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COUNT DOWN.9 冷たい誤解。

「まぁ、俺はそこに惚れてんけどぉ」

「うわぁ〜!!急に抱きつくなぁっ」

「…慎哉も、柚依と居る時は性格変わるよな」

「俺の素見せるんは、柚依だけやのっ。他の女とか、どうでも()ぇし」

「はいはい」


慎哉の言葉に、柚依は頬を染めた。

そう。

樹梨はいくつか誤解している。

まず、崇宏の好きな人は柚依だと思っている事。

皆さんも知っているように、崇宏の好きな人は柚依ではない。

樹梨当人である。

次に、柚依は崇宏と付き合っていると思っている事。

柚依は、当然だが崇宏とは付き合っていない。

樹梨は――いや、学校の連中は勿論――知らなかったのだが、柚依は慎哉と付き合っている。

そろそろ、付き合い始めて1年が経とうとしている。


「それで?結局崇宏はどないするん?」

「んー…まだ考えてない」

「おい…」

「や、別に()ぇと思うで?慎哉に訊くけど。率直に応えてな?」

「?おぅ。何?」

「樹梨ん事、好き?」

「え…っ」


慎哉は、隣に居る崇宏に眼をやった。

崇宏は、「応えろ」と言うように、微笑んでしっかりと頷いた。


「ぶっちゃけ…好かんな」

「やろ?うちも好かん」

「は?柚依もか?」


慎哉は再び崇宏を見た。

崇宏も慎哉を見ていたので、当然の如く視線が合う。


「崇宏…こんなん言うとるけど…?」

「あぁ…良いよ。別に。何となく判ってたし。つーか、慎哉も嫌いって言っただろ」


そう言って、崇宏は苦笑した。


「俺も…樹梨の全部が好きって訳じゃないしね」

「えっ!?そうなん?」

「うん。多分、嫌いなトコは、柚依とも慎哉とも同じだと思うけど?」

「うちも同感」

「って事は…俺もそうか。俺と柚依のは、一緒やろうからなぁ」

「まぁ、樹梨は元々うちとは気ぃ合うタイプの子ちゃうから」


柚依はそう話しながら、苦い笑いを(コボ)した。

そんな柚依を見て、他の2人も「確かに…」と苦笑する。


「どうする?うち、樹梨と縁切っても()ぇけど?」


「そっちの方が、崇宏は話しやすいんちゃう?」と、柚依は言葉を紡いだ。

慎哉は、そんな柚依を見つめながら、心を痛めていた。

樹梨に対してではなく…柚依本人と、崇宏自身に対して。


「それは、柚依の好きにすれば良い。俺も、それは言おうかな、とは思ってたし」

「俺が言うても()ぇで?」

「それか、皆で言う?」

「うわ、樹梨ちゃん可哀想ー」


慎哉は、意地悪く口角を上げた。

部屋の空気とは似つかわしく無い、温かな風が部屋の窓を優しく叩いていた。


樹梨は、受験会場に居た。

樹梨の受ける学校は、樹梨以外に同じ学校から受ける人は居らず、独りで受験しなければならない。

心細いのは、当然。

無意識の内に、樹梨はケータイを取り出していた。


メールボックスから1番に弾き出されたのは、広瀬 柚依。

その名前を見て、樹梨はすぐさまケータイの電源を切った。

此処は受験会場。

ケータイの電源は切っておくのが常識だ。

しかし、樹梨はそんな理由ではなく、自分の眼に映った【広瀬 柚依】の文字を消す為に、電源をオフにした。


試験監督官が教室にやって来た。

さっきまで固まって談笑していた受験生が一斉に席に着く。

試験官は、無表情で答案用紙、問題用紙を配布した。


「始めっ」


一斉に紙を裏返す音が教室に響き、遅れてペンの走る音がする。

樹梨も、雑念を振り払って試験に臨んだ。



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