COUNT DOWN.5 秘密の集い。
更新が遅くなってしまい、すみません。
また読んでいただけたら嬉しいです。
樹梨の頭が爆発しそうになっている頃、保健室には4人の人間が居た。
1人は、保健室の管理人。
1人は、朝1番にやってきた患者。
または、サボり魔。
1人は、メールで呼ばれた人物。
最後の1人は、メールを送った人物…。
「あらあら。柚依と山下君も来たの?」
この学校の保険医――小原 亜貴は、一緒に入って来た柚依と慎哉に声を掛けた。
亜貴の声に反応して、崇宏も奥から顔を覗かせる。
「俺は柚依に呼ばれてん」
亜貴が出したコーヒーを啜って、慎哉は応えた。
慎哉も、保健室の常連。
と言っても、崇宏ほどではないが。
「てかさぁ…山下君て呼ばんといてくれへん?気色悪いわ…」
「ま、仕方無いんじゃないの?」
柚依も、亜貴からコーヒーを受け取り、口につける。
崇宏は、そんな3人のやり取りを笑って見ていた。
「崇宏、ずっと此処に居ったん?」
「柚依。言葉言葉」
「あー…。もう…。このメンバーやと気ぃ抜けるわぁ」
「気ぃ抜くなや」
「っさい。慎哉は黙っとき」
「柚依のアホォ〜」
「拗ねんなっ」
「ほんま、2人は仲良ぇなー」
急に言葉が変わってしまって、戸惑う人も居るかもしれない。
実は、柚依と亜貴、出身は慎哉と同じ所なのだ。
只、こっちに引っ越してきた事で、自分の言葉を隠していただけ。
2人のこの秘密――秘密と言うほどでもないが――を知っているのは、崇宏と慎哉。
この2人だけである。
「それはそうと、柚依、何で俺と崇宏呼んだん?」
慎哉がこの言葉を口にした事で、場の雰囲気は穏やかではなくなった。
穏やかではなくなったというより、さっきが賑やか過ぎたのだが。
「あー…うん。あれ。樹梨」
「樹梨…か…」
崇宏はそう呟くと、溜息を吐いた。
「あー…」
慎哉も、声を出して定まらない視点を宙に泳がせる。
「皆、大変やねぇ…」
1人、呑気ににそう呟いた亜貴は、窓の外に眼をやった。
保健室は、校内で唯一桜が見える絶好のポイントだ。
「もうすぐ…やな」
亜貴の言葉で、それぞれが窓に眼をやった。
そこには、小さいけれど確かに桜の蕾が在った。
もうすぐしたら、この小さな蕾も、淡い可憐な花を咲かせるだろう。
「崇宏…朝言うたん、気にしとる…?」
慎哉が、申し訳無さそうに崇宏に視線を合わせた。
崇宏は、慎哉に向かって柔らかく微笑んだ。
「気にしてねぇよ。それに、慎哉が間違った事言った訳じゃない」
崇宏がそう言うと、柚依が言葉を紡いだ。
「慎哉、あんたまた余計な事言ったん?」
「余計な事とか言うなや」
「やって、ほんまの事やんか」
「まーまーまーまー。その、樹梨ちゃんの事で此処集まったんやろ?さっさ話してまい。もう授業終わるで?」
亜貴の言葉で、はっとして3人は時計を見上げた。
すでに、1限目の半分以上が過ぎている。
「ヤッバ…早済ましてまおっ」
「んで?結局俺らん事何で呼んだん?」
「つーか、何でいつの間にかこんなメンバーになってる訳…」
最後の崇宏の呟きは流され、保健室の4人は奥で固まって何やら相談を始めた。
それは、この物語の主人公、坂下 樹梨に関する事らしい。
窓からは、優しい光が床に零れ落ちていた。
その光と共に、桜の枝が床に影を落とす。
小さな蕾も、しっかりとその影を作っていた。
授業終了のチャイムと同時に、3人はそれぞれの教室へと帰って行った。
亜貴は、3人の残したマグカップを片付けながら、自然と顔が綻んでいた。
開花まで後僅かな桜。
桜のように、崇宏の花も咲くのだろうか…。