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「…………それで、結局、オレ達まで巻き込まれたって訳かぁ?」
「は…ははっ……あははっ!」
あのあと、岡部くんと太一をマックに呼んで集まってた。二人共、迷惑そうな顔をしてる。
ここはもう、笑って誤魔化すしかないよねぇ~っ?
「ふむ……事情は解りました。ですが、その為にアリスのチートスキルの謎を教えるというのは、考えものですよね……。正直、そこまでして今回は勝ちに拘る必要はないかと思うので」
太一の真っ当な意見を聞いて、わたし達は「それもそうだよねぇ?」と納得顔を互いに向け合った。
「言われてみると、それもそうだよなぁ? 危うく、うちの友翔に騙される所だったよ。ハハ♪」
「ヒドイな。散々、家からずっと情報を執拗に聞いて来たの、姉さんの方だったでしょ~っ?」
「まあまあ~っ」
これ以上、姉弟喧嘩に付き合わされては堪らないよぉ~。
わたしは作り笑いを浮かべたまま、二人を何とか宥め、何とか上手くいったことが分かり肩を竦める。
「という訳で、話し合いは見事に決裂となったが……。しかし、ワイズヘイル内で南西がどの程度注目されているのか、気になりはするよな?」
「ええ……確かにそうですね」
岡部くんと太一が、急にそんな気になる言い方をしてきた。
「ン? でもそれくらいの情報なら、うちの友翔からわざわざ聞かなくても、簡単に手に入るんじゃないのかぁ?」
りなりぃだ。
言われて見て気づいたけど、なるほどそうかも?
「確かに、情報だけなら入りはするけど。なかなか確証まで得られないのが現実でさ。
何せ、騙しの可能性だってあるだろう? 内部の信頼出来る人間から話を直接聞けたら、それが一番ではあるんだよ」
「あ……そうか。そんなモノにまで、騙しってあるんだっけな……」
「…………」
──ふ、深いなっ!
わたしには、到底ついていけそうにないよぉ~っ。
そう半笑いに自分に呆れ思いながらふと隣を見ると、花藤璃奈が、そこで一度考えた様子を見せたあと。次に、イタズラっぽく『にひっ♪』と笑み、中腰姿勢で軽く席を立つなり、前に座る友翔くんの肩の上にポンと手を乗せ、口を開いてる。
「と、言う訳でだ! 友翔、わかっているよなぁ~っ? 何しろ、私の大事な友人である真中のポテトを食べたんだぁ~っ。それくらいの情報提供は、当然だろう? ハハ♪」
「──はあっ!? 意味わかんないよっ!」
明らかに友翔くん、迷惑そうな顔をして、りなりぃの方を半眼に見つめてた。
わたしも、そんな花藤璃奈にちょっと驚いて、思わず困り顔に苦笑ってしまうよ。
「ごめんね……友翔くん。そんなのくらいで情報提供しなくて良いから……。
ねっ、アリスもそう思うでしょう?」
「思う思う! 実際、今の意味わかんないし」
「こらこら、真中にアリス。そこは私の支援をすべきところじゃないのかぁ? だって、味方だろう?」
そんなコトを言われてもねぇ……。
隣を見ると、真中も困り顔を浮かべてる。それから口を開いた。
「そんなコト言われてもな……りなりぃのさっきのって、何だか強引過ぎるよね?
大事な友人って言われたのは、素直に嬉しかったけど」
「うんうん! 確かに、りなりぃはわたし達の味方で大切な仲間だけど。それとは別に、単純に正義は守るべき道徳だと思うので、ここは真中と一緒に敢えて突っ込んでおくっ!」
「な、なんだよっ。それじゃ私が独り、極悪人みたいじゃないか……」
「「いやっ、何もそこまでは言わないけどさぁ~っ」」
わたしは真中と一緒に隣のりなりぃを見つめながら、困り顔の苦笑いを互いに浮かべ合った。
りなりぃはそんなわたし達の表情を見つめ、ため息をつき口を開いてくる。
「まあ、勢いで言っただけにしろ。今のは流石に不味かったかな?と思ってはいるよ……」
「「………」」
何とも煮え切らない言い方をするので、わたしと真中はりなりぃを半眼に見つめた。
すると、慌ててつけ加えてくる。
「ああ、わかった! わかったよ。ここは素直に、私が悪かった。だから、もうこれくらいでいいだろう? 本当に反省しているからさ……」
わたしと真中は、その言葉を聞いて互いに微笑む。
「そこはさぁ~っ、友翔くんに直接言って上げないと。だよねぇ~っ? アリスっ」
「うんうん! そうだよっ、りなりぃ!」
「………………」
りなりぃは一度、友翔くんの方を露骨にも嫌そうに見つめ。それから半眼になり、次に不愉快気な表情をして顔を背け、ハッキリと言った。
