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炎の城、南門から攻めることにしたがこの緊張感は、初めてミレネさんと対峙したあの時以来かもしれない。わたしは改めてグッと気を引きしめた。
「アリスさまっ、スキルセットは準備おっけーですか?」
「はいっ、セット完了しましたッ! だけどっ、本当に無理を感じたら構わず撤退してくださいっ! お願いします」
「ああ、そこは歴戦の経験と勘とやらで自由にやらせてもらうよ。が、端から負けるつもりなんて更々にないがなあ~っ」
ザカールさんの強気な様子に勇気を貰えた。
相手はまだこの城内に27軍、それに対しこちらは21軍。そして防御側が有利となる城内、更に相手はランカー揃い、打てる策も何もない正面対決。普通に考えたら勝てる状況ではない。でもっ、
「では、いきますねっ!」
「「「にゃにゃんっ!!」」」
門を抜けて間もなく、大弓部隊が壁に隠れながら左右両側に展開し、侵入を阻止してくる。そして遥か前方には、近接部隊が二列並び前進を阻んでいた。基本的な守備配置で隙がない。
「残り時間、あと7分。余りここで時間を掛け過ぎると相手から背後を突かれる可能性があります。補助魔法は他の者に任せ、とにかくアリスは新しいスキルの発動を試してください」
「はいっ! 皆さんお願いしますっ」
「無理にここを落とす必要はない。チャンスがあれば狙ってみる、その程度だから、みんな無理はするなよっ」
皆がザカールさんの話に頷く中、わたしはメモ帳を取り出し確かめた。先ずは手頃なこれからだ。
わたしはスキル一覧からメテルフォルセを選択、更に召還魔法フェルテスを選択……本当に埋まった! そのフェルテスの1セット枠に赤魔法ヘルムヘルを嵌める。本来ならフェルテスは1セット発動なので、ここで〈バイキルウィング〉が自動発動する筈だけど、今はメテルフォルセの2セット枠内の1つを埋めてる状態なのでまだ発動しない、ここまでは期待してた通り。問題はここからだ。
2セット枠のもう1つに上位召還魔法〈フェルフォルセ〉をセット、そのフェルフォルセの2セット枠内に白魔法〈フィラルザ〉と黒魔法〈ベスティファル〉を嵌める。本来ならここで〈デルタフィルホールド〉が自動発動するがやはり発動しない、が……。全ての枠が点滅し始めた。それは今までにない反応だった。
わたしはそこでシェイキングする。するとそこに新たなスキルが黄金色に輝きながら現れた。わたしはそれを素早くタップし、発動する。
「《ラディカル=ブースト!》」
途端、所属軍全員の基礎ステータスが130%アップした。つまり攻撃速度、体力、攻撃力、精神力などといったもの全てが。
「うわ! なんだこりゃ、凄いなっ」
みんな驚いてたけど、わたしも驚いた。今までなら沢山の召還魔法を重ねて上げていたものがこれ1つで上がる。ただ、その消費精神力は半端ないけど……。
それを合図にしたかのように、みんな城内攻撃を開始した。
わたしはその間にまたメモ帳を確認する。
「お次はこれっ、残り時間もないし本命でいく!」
魔聖水を一気飲み、それでもまだ全回復しないので、もう一本更に飲む……なんか泣きそうだよぉ~っ。
わたしは半泣きしつつも再びスキル一覧から最高位・合成召還魔法〈メテルフォルセ〉を選択、更に最高位召還魔法〈アルカマアロー〉を嵌め込み、そこへ〈ファイア〉を嵌める。そのあとに上位召還魔法〈フェルフォルセ〉を嵌め込み、そこへ上級白魔法〈レジェヌドール〉と上級黒魔法〈ファイアスピリッツ〉の2つ魔法を発動し嵌める。この時点で発動分の精神力が不足したので、再び魔聖水を一気飲みっ。
そのあとわたしは大きく息を吸い込み、シェイキングする。するとそこに新たなスキルが黄金色に輝きながら現れた──が、まさかこれってッ!?
