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COUNT DOWN.21 桜咲く。

卒業式終了後。


崇宏は他の卒業生や在校生、教師から逃げるようにしてとある場所へやって来た。

まだ、今の学校に入学する前の頃。

樹梨が最初に見つけ、それからこの時期になると4人で来ていた、秘密の場所。


格好良(カッコエ)ぇ池内君、発ー見っ」

「やらせたの、自分達だろ…」

「や、けど、堂々としてたで?流石崇宏」

「提案した本人に言われたくないんだけど」


いつの間にか、4人の内の3人までが揃った。

崇宏。

慎哉。

柚依。

後、1人…。


「ぁ…」


小さな声に3人が振り向くと、そこには樹梨が立っていた。


「いっらしゃぁい、本日のお姫様」

「慎哉っ」


からかい口調の慎哉を、崇宏が制止する。

そんな2人を見て微笑んだ樹梨は、柚依に視線を移して途端に表情を曇らせた。

柚依は慎哉、そして崇宏を見つめ、樹梨に視線を移した。


「あんな、樹梨…」

「柚依…?」


教室とは違う口調の柚依に驚いた。

そう言えば、保健室で崇宏と慎哉、亜貴先生と話してる時もこんな口調だったっけ…。


「ごめんっ」


いきなり、柚依が頭を下げ顔の前で手を合わせた。

いきなりの事で、樹梨は眼を白黒させるばかり。

しかし、柚依は構わずに続ける。


「嫌いっていうんは、語弊があるんよ。慎哉が嫌いって言うたねんか?」

「え…あ、うん…多分…」


慣れない言葉を耳にして、樹梨は戸惑いながらも言葉を整理し、理解しながら返事を返した。


「確かに一言で言うたら嫌いやねんけど…。樹梨自身が嫌いな訳ちゃうねん。樹梨の他人に依存するトコが嫌いやねんか」

「そ…っか…。崇宏にも、同じ事言われた…」


少し俯き加減で、小さく話す樹梨。

やはり、まだ疵は癒えていないのだろう。


「俺もな?同じ理由で嫌いやってん。樹梨ちゃんの事」

「慎哉…」


前よりも優しい視線で樹梨に話し掛ける慎哉。

それでも、樹梨にとってはまだ辛い言葉だった。


「けどな?嫌いやないねん。それだけは信じてや?」


(スガ)るような瞳で樹梨を見つめる柚依。

その瞳には、ちゃんと謝罪の意思が込められていた。

そして…。


「俺も。ごめんな?樹梨ちゃん、疵付けてしもぉて…」


慎哉もすまなさそうに樹梨に頭を下げる。

樹梨は困ったように崇宏を見た。


「自分でちゃんとするって決めたろ?」


崇宏の優しい言葉が樹梨の背中を後押しする。

樹梨はゆっくりと口を開いた。


「2人とも顔上げて?私だって、悪い所があったんだし。謝るのは私も同じだよ」


そう言うと、樹梨も2人に向かって頭を下げた。


「ごめんなさい。知らない間に、いっぱい怒らせてたんだね…」

「や、えぇねんて。判ってくれたら。なぁ?」

「せやで。うちらも悪かったし。…あ、まだ話さんとあかん事あってんやんな」


柚依はそう言うと、崇宏に少し意地悪そうな笑みを見せた。

崇宏もそれを見て、苦笑いする。

慎哉はそんな2人を見て、少しだけ哀しそうに、でもすぐに笑顔になった。

樹梨には、訳が判らない。


「あんなぁ。うち、樹梨に『私が欲しかったものを持ってたから』嫌い言うたやんか?」

「うん…」

「あれはなぁ…崇宏が樹梨ん事好きやって意味」

「……………は?」

「うちな、慎哉と付き合う前――大分前やけどな、池内の事好きやってやんか」

「えぇぇぇぇ!!??嘘ぉ………」

「ホンマなんやって。で、告ったんやけど振フラれてな。そん時に、樹梨が好きって聴いたんよ」

「それで『私が欲しかったものを持ってたから』?」

「せや。ちゃんと過去形で言うてるやろ?」

「ホントだ…。あ、だから、あの時慎哉哀しそうだったんだ?」

「うわ、何で知っとん!?」

「いや、普通に見てたから」

「樹梨ちゃん、エスパー?」

「だから、違うってば!!」


話がどんどん違う方向にずれていっているので、崇宏は少しもどかしかった。

自分は、まだ樹梨の気持ちを聴いていなかったから。


「って事で。うちらはそろそろ()ぬわ〜」

「えっ?」

「樹梨ちゃん、いっちゃん大事な事忘れとるしぃー」


慎哉は笑って樹梨を小突(コヅ)いた。

卒業式前の、重い空気の欠片(カケラ)など微塵(ミジン)も無い、前の通りの4人。

もうすぐ、前の通りじゃなくなるのだが。


「返事っ。答辞で池内が誰ん事言うてたか、判ってるんやろ?」

(ハヨ)返事したげんと、崇宏可哀想やでー」

「生殺しやもんな」

「慎哉っ柚依っ」


楽しそうにからかう2人を、崇宏は顔を紅くして怒った。

勿論、本気ではない。

只、恥ずかしかったのだ。


「ほな、また…いつやっけ?」

「明日なっ。崇宏んち集合でっ」

「また俺の家ー?」

「てか、決定?」

「当たり前やんか。折角…」

「花見しょ、花見っ。ほななー」


手を振りながら、2人は歩いて行った。

今4人が居た所は山を少し登った所で、此処だけ広場のようになっている。

2人の姿はすぐに見えなくなった。


「ぇっと…」


樹梨が困ったように俯いていると、崇宏が少し照れながら樹梨に告げた。


「返事。聴かせてよ」


樹梨は頬を桜色に染めながら、恥ずかしそうに口を開いた。


「私は――」


今開いた初々しい桜のような2人を、広場に1本だけある桜の木が、薄紅色の雨を優しく降り注ぎながら2人を祝福していた。


                                               ...fine...


やっと完成させる事が出来ました。

途中長く放置してしまい、申し訳なかったです。

良ければ、感想などいただけると嬉しいです。

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