「それだけは、ヤだねっ!」
「「──えっ!!?」」
「だって、友翔の奴っ! 今朝、私の卵焼きを勝手に食べたんだぞぉ~。
だから、私からは絶対に謝らないっ! 友翔が今朝のこと素直に謝る、明日の卵焼きは私に自分の分を献上する、って言うんなら。私だって喜んで謝るけどなっ!」
「「…………(りなりぃ、意外にも子供だ…)」」
わたしと真中は、肩をすくめ、思わず困り顔に苦笑う。
「仕方がないなぁ……わかったよ、姉さん。陣営のことは話す。真中さんのポテト食べたのは、確かだからね。
今朝の卵焼きも、認めるよ。
だけど言っとくけど、姉さんが『脚周りが』どうとか、『体重が以前よりも』どうとか凄く気にしていたみたいだから。ボクなりの優しさのつもりだったんだけどね? 余計なコトでした。明日の分のボクの卵焼きは上げます。
今朝は、姉さんの大好物を勝手に食べて本当にごめんなさい。もう、しません。
……これでいい?」
友翔くんが突然、ため息混じりにも淡々とそう言って来た。しかも、ちゃんと謝ってる。余りにも淡々としていたので、言葉の上で、って感じだったけど……。
「ゆ、ゆう……お、お前っ……!!?」
「ボクはもう謝ったんだからね。ほら、姉さんも直ぐに謝ってよ」
「うっ……!」
りなりぃは余程謝りたくなかったのか?困り顔なんか見せて、不愉快気に口まで尖らせてる。
ここは素直に謝ればいいのにね~?
一方、友翔くんの方は、そんなりなりぃをニヤニヤと見つめ楽しんでいるようだった。
……どうもこの姉弟の関係が、ちょこっと見えた気がしないでもないなぁ~っ。
「だけど……本当にいいの?」
「え? ああ、陣営内の情報ですか? 別にいいですよ、それくらいなら。
但し、こちらにもそれ相応の情報をお願いします」
わたし達は、それを聞いて確め合い、笑顔で頷いた。
相応の情報なら、陣営として、問題はないだろうと思ったから。
友翔くんはそれを見て、口を開いてきた。
「正直、南東陣営としては余り南西には注目していませんよ。確かに、戦略家の冬馬という人やアリスさん。そして、天龍姫など、一部のランカーに対しては警戒しています。……ですが、ワイズヘイルにとって最大の敵対勢力は、間違いなく北西アストリアです。なので、南西シャインティアに対し、必要以上に構える動きは今のところ全くありませんね」
わたし達は、友翔くんのその言葉を聞いて、ホッと安心した。
それを見てなのか?友翔くんは少し不愉快な表情を見せてくる。
「……随分と余裕ですね? 言っておきますが、うちは単純な数だけでなく、ランカーも粒揃いなんですよ。油断だけはしないで居てくださいね? あとでそれを理由に言い訳なんかされてはたまりませんから」
「ハハ。ああ、それは勿論わかっているよ。身に染みる程にね」
岡部くんは肩を竦め、そう返した。実際わたし達は、強敵だと思っている訳で……。
だけど友翔くんは、それでも納得しなかったっポイ?
「……ところで、この事は既にご存知かも知れませんが。南東ワイズヘイルで、陣営を指揮している人のことは?」
「いや、そこはまだ知らないな……」
「以前の北西アストリアで、天山ギルド本営のサブGMをやっていた山河泰然って人です。勿論、その人のことはよくご存知ですよね?」
「「「──!!?」」」
「それから、実はうちにも召還術士のエースが居るんですよ。知ってました?
アリスさん程の職種スキルも熟練レベルも高くはないですが、かなり類い稀な使い手です。
一応、気をつけて居てくださいね?」
「ま……マジですかっ!?」
ヤ、ヤバいな……そんな人まで南東には居るんだ?
「おい! 友翔……強気でいられるのも今の内だ。精々、勝手に吠えていろよ。まあ~明後日には、お前が泣き目に合うのは疑いようも無いけどなぁ~。あは、あハハハ♪ うわっはっはっ!!」
「「…………」」
りなりぃ~っ。それこそ強気で言っていられるの、こちらの方が今の内かも知れないんだよぉ~?
わたし達が困り顔でそんなりなりぃを見つめる中、友翔くんは両腕を組み、半眼の遠目に見つめ口を開いてきた。
「……それよりも姉さん。何か、忘れてない?」
「ん?」
「まだ、ボクの方は姉さんから謝って貰ってないんですけど。ちゃんと謝る気、あるの?」
「…………」
りなりぃはそれから暫くして、皆んなから注目される中、「……ご、ごめん。悪かったよ…」と身を縮こませ小さく謝ってた。
まあ、素直が一番だよねぇ~っ?




