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アストガルド・ファンタジー  作者: みゃも
【第三期】第6章《ほんのちょっと贅沢な?夏休み》
107/213

ー5ー

 夢のような夕食の時間を過ごし、わたし達は太一達の部屋へと向かった。というのも、AFに入り、来月8月の第一週目に行われる《大決戦》の対応に向かっての会議をするため。


 今の時間は夜の7時頃。あと二時間後の夜9時ちょい過ぎまでなら、この部屋内を条件に番頭さんの監視の元、同じ部屋で好きにしてていいと許可を貰ってる。


 その番頭さんは、見るからに人の良さそうなお爺さんで。年齢は78歳。わたし達を監視するどころか、どうかすると正座をしたままその場でコクリコクリと眠りこけてしまう雰囲気なのでありますが……。


 わたし達としては、その方が肩も凝らなくて助かるんだけどね?



「でさ、どうするの?」

 どうっていうのはつまり、AFにログインしたのまでは良かったけど、まだ何一つどうするのか方針を決めてなかったから。


「どうなるのかはまだ分からんが、とにかくギルド拠点か炎の城で作戦会議から……ってなるだろうな?」

「ええ、そうなりますね」

 岡部くんがそう答え、次に太一が頷きAF内で拠点へと向かってる。その横顔が真剣で素敵。

 そんな太一に、わたしは頬を朱色に染め、それとなくそっと顔を近づけ聞いた。


「ねねっ太一、冬馬さんにはもう連絡したんだよね?」

「ええ、勿論」


「それで返信は?」

 それに太一が答えるよりも早く、隣に座っていた岡部くんが不愉快気な態度で口を開いてきた。

「ばぁ~か、そんなにも早くに来るかよ。幾ら冬馬さんでも情報なしでは戦略なんて組めねぇよっ」


「むっ! そんなことはわかってるけどさっ……」

「だったら聞くな」


「──ぬわっ! わたしは太一に聞いたの! 岡部くんに聞いたんじゃないですからっ!!」

 考えてみると確かにさ。運営から知らせが届いたのが今朝の10時、このことをまだ知らない人だって多く居ると思う。それはわかってるんだけど……それにしても今の言い方ってなに? 頭にくるよねっ!


「……そんなにも言うなら言い返してやるが。オレがお前のこと気にしてるの、分かってんだろう? それなのによ、これ見よがしに見せつけてくるってぇ~のは何だよ……アリスお前っ、さてはオレから気にして欲しいんじゃないのかぁ?」

「──はあっ!?」

 わたしも驚いたけど皆も驚いてた。何よりも太一が顔を真っ青にしてるのが心配になっちゃう。


「ちょッ、太一っ! 違う、今の違うからねっ!」


 実のところ、こういうのを切欠に少しでも太一に近づけたらなぁ……という下心はあった。あ、いやっ、あくまでも健全な範囲でねっ!

 何よりも、わたしに対する気持ちを確かめたくて……。


「ほぉ……言い切ったな? なら今ここで、ちゅ~してみろよ。そうしたらオレも認めてやるよ」

「へ? なによそれ、意味がわかんないよ。ねっ? 太一もそう……」

 ──思うでしょっ?と振り返りながら言おうとした……ら、わたしの唇に柔らかな感触を感じ、それで驚き目を見開くと、目の前には同じく驚いた表情を見せる太一の顔があった。しかもその口元まで、残り僅かほんの数センチ。



 ……って、まさか今のって──!?



 どうやら太一は、わたしの頬に何かをしようとしてたっぽい。そこへわたしがうっかりと振り向いてしまい………結果として、唇と唇がほんのちょっと微かに触れ…?


 つまり、これは事故。


 今ではお互いにそれを意識し、口を両手で隠し、気恥ずかしさから頬を朱色に染め俯いてしまう。

 実のところ、わたしは全身真っ赤。心臓はドキドキっ。もう沸騰寸前……て言うか、沸騰しまくってる。

 が、それから間もなくして太一のおばさんがやって来て、笑顔を1つ残し、沢山の果物を置いていったので、びっくり。



 ──……あ、危なかったあー!



 何にせよ、太一のわたしに対する気持ちがこれで確認できたので良かった。少なくとも、わたし独りの一人相撲ではなかったっぽい。


 ただ、わたしにとって産まれて初めての『初キス』がこんな形で終わったのが……ほんのちょっぴり残念だったけどね?


 でも、まあいっか♪



  ◇ ◇ ◇ 


「……で結局、先ずは情報収集からってことで解散か」

「ハハ、現時点では仕方ないですよ、これは」


 炎の城でギルド連盟全員集まり会議をやった結果、結局は情報不足ということで本日は解散になった。さすがの冬馬さんも、今日時点では何も作戦がたてられなかったっぽい。

 仕方ないよね?


「じゃあ、わたし達はこのあと、また風呂ってからそのまま部屋に戻るね?」

「ああ、お疲れ」

「……アリス、あのさ」


「ん?」

 立ち去ろうとするわたしに、太一が急に思い詰めた様子で話し掛けてきた。

「あ……いや、おやすみ」

「……?」

 何か話し掛けようとしてたみたいだけど、結局はそれだけだった。わたしは敢えてそれを追及しようとはせず、にっこり優しく笑顔を向け言った。


「うんっ、おやすみ♪」

 それから部屋を出て、皆とわいわいお風呂へと向かう。



「なぁなあ今の太一くん、もしかしてアリスを夜道へ誘おうとしてたんじゃないのかぁ?」

「うんうん! そんな気がした!」

「あはは、まさかあ~っ」

 とか言いながら、実はわたしもほんの少し期待しちゃったんだけどね? でもさ、まだそんなにも急ぐことはないかな、って思ったんだ。


「ふんっ。あの程度の男が、アリスお姉さまを誘おうなど10年早いわっ」

「あはは、心配ないよ弥鈴ちゃん。何があっても〝みれにゃん〟はわたしの可愛い妹なんだからさぁ~っ♪」


「「──みっ、みれにゃんっ!?」」


 わたしは上機嫌でそう言って弥鈴ちゃんに甘えるよう抱きつく。その時のみれにゃんの反応が、これまた凄く可愛かった。そのあともこんな感じで皆と仲良く楽しく風呂り過ごす。


 てな訳で、今回も入浴サービスシーンは無しってことでぇ~っ♪ いいよねっ?



 【第三期】第6章《ほんのちょっと贅沢な?夏休み》おしまい。


 ここまでお付き合い頂きまして、ありがとうございましたっ。


 本作品をお読みになり、感じたことなどをお寄せ頂けたら助かりますっ。また、評価などお待ちしております。今後の作品制作に生かしたいと思いますので、どうぞお気楽によろしくお願い致します~っ。


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