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一方、南西シャインティア内の炎の城では──。
「ていうか、お前っ、ミレネだったのかよっ」
「お前とはなんだ、りなりぃ。生意気なヤツだなあっ」
「今は、りなりぃじゃないっ! カテリナだ。ほれっ、チョっチョイのほれほれぇ~っ♪」
「2人とも、落ち着きなよぉ……」
テレポートで炎の城へと降り立ちやって来たら、りなりぃと弥鈴ちゃんと真中が、目の前でそんな感じで言い合ってた。
はぁ~っ、やれやれだよ……。
ヘッドギアを外して、実際の目でリアルに隣を見ると……わたしの部屋でわいのわいのと3人してじゃれ合い揉めてる。
思わず、半眼の呆れ顔になってしまうよ。
そんな思っていると、弥鈴ちゃんが可愛い感じでわざとらしく、リアルでもわたしの胸へ目掛けて急に飛び込んできた。
「わあ~ん、アリスお姉さま~っ! この者から頬っぺたをムニムニされ、苛められるのですぅ~っ。何とかしてくださいっ♪」
「こ、この者って……」
「何が『苛められる』だよっ。頬をほんの少し、チョイチョイ突っついただけのことだし。これまで散々横柄に振る舞い、私らに悪さしてきたのは、チビ、むしろお前の方だろう?」
「そぅ……だよね?」
カテリナとマーナにそう言われ、ミレネさんは目が点の真顔で振り返り口を開き言う。
「弱い者いじめっ、反対っ! 暴力、反対っ!」
「だからな……それをチビ、お前に言われてもなぁ~っ…」
「うん。説得力、まるで無いよね?」
「は…ハハ……」
これから大決戦が始まるという時に、勘弁して欲しいよ。お願いだから、仲良くして欲しい。
「まあまあ、2人とも。この事は、あとで落ち着いてからゆっくりと話し合おうよ。ねっ?」
わたしがそう言ってる間、弥鈴ちゃんことミレネさんはわたしの後ろにコソコソと隠れ、2人に対して舌を『べぇ~っ♪』と出し挑発なんかしてみせてた。
これこれ……。
わたしは再びの困り顔。
見ると、カテリナとマーナの2人もそれで呆れた様子を見せた。それから、わたしとミレネさんの顔を交互に見比べたあと、半眼の表情で遠目に見つめてくる。
「……ていうか、アリス。お前もしかしてこの事、知っていたのかぁ?」
「何だか……そんな感じがするよね?」
──わ!? まっ、不味いっ!!
「いッ、いやっ、まッ、まぁ~っ……わたしもつい数日前に、この事を知ったばかりだからさぁ~っ。あは、ハハッ♪ べ、別に、2人に隠そうとしてたとかじゃなくてさ。機会がなかった、ていうか。何となく、言うタイミングが無くってさッ。はは、アハハっ♪」
わたしが改めて困り顔に苦笑いながらそう言い誤魔化してると、二人は軽くため息をつく。
「まあ、いいよ。そういうことなら、なっ?」
「うん。何も、アリスを責めてる訳じゃないからね」
そう言われ、ホッと安心する。
「にゃにやらよう分からんが、解決したにゃりか?」
「わ!」
誰かと思えば、ねこパンチさんだ。
いつの間にやら、わたしの後ろに立ってた。
「これから改めて今回の作戦概要を説明するにゃりが、いいかにゃ?」
「あ、はいっ!! よろしくお願いします!」
事前にメールで連絡が来てたので、概ね分かってはいたけど。改めて、説明してくれるらしい。
「先ず、北西アストリアと北東ガナトリアとにょ同盟は上手くいきゃなかったにゃあ~で。13軍程にょ南東ワイズヘイルへ向かわせ、南西への侵攻を防ぎ時間を稼ぐにゃ。
その間に、アリス達には北西アストリアへ一気に侵攻してもにゃい、相手の隙を突いて、ポイントを稼いでくれたらそれで良いにゃり。
ここまでは、良いかにゃ?」
「あ、はい」
「了解」
「おっけーです」
残業なことだけど、北西アストリア・北東ガナトリア・南西シャインティアによる3勢力同盟は上手くいかなかったと聞いてたから、特に驚くことはなかった。
わたしもマーナもカテリナもミレネさんも、そこは仕方なく肩をすくめ顔を見合せる。
「で、ここからが本題にゃ」
「「「へ??」」」
「3勢力同盟が上手くいかなきゃった、というのは表向きの話でにゃ。実のところ、幾つかの有力なギルド連合体とは、密かに手を結んでおる」
「「「ハ!!?」」」
「とは言うたところで、逆に言えば、手を結んでおらぬギルドは、こちらへ向かって来る可能性が大いにある、ということにゃで……。
そこでにゃっ!」
「──ふあっ!!?」
「南下して来る、北西アストリアの軍を叩きのめし。そこで、アリス!」
「わ、は、はいっ!!」
「元、《アストリアの赤き召還術師》の健在ぶりを内外に示し、この南西シャインティア及び北西・北東の勢力を勢いつかせ、南東ワイズヘイルへと向かわせてもらいたい」
「わ、わかりました! やってみます!!」
ねこパンチさんの勢いに圧され、思わずそう答えちゃったけど。自信なんかまるでないよ。でも、この流れ的にやってみるしかないよね?
「それはそうとにゃ……」
わたしがそこで『よしっ!』とばかりに気を引き締めていると、ねこパンチさんがわたしの身体を上から下まで眺め口を開いてきた。
「今回はまた、随分と装備がパワーアップしたようにゃりな?」
「あ、ホントだね! アリスの装備だけ、特別製って感じ」
「私らも、今回から装備の製錬をライアスさんの所に頼んでやってもらったけど。ここまでじゃないもんなぁ~っ」
「そんなの当たり前だ。アリスさまとお前らでは、そもそも格が違うのだからな。格が!」
「なんだとぉーっ、チビっ!!」
「なんか生意気っ!!」
「これこれ……」
また3人して、リアルでも頬っぺたムニムニとやったり、やり返されたり始めてる。
仲が良いんだか何だか??
それにしても、マーナもカテリナもミレネさんも装備が一新されていて、それぞれルミナスオーヴ光が輝いていた。
「悔しいですが、どうやらその様ですね?」
「わ!!」
わたしがそう思ってると、背後から急にそんな声が聞こえ。振り返ると、そこには天龍姫さんが立ってた。
でも、そう言った天龍姫さんの装備も、やはり同じく一新されてて更に凄い格好いい。迫力もある!
天龍姫さんが、そこで優しく微笑み口を開いてきた。
「アリスさんから、一気に装備でも抜かれちゃいましたね♪ とても力強さを感じる装備で、羨ましいわ」
「そ! そんなことは……ッ!?」
あ、あるのかな???
根拠なんか何も無いけど、今回の大決戦も良いところまで行けそうな気がする。戦力差は明らかだし、勝てる筈もないのに、そう感じるのだから不思議だよね?
間もなく運営からのアナウンスがあり、今日と明日の2時間と2時間、合計4時間にも及ぶ大決戦がいよいよ始まろうとしていた──。
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