COUNT DOWN.20 綻ぶ思い。
教職員、保護者の席から、軽いざわめきが起こった。
代表答辞でこんな事を言うのは、前代未聞の事である。
来賓の席からも、崇宏に疑問の視線が送られた。
「僕には、想いを寄せる人が居ました。けれど、その人の前ではどうも上手く自分の気持ちが表せません」
卒業答辞から一変、崇宏の個人的な話へと移る。
卒業生、在校生代表の中でも、ひそひそと囁き声が漏れてきた。
しかし、職員が割って入って止めさせる訳にもいかず、恭平はそのまま続ける。
「その人は、いつも明るくて元気で。自分にたくさんの力をくれました。僕がその人にしてあげられる事と言ったら、頼みを聴いてあげるくらいで…」
樹梨は思わず崇宏を見た。
今の言葉…っ。
この間、私に言ってた事と同じ…!!!
樹梨の視線を知ってか知らずか、崇宏はそのまま淡々と続けていく。
「でも、それじゃ本人の為にならない。そう思って、あえて突き放していた時期もありました。でも、そうしても想いは募るもので…今日、この場を借りて伝える事にしました」
柚依、そして慎哉は、答辞を述べる崇宏を誇らしげに見つめていた。
そう、度々3人が集まっていたのは、この事。
今日、この場で、崇宏が告白する算段を考えていたのだ。
今までの事は、全てこの為の布石。
まぁ、実際あそこまで樹梨が疵付き、4人の関係が気まずくなるとは思わなかったのだが。
「4度目の春。僕はまだこの学校での想い出を作っていません。今日の、この答辞を持って、僕の最後の、そして最高の想い出にさせて下さい。
そして、在校生の皆さん。この学校で過ごす時間は1度きりです。
何事にも悔いを残さないようにして下さい。そして、最高の想い出を持ち、この学校を旅立って下さい。
卒業生代表 金子 恭平」