中から3頭・6眼の大きな翼を生やした巨大な龍が現れた。


「さあ! 邪竜よ、あの者を倒すがいい!!」

「──くっ!」

 天龍姫さんは、邪竜の攻撃を一撃・二撃と交わし、空かさずスキルによる攻撃で反撃したが、その攻撃は硬い鋼の鱗に弾かれた。


「無駄だ。邪竜アジ・ダハーカに、物理攻撃は効かない! フハッハッハッ!!」

「くっ!!」


「!?」

 物理攻撃が効かない? ならば、魔法なら効果があるってことなんじゃ!?

 わたしは刹那的にそう思い付き、杖を両手でグッと握りしめ、召還魔法を使おうとした。

 が、


「馬鹿め。お前の相手は、そちらではない。この、私だろうが!」

「──!!」

 構えたその杖を杖で思い切り横へと振り払われ、それでわたしの体勢が崩れた所へ、その者から膝撃ちを腹部に受け、瞬間その痛みで意識が遠のき、吐きそうにもなり、その場で膝を落としてしまう。


 こ…このお腹の痛み、運営の設定ミスもいいところだよ。い、痛すぎるし。め、めちゃくちゃだ……。



「……クック。存外、不甲斐のない奴だなぁ。アストリアの召還術師が、まさかこの程度だったとは、実に笑わせてくれる」

「…………」

 く、くやしい……けど。このユイリって人、本当に強い…。まさか、リアル格闘家なんじゃ??


「──アリス!」

「!?」

「何をボサッとしている! お前らも、アイツを攻撃しろよっ!!」

 マーナとカテリナのそんな声が、直ぐ背後から聞こえてきた。


「……ほぅ。雑魚共が、この私に楯突くつもりかぁ? まあ良いだろう。まとめて相手をしてやる!」

「マーナ! カテリナ! 気をつけて!! この人、本当に強いからッ!!」

「大丈夫だから!」

「心配すんなって!」

 他にも、ザカールさんやフェイトさんにランズも加わって、わたしたち1軍はその白き召還術師を取り囲んでいた。


 こ、これなら、イケるのかもしれない!!

 そんな気がした。



「ふん……それで勝てたつもりかぁ? 言っておくが、こちらにも味方くらいは居る」

「「「──!!」」」

 その者の合図と共に、レーダーに3軍規模の軍勢が映り、こちらへと向かってきた。


「ヤバい数、一気に前からキタよっ!」

「不味い!! ここは一旦、撤退しよう!」

「「「にゃにゃん!!」」」


「馬鹿め、そうはさせるものか!」

 言うなり、ユイリはわたし達の進行方向へと先回りし降り立ち、またスキルを唱え始めた。


 でも、わたしだって、やられてばかりじゃ居られない!


「《状態維持メインテイン!》

なんじ、我と共に在れ……。

《アルカマ・アロー!》』」

「──!? ほぅ……そう来るか。ならば!」


 えっ? そう来るか、って??!

 何だか気になるけど、ここまで来たらこのまま行くしかないっ!

 先程発動したメインテインが、アルカマ・アローの中へと吸収吸引され、スキル一覧が表示される。その中の一つを、素早くタップ。

「《アルカミック=コンティニュ・アロー!》」


 途端、わたしの直ぐ足元に光り輝く円形の魔法陣が展開し。その魔法陣の中から、光輝く大弓が現れ、わたしはそれを素早く手にし構え射った。が、



「『愚者亡者の闇夜に隠れし、汝らよ。今こそ我に従いて、その怒りの矛を弓矢の先に念じ託すがいい……。

《ダークナイト・アロー!》』」



「──!!」

 まるでアルカミック・アローのように、その者の足元に円形の魔方陣が展開し、その魔方陣の中からおぞましい姿形をした弓矢が現れ、それを手にするなり素早く射ってくる。


 お互いの弓矢はその者の手前で衝突し、光と闇の属性が相殺し、打ち消され消滅した。あと少しだっただけに、悔しい。


「!? うわッ!」

 わたしがそんな思っていると、更に弓矢が数発飛んできた。なんとか全て交わせたけど、かなり危ない。油断してた!