わたしはそれを素早くタップし、発動する。
「《合成召喚:幻火獣トナティウホルン!》」
途端、わたしが立つ地表が裂け、そこから炎を纏った背丈6メートルほどの巨人がわたしの身体を抱き守るかのようにして地表を突き破り現れる。その姿は、山羊のような大きな角がうねるように左右から生え、獣人さながらに毛深いが、赤い炎に包まれ光輝いていた。
《炎の眷族:我に、ご指示あれ》
「え?」
その幻獣トナティウホルンからそんな言葉が聞こえたが、わたしには何のことだか意味がわからなかった。どうやらファルモルみたいにターゲットスコープが開いてそこを攻撃するとかそういうことじゃないみたい。
わたしがそうこうやってる間に、城内の敵は幻獣トナティウホルンを見て慌てビックリし撤退していった。
因みに世界チャットでも、この事が一気に拡散されてゆく。
「アリス、凄いなそれっ!」
「こりゃあ~っ面白い、このまま一気に攻めてみるかぁ?」
「あ、はいっ! えと、向こうへお願いしますっ」
《炎の眷族:わかった》
信じられないけど、この子は消えることなくわたしの指示に従ってくれた。一度きりじゃ消えないみたいだ。
「って…………ああーっ!」
よく見ると、精神力がどんどん減ってゆくっ。わたしは慌てて魔聖水を飲んだ。つまり、そういうことでしたかあーっ!? 流石はあの運営ぃっ、鬼だあーっ、侮れないぃっ!
城内に入り、敵の攻撃を一斉に浴びるが、それらは幻獣トナティウホルンが腕を大きく振るって守ってくれた。どうやらこの子にも耐久力があるらしく、上に表示されているゲージが少しだけ減ってゆく。
凄いコスパは悲惨で悪いけど、この子が壁になってくれてるので、みんな幻獣の背後に隠れ城内の敵を攻撃してた。
「アリス、コイツ攻撃とかは出来ないのか?」
「あ、うん。ちょっと頼んでみるねっ! お願いっ、敵を倒してっ」
《炎の眷族:敵とは、なにか?》
「え? あ、あそこのあれがそうっ!」
《炎の眷族:わかった》
幻獣トナティウホルンはドシドシと歩いてゆき、炎のブレスを口から吐き相手に浴びせた。それで数人が呆然と見とれたままま消滅してゆく。
この子、めちゃくちゃ強いっ。だけど……ゴクゴクっ!
リフィルもめっちゃ掛かるよぉ~っ。
でも問題はそれだけでは済まなかった。
「あ、ぅわあっ! アリスっ、コイツなんとかしろっ」
「へっ? あ、ぅわああーっ!」
幻獣トナティウホルンはわたしがさっき指示した辺りに来た味方までも攻撃してた。普通なら同じ軍とかギルド所属の仲間には攻撃出来ない仕様の筈なんだけど、どうもこの子だけは特別そうではないらしい。って迷惑っ!
「ちょっ、ストップ! ストップぅーっ!」
《炎の眷族:わかった》
あ、扱い辛いぃ~っ……。参ったなぁ。
そうしてとうとう魔聖水も無くなったので、自然消滅。目の前にはこの城の主である炎のエレメント女神イルオナが、いつもの冷徹な微笑みをたたえこちらを見つめていた。その前には、それでも下がらなかったランカー達が立ち塞がっている。
「かなりの奴らがさっきのでここを逃げ出したようだが、どうする? 相手はもはや少数だが、やべぇ上位ランカー揃いだ。簡単じゃあーないぞっ」
「ランズ、残り時間は?」
「あと1分17秒です」
「なら、やれるだけやってみるかっ」
「ここまで来たら当然ですよっ、ねっ? アリスさまっ」
「あ、ぅん。そこは皆に任せるよぉ~っ、ハハ」
わたしは何せ精神力カラカラですから……。
そのあと皆が攻撃開始。わたしも杖を握って振り回す。間もなく弓矢が飛び交い、見上げるとこの城の二階から相手が攻撃をしていた。だけど今さら二階に上がってる時間などない。
ここまで来たら、とにかくイルオナさんを……っ!
