夢の中で見たキミ
はいっ! 皆様、今回も珍しくお待たせしませんでしたぁ~っ!(当社基準っ ⬅ぇ
【第三期】第5章《りなりぃ②、夢の中で見たキミ》を投稿致します
今回はいつもと違った視点、雰囲気でのアストガルド・ファンタジーとなりますが、そこはどうかご容赦くださいませ。
因みに、アリスのゲーム内貧乏ぶりは……今回余り関係ありません(ぇ
それは……遠い夢。私の心の中に眠る、遠い記憶の思い出。
でも、そのことを自覚するのはいつもその夢から覚めたあとで、そこにはいつも切なさだけが心に染みて残る。
『ねぇ~っ、かずちゃん。いつものサッカーやって遊ぼう~っ』
夢の中で私は、1人の男の子に明るい笑顔でそう声を掛けていた。すると男の子は不愉快そうな表情を浮かべ、こう言う。
『りな、お前っ。あの話は本当なんかぁ?』
『ん、ぅん……なんかそぅらしいけど。でも、だけど今はそんなの関係ないよ。だから、遊ぼ?』
『……オレ、お前とはもう2度と遊ばん』
『──えッ、なんでっ?』
『だってお前っ、オレのこと今まで騙してたやろ。将来一緒にJリーガーになろうとか言うとったクセし、そんなん絶対に無理やったんやなかとかあっ』
その時、かずちゃんは頬を染め、こちらを真面目な表情をして涙目に見つめこう言った。
『オ、オレっ……お前のこと、もう同じ男として付き合わん。よかなっ? よかとなあっ!』
『ち、違う! 待ちなよっ、違うんだって! ただそういうことよく分かんなくてさ、知らなくッてさ、騙してたとかそんなんじゃなくッてさ、だからっ。待ってっ! お願いっ。行かないでよぉーっ!』
「──だからっ、本当に違うんだってッ!」
目の前にある見飽きた本棚、見慣れたいつもの白い天井、6畳程の洋部屋、子供の頃からある〈ぐでにゃん〉という猫をモチーフにしたゆるキャラのぬいぐるみ。
そして……ベッドの右手にある窓のカーテン越しから差し込む眩しい朝日。私はその向こうを遠目に眺め、それから深いため息をついた。
◇ ◇ ◇
「姉さん、ソース取って」
「あいよ~っ」
朝7時半、夏休みとは言え、うちの家風ではゆっくりと眠らせては貰えない。案外と厳しいのだ。
「りぃ~なっ、その言葉遣いそろそろ直しなさぁい」
「はあ~い、わかっとりまーす」
「姉さん、その醤油取って」
「あいよっ」
「だからっ、りなっ!」
「──!?」
私はびっくりして、頭を亀のように引っ込めた。そして申し訳ない感じで言う。
「ふえ~い、わかってまぁ~す」
「まったくもぅ……」
「ハハ、まぁ良いじゃないか。言葉遣いなんかこれから直してゆくよなぁ、りな?」
父は優しくそう言ってくれた。私はそんな父のことをキライじゃない。だけど、敢えて好きとも言うつもりはない。だってそう言うのってさ今さら恥ずかしくて、とても普通では言えないだろう?