「どうも手が疎かになりがちだな? 元、アストリアの召還術師よ。ククッ!」

「………」

 いちいち癪に障る言い方をする人だなぁ~っ。なんだか、凄いイヤな感じ。


「アリス! ここはみんなで、このまま強行突破だ!」

「あ、うん!!」

「直ぐ後ろに敵軍が来てるから、急ぐよ。アリス!」

 カテリナとマーナがそう言って、あの者に向かって行き。他の皆も、一気に襲い掛かってゆく。多勢に無勢、これでは流石のあのユイリも退くしかない筈っ。


 だが、ユイリは意外にも余裕の笑を浮かべ、召還魔法を暗唱し始めてる。



「『最強のもの、邪悪なるもの……天を衝くほど大いなる鋼の翼の持ち主よ。三頭、六眼の千術を操りし悪神の子よ……今こそ、我との契約に従いて、その力を示すがいい……。

《合成召喚:邪龍アジ・ダハーカ!》』」


「──!!!」

「ちょっ、またッ!?」

「またそれかよっ!!!」

 先程、天龍姫さんを足止めにした合成召喚獣だけに。かなり厄介なのは確定。魔法陣の中から召喚されるなり、邪龍アジ・ダハーカは前進突撃していたカテリナ達を襲い始めた。いきなりのことで、防御対応するのだけで、みんな手一杯っぽい。

 そうこうしてる間にも、背後からワイズヘイルの軍が迫って来てる。のんびりもしていられないっ!


「物理攻撃が効かないということは、逆に言えば、魔法なら効く筈だからっ!!」

 わたしがそう言って召還魔法を使おうとすると、何かが瞬間目の前に近づき、わたしの頬を弓矢が掠めた。そこから血が、横筋に流れる……。


「何度、同じことを言わせる? お前の相手は、この私だ!」

「………」

 理由は分からないけど、わたしに対し、凄い殺気があるのだけは確かっぽい。なら、残り少ない時間、やれるだけのことをやってやる!



 わたしはそう心に決めるなり、素早く上級白魔法〈レジェヌドール〉と上級黒魔法〈ファイアスピリッツ〉の2つ魔法を発動。そして〈フェルフォルセ〉を唱え、シェイキングする。

 それから唱えた。

「『《合成召喚:火の隷ファルモル!》』」



「『我が名に従えしなんじらに、今こそ命ずる……。

《合成召喚:水の隷ウンディーネ!》』」



「──!!? うわッ!!」

 ほぼ同時に発動された合成召喚獣は、ぶつかり合い、溶け込み、間もなく衝撃波を周囲に拡げながら消滅し、わたしはそれで尻餅をついた。


 この人っ! いちいち、わたしが放つ召還魔法と相対する属性のものをぶつけてくる。もしかして、わざと!?


「だったら、これで!」

 


 わたしは、魔聖水を一気飲みっ! それから再び、スキル一覧から最高位・合成召還魔法〈メテルフォルセ〉を選択。更に最高位召還魔法〈アルカマアロー〉を嵌め込み、そこへ〈ファイア〉を嵌める。そのあとに上位召還魔法〈フェルフォルセ〉を嵌め込み、そこへ上級白魔法〈レジェヌドール〉と上級黒魔法〈ファイアスピリッツ〉の2つ魔法を発動し嵌める。この時点で発動分の精神力が不足したので、再び魔聖水を一気飲みっ。

 そのあとわたしは大きく息を吸い込み、シェイキング。すると、黄金色に輝きながらスキルが現れた──それを素早くタップし、発動する。


「《合成召喚:幻火獣トナティウホルン!》」


 途端、わたしが立つ地表が裂け、そこから炎を纏った背丈6メートルほどの巨人がわたしの身体を抱き守るかのようにして地表を突き破り現れる。その姿は、山羊のような大きな角がうねるように左右から生え、獣人さながらに毛深いが、赤い炎に包まれ光輝いていた。


《炎の眷族:我に、ご指示あれ》

「あの者を、倒してっ!」


 わたしの指示を受け、炎の眷属は拳を振り下ろすが、交わされた。──が、更に腕を逃げる方向へと横に振り、それは見事に相手を捉え、その衝撃で相手を地表に勢いよく叩きつけていた。


 よしっ!!