そう思い前へ行くと、目の前に居た男がわたしを狙い斬りつけて来たっ。
「──痛ッ!」
「アリスっ!」
肩から胸辺りに掛けて斬られ、血がかなり流れる。
こ、これはヤバいかも……?
黒竜王の法衣も中破となり、一部が損壊して肌が露出。痛みと恥ずかしさでどうかなりそうだった。
「残り21秒!」
見ると、イルオナさんもあと少しで何とかなりそう。
だけど依然として上位ランカー達が立ち塞がり、邪魔をしてくる。さすがに手強っ。
「残り8秒!」
わたしは杖を持ち直して立ち上がり、イルオナさんに近づいた。少しでも皆の役に立ちたくてっ。
「残り3秒ッ!」
「こンのぉーッ!!」
わたしは杖を大きく振り上げ、イルオナさん目掛け振り下ろす! が、そんなわたしの胸を……何かが背中から貫いてた。
余りの痛みに驚き、恐る恐る見下ろすと、胸の辺りから弓矢の先が……?
「あ……ぁ…」
「ア、アリスっ!」
わたしはその場で膝を落とし、ふっと気を失い消滅した──。
◇ ◇ ◇
「はぁ~っ……」
「仕方ないよ、アリス。元気出そう~」
次の日のお昼頃、近くのコンビニで真中と待ち合わせ愚痴を聞いて貰ってた。
「わかってはいるんだけど、何だかまたしてもかぁ~っ、って感じがしてさぁ~」
「わかるわかる。だけど今回のアリス、凄い活躍してたよねっ! みんな驚いてたしっ」
「うんっ! 真中たちのおかげで、ようやく新しいスキルの使い方が分かったし、結果が出せたので凄い満足してるっ♪」
「うんうん! 結局、イルオナさん倒せなかったのは残念だったけどね?」
「は、ハハ……それについては、まあねぇ~」
あのあと結局、倒せなかったのを後で知った。
でも、それでも昨日の決戦は凄い楽しめたから、わたしとしては満足。
「あ、ほらっ! アリス、これをみてみっ! また凄いことになってるよっ」
「え? なになに?」
真中に言われスマホ画面を覗くと、そこにはなろうのランキング画面が載っていて、またしてもわたしのネット小説が1位に輝いてた。
だけどこれってきっと、昨日の召還魔法発動法がまたバカみたいに書かれていないか、確認しに来た結果なんだろうなと思う。
「ん? あれっ??」
よく見ると、ランキング2位にカテリナの名で作品が1つ載ってた。
「これって……まさか、だよねぇ~っ?」
「あはは。さすがにそれはないよぉ、アリス」
きっと、誰かがたまたまりなりと同じニックネームを付けたんだと思う。でも、
「よっ! アリスに真中っ、ここに居たのかぁ?」
振り返ると、そこにはりなりがにこやかな笑顔で立ってた。
「実は凄いもん二人に見せてやろうかと思ってなぁ~っ」
「へぇーっ、なになにぃ?」
「どれどれぇ?」
「これだよっ、なんと初投稿で2位っ! 軽い気持ちで投稿してみたんだけどなぁ、いきなりのランキング入りっ、凄いもんだろう~っ? 自分でもこれにはびっくりしてさぁ~、どうだぁ?」
「「………コ、コレって。マジでですかああーっ?」」
初投稿でランキング2位。それはとても喜ばしいことなんだけどさ、だとしたらわたしがこれまで投稿サイトで頑張って来たことって?
……はぁ~っ。
なんか、微妙に泣けるっ。
【第三期】、第4章《発動っ! メテルフォルセ》おしまい。
次回は、いつものとまた何か違う視点からお送りする予定ですっ。宜しければ、またどうぞお越しくださいませっ。
本作品をお読みになり、感じたことなどをお寄せ頂けたら助かります。また、評価などお待ちしております。今後の作品制作に生かしたいと思いますので、どうぞお気楽によろしくお願い致します。