「私はそのつもりなんだけどさ、不思議となおらないんだよなぁ~っ?」
「単に、あなたの努力が足りないからよっ」
母から澄まし顔でバッサリとそう切り捨てられた。私は小さく頬を膨らませ、卵焼きをひとかじりしながら、心の中であかんべーを返しておく。
「あ~そう言えば姉さん、今日もランキングは上位のままなのっ?」
気の利いた弟が、困り顔でそう聞いてきた。普段は憎たらしい弟だけど、こういう時には妙に可愛いくて思わず抱きしめたくなる。
「ランキングって、何の話?」
母が不思議そうな表情を見せている。
「ああ、そういやうっかりと忘れていたなぁ~っ。え~っとねぇ、ランキングってぇ~のは投稿サイトのなんだけどぉ……。ちょっと待っていなよぉ~っ。今朝は色々とあってさぁ、まだ確認してなかったんだ。
ン、おっ! あった、あったぞぉ~っ!」
「へぇーっ! まだ頑張ってるみたいだねぇ~」
「だから何を頑張ってるのよ?」
「これよ、これっ! なんと驚きのランキング上位ぃーっ。凄いっしょっ?」
そう言って母に投稿サイトのランキング画面を、じゃじゃじゃあ~ん、とばかりに自慢気に見せた。
「ン? なによ、これっ? こんな訳わかんないネットなんかのランキングに載ったくらいで、いちいち自慢するんじゃないのっ」
「「はぁああーっ!? ここ有名な投稿サイトなんだよぉおおーっ」」
私は、弟と一緒に手を取り合い驚いてみせた。
「そんなの知る訳ないでしょう。父さんは知ってました?」
「いや、オレも知らないなぁ~っ」
「「──はぁあああーっ!?」」
弟と私は、そこで泣きそうな思いで互いに抱き合い、こんな無関心な両親を持った自分たちを心底恨んだ。
◇ ◇ ◇
そのあと父は会社へと行き。母は洗濯を始めた。私もそれを手伝い、掃除も簡単に手伝い済ませ、今は居間にあるソファーの上でクッションに抱きつき、テレビを観ながらのんびりとしている。
「りな、あなた勉強は?」
「今朝早く目が覚めたから、その時にやったよっ。洗濯も手伝い、掃除も手伝い、今は当然の権利を主張してるだけぇ~」
「まったく……あなたのその性格、誰に似たのかしらねぇ?」
「たぶん、髭の爺さんからじゃないかなぁ~?」
私は子供の頃に、父方の爺さん家へ長い間預けらたことがある。1つ下の弟が産まれ、だけどその弟が直ぐに病気して、それからしばらく経ってからの半年間だったと思うけど……。私がまだ3歳の時だったと話で聞いている。その時に色々な知恵やら何やらを身につけたものだ。
「しぇっからしかあーっ、こんっバカちんがあーっ!」
※↑九州弁です。
これが爺さんの口癖だったのをよく覚えている。口髭と顎髭を長く伸ばし、焼酎片手に啖呵を切る九州 男爺(※だんじぃ)。戦時中はフィリピンで戦い、それなりの戦果をあげたのだとよく自慢気に言う爺さんだった。※造語です。
「しぇっからしっ、こんっバカちんたまーっ♪」
「おうおう、そうじゃっ! 男ん子はそんくらい元気じゃなきゃいかんぞっ。ガッハッハ!」
「爺さん、この子は女の子……女の子なんですから……頼みます」
「バカたれがこんっ、そんなもんワシが認めんっ!」
「そういう問題では……」
「バカたれがこんっ、きんたまこんっ、がっはっはっはー♪」
「おうっ、その調子じゃっ、りな! もっと行けっ! もっと言っちゃれっ! なんでん元気かとが一番よかとぞぉ~っ!」
「ほいなっ! うんこたれがっこぉ~んっ、タマタマきんたまっこぉ~ん、しとけなしとけなほっとけこぉ~んっ、そうかそれなそれがなんばどうした? がっはっはっ! チンチン?」
「ああ~っ、もうめちゃくちゃだ。兄さんに何て説明しよう……」
「気にすんなっ、きんたまこぉ~んっ♪」
「ガッハッハ! そうじゃっ気にするなこんっ、我が可愛い孫よっ!」
「……さすがに気にしますよ」
歯はもうほとんど無く、それでいてよく食べ、よく喋り、よく笑い、よく叱ってくる。とにかく元気な爺さんだった。
そして、その時にそこで知り合ったのがかずちゃん……一樹くんだ。
一樹くんは、爺さん家から三軒となりの家に住んでいた。こんな田舎だと子供もそんなに居なくて、家で何かやって遊ぼうにも何もなく。早く帰りたいなどとよく喚いていたのを覚えてる。だけど近くの公園でかずちゃんと知り合ってからは、不思議とそうは思わなくなった。