「…………くくっ、流石に最高位だけあって強いな。だが!」

「──!?」


「『シケリア島の、美しき乙女。グラウコスに恋した、キルケーに呪われし悲劇の娘よ……。エンディミオンとの契約に従いて、今こそその怒りを力に変え、我の前にて示すがいい……。

《合成召喚:冥海神姫スキュレー!》』」



 途端、巨大な魔法陣が目の前に展開し、その中から上半身は美しい女性、下半身は魚、腹部からは6つの犬の頭と12本の蛸状の触手が気味悪くクネクネとうねり。そして、上半身のその手には剣を携えた美しくも醜い化け物が現れた。

 しかも、それは!



「──くっ! またっ、逆属性!!?

トナティウホルン、あれを直ぐに攻撃してっ!!」

《炎の眷属:了解した》


「スキュレー! お前を呪った者達の怨み、この場で晴らしてやるがいいっ!!」

《冥海神姫:おお……グラウコス。私はソナタのことを許しはしない…!》


 合成召喚獣同士の戦いにより、カテリナ達みんなが足元で泣き叫び逃げ回る中。トナティウホルンが相手に炎を吹きかけ、スキュレーはどこから呼び寄せたのか?渦巻く海流を周囲に解き放ち、敵も味方にも大ダメージを与えていた。


 ──ぐはっ!

 相変わらず、なんて迷惑な合成召喚魔法っ!


 わたしはトナティウホルンに守られていたからまだ良かったけど、カテリナやマーナ達はかなり迷惑っぽい。


「ごめん、ここから直ぐにみんな逃げて!」

「わ、わかった!!」


「そうはさせるか」

「「「──!!?」」」


「スキュレー! お前の怨み、この程度か?!」

《 冥海神姫:……違う? そうではない?? グラウコス、私を殺したのは、ソナタではなかったの………?》


 どこから呼び寄せたのか?突如、津波が襲いトナティウホルンを海中に沈めてきた。

 ぐふっ! 一気に瀕死!!

 近くにまだ居た、敵も味方も悲惨っ!


 ……ていうか、冥海神姫スキュレーの台詞セリフ、いちいち意味わかんないしっ!!



「トナティウホルン! とにかく、反撃っ!!」

《 炎の眷属:わかった》


「スキュレー! お前の憎悪、その程度か!?」

《 冥海神姫:キルケー……まさか、アナタなの? 親友だと信じてきたアナタが、この私を裏切って……いた?!》


 トナティウホルンが腕を払い、力を奮うが。またしてもどこから呼び寄せたのか?突如、豪雨雷雨がわたしとトナティウホルンを襲い濁流がその身を飲み込んだ。


 ぐはっ!

 トナティウホルン、消滅っ。うそーーん。



「……はぁ…はぁ、はぁ!」

 わたしは息を乱しながらも、急いで魔聖水を一気飲み!


 早く次に備えて、何か手を打たないと!


 わたしはそう思い直ぐに行動しようとしたが、それよりも相手の方が早く、何故か合成召喚魔法を自ら解いて降り立ち、《ダークナイト・アロー》を呼び出し手際よく手に取り構え、わたしの腕目掛けて射ってきた!?


 それまで手にしていた杖が、地面に転がり、その腕から血が滴り落ちる……。


「ふん……心配するな。そう簡単に、殺しはしない。少しづつ、少しづつ、痛ぶりながら殺るつもりだから、安心するがいい♪ クックッ」

「──うはっ!!」


 こ、この人ッ、凄い超ドSだあーっ!?


 思わずびっくりして仰け反りながらも、わたしは相手の隙をついて前屈みに杖を取りに行こうとする。

 が、今度は脚目掛けて射ってきた。


「グッ……!」

 脚にそれは突き刺さり、わたしはその脚を引きずりながらも何とか杖だけは手にしたけど。本当にめちゃくちゃ痛過ぎるよ。このままだと頭が本当にどうかなっちゃう。あとで設定、何とかしないと!


「おや? もしかして、設定がどうとか思っているのではないのか? だが、この裁断の魔杖には、相手へのリアルな痛撃ダメージ300%という特別効果があってね。これは運営が公式に認定している効果だから、緩和策など無い。お生憎様だ♪」

「…………(ど、どんだけ鬼なんだ。此処の運営は!?)」


 ──!!


 わたしがそう思い呆れ顔にため息をついてると、またしても漆黒の弓矢が脇腹を掠め、そこから赤い血が吹き出し溢れ、余りの激痛に膝を地面についてしまった。


「……はぁ、はぁ…はぁ!」

 だ、ダメだ。このままだとやられる……。


 しかも、いつの間にやらわたしの周りを敵の軍勢が取り囲んでいた。


「……何か、手を…手を打たないと……っ!」

 とは言え、頼りのトナティウホルンもダメ。他のどんな召還魔法を使っても、全て跳ね返された。何よりも、わたしがまだ知らない召還魔法をこんなにも沢山使えるなんて……。


 余りにも、絶望的過ぎる。


 でも、だけどせめて、一撃だけでもダメージを与えてやりたい!



『アリスさん、落ち着いて。ここは、戦略的撤退をするのも1つの手です』

「──!? その声は、冬馬さん……??」


 南西シャインティア城内の戦略室に居る冬馬さんより、そんな提案が示され、思わずわたしは自分の耳を疑った。


 だってさ、ここまで来て諦めるなんて出来ないよ!


「嫌です! 皆でここまで頑張って来たのに、ここで簡単に諦めるなんて、絶対に嫌です!」

『ですが……それで装備が大破しまっては、元も子もないのでは?』

「…………」

 それは、確かにそうだけど……でも! うわ!?


 わたしがそんな話し込んでると、白き召還術師ユイリが漆黒の弓矢を足元に放ってきた。


「あ、危ない! 危ない!」

 わたしは咄嗟に、そこから逃げ出した。

『何をやっているんです? 危険であるのなら、今すぐにリタイアするのも手です。そんなことも分からないのですか?』

「ですから! そんなの嫌です! うわあッ!?」

「ハッハ! 逃げ回るのだけは上手だな、アストリアの赤き召還術師ッ!」


 うう~~っ。腹は立つけど、今は仕方がない。とにかく作戦、作戦を立てて……! よしっ!!


 わたしは振り返り様、勢いよく後を追い掛けて来たユイリの懐へと一気に入り込み、下からユイリの顔面目掛けて「ファイア!」を放つ。でも、それは勿論攻撃力なんて全くない。だけど、それでユイリは顔面蒼白に驚き倒れ、隙を見せた。

 

 その隙に、わたしはファルモルを唱え放つ!

「ファルモル、あの者を焼き尽くせっ!!」

 命令して間もなくファルモルは頷き、大きな爆炎がユイリの居た場所を燃やし尽くしてゆく。が、


「『我が名に従えしなんじらに、今こそ命ずる……」

「え? うそ……」

 どういう訳か、わたしの直ぐ側面に白き召還術師ユイリが居た!? 次に顔面蒼白になったのは、わたしの方だ。


「このクソ生意気な召還術師を切り刻んでしまえっ!

《風の隷:シルフィル!》』」

「──!? うわ!!」

 ユイリの召還魔法がモロに直撃し、わたしの身体は十数メートルも吹き飛ばされ宙を舞い、地面に叩きつけられる衝撃で装備が幾つか中破し、穴が空いて肌が露出してゆく。


「………や…ヤバい、かも?」

『アリスさん! 強情を張らず、今すぐにリタイアを!!』


「で……ですからっ! それだけは……嫌なんです。皆で頑張ってここまでようやく来れたのに、それなのに、そんな簡単に諦めるなんてわたしには……出来ないから!」

『………』


つづく

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