私とかずちゃんは、よくサッカーボールで遊んでいた。サッカーといっても子供のやることだから、単に蹴ってはそれを追いかける、その程度だったと思うけど。その頃はそんなことでも本当に楽しかったものだ。
「あらあら、かずちゃんは将来プロのサッカー選手になれるとじゃあなかとねぇ~っ?」
「ほんと上手かぁ~っ」
※↑九州弁です。
そうした大人たちの勝手な妄想は、時として純粋な子供心を弄ぶ。かずちゃんはすっかりその気になり、私も一緒になろうとまで言ってくれた。当時はそれがどれ程困難なものなのか、また無茶なことなのか、そうした知識というものが全くなかったから、私は簡単に力強く頷いてしまったのだが……。
「うん◯っ! なろうーきんたまっ!」
※↑これは間違った九州弁です。
その時のかずちゃんの苦笑いは、今でもよく覚えている。
それから間もなく、あれだけ元気だった爺さんが突然に亡くなった。
「あんなにも元気やったとに……ホント、いつどうなるかなんてわからんもんやねぇ~っ」
「そうなるとりなちゃんは、親元に帰されるんやろかぁ~?」
「もちろん、そうやなかとぉ~?」
「何やまたここも寂しくなるごたるねぇ~っ」
「「「そうやねぇ~っ」」」
※↑かなり上級者向けの九州弁です。
そうした大人達の話を、私は静かに正座して黙って聞いていた。人の死を、この時どれほど理解していたのかわからないが、ただただ寂しかったのはよく覚えている。そしてふと庭先に目をやると、そこにはかずちゃんが立っていた。
「かずちゃん!」
かずちゃんは私が声を掛けると何故か逃げ出した。それを見て、私は慌てて追いかける。
いつもの近くの公園で、かずちゃんはサッカーボールを独り寂しそうに蹴っていた。
「ねぇ~っ、かずちゃん。いつものサッカーやって遊ぼう~っ」
私は喪服姿のまま可能な限り明るい笑顔でそう声を掛けた。だけどかずちゃんは不愉快そうな表情を浮かべ、こう言う。
「りな、お前っ。あの話は本当なんかぁ?」
私はそれを聞いて直ぐに察した。きっと、さっきのおばちゃん達の話をかずちゃんは聞いていたのだ。
「あ、ぅん……なんか、そぅらしいけど。でも、だけど今はそんなの関係ないよ」
そんなことをいま言ったところで、きっと何も変わりはしない。
「……オレ、お前とはもう2度と遊ばん」
「──えッ、なんでっ?」
「だってお前っ、オレのこと今まで騙してたやろ。将来一緒にJリーガーになろうとか言うとったクセし、そんなん絶対に無理やったんやなかとかあっ」
その時、かずちゃんは頬を染め、こちらを真面目な表情をして涙目に見つめ言った。
「オ、オレっ……お前のこと、もう同じ男として付き合わん。よかなっ? よかとなあっ!」
「ち、違う! 待ちなよっ、違うんだって! ただそういうことよく分かんなくてさ、知らなくッてさ、騙してたとかそんなんじゃなくッてさ、だからっ。待ってっ! お願いっ。行かないでよぉーっ。
こんっ、うん◯たれーっ!!」
「──バッ、バカこんっ! もう知らんっ!」
今だからこそ分かる。最後の言葉の選択は、きっと間違っていた。
それから1週間後、爺さんの葬式も一通り終わり、私は親に連れられ今のマンションに戻った。
あれからかずちゃんとは、1度も会って居ない……。
「わー、この選手凄いな。オレとそんな変わんないのに」
「ン?」
何のことかと思えば、テレビの話だった。どうやら高校サッカーのインターハイらしい。
「三浦一樹か、すげーっ! 九州勢強いよ!」
「……かず、ちゃん?」
テレビの向こうに映る面影にどこか懐かしさを感じた。確証なんて何もありはしない。だけど私はその満面笑顔な彼の眩い姿を見つめ、急に心の底から嬉しくなり、何となくそんな気がしたんだ。
「ああっ! 確かに凄いよなぁ~っ」
──夢、キミはもぅ……掴めたんだねっ
ここまでお付き合い頂きまして、ありがとうございました。
本作品をお読みになり、感じたことなどをお寄せ頂けたら助かります。また、評価などお待ちしております。今後の作品制作に生かしたいと思いますので、どうぞお気楽によろしくお願い致します。




