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COUNT DOWN.19 決意。

それから。


その日は卒業式。

いつもの朝とは、少し違う。

誰も彼もがざわめいている。

けれど、4人の空気は相変わらず重いままだった。


「おはよう」

「はよ」

「………」

「………」


崇宏と樹梨。

慎哉と柚依。

2組になると、空気は途端に柔らかくなるのに。

廻りの生徒も不思議そうに4人を見ていた。


「何か微妙ー」

「前はあんなのじゃなかったのにね」

「そう言えば、4人で居るの見るのも久しぶりだよね?」

「あー…そうかも」

「何かあったのかなぁ…」

「あっても言わなさそうだけどな」


入場直前。

慎哉が柚依の元へやって来た。

教師に見つからないよう、手短に話を済ませる。


「いつ謝るん?謝るんやったら、今日しかないで」

「さっき、崇宏に聴いた。私の事、まだ樹梨に話してないんだって」

「マジ?どないするん?」

「崇宏はきっと“あの場所”に行く。樹梨もきっと来る。だから、そこで謝る…ってか、話すよ」

「ほんまやな?」

「これ以上、慎哉に迷惑掛けらんないし…」


柚依は、慎哉の耳元にそっと口を近付けて言った。


「慎哉の哀しそうな瞳、もう見た無いから」

「柚…っ」

「山下、何してる!?」

「うわっ。すいませーん」


教師に怒鳴られ、慎哉は自分の列に向かった。

一瞬振り向いて、柚依に言葉を送る。


『ありがとぉ』


口の動きだけだが、柚依にははっきり伝わった。

柚依も心を決める。

ずっと、先延ばしにしていた。

今日話さないと、きっと自分は後悔する。

樹梨に投げた言葉は嘘じゃない。

でも、自分の中にはもっと別の…違う思いがある。

卒業式の後、柚依はすぐに“あの場所”へ行こうと思った。


一方、崇宏にとっても今日は特別な日だった。

この日の為に、あの2人(に無理矢理巻き込まれつつ)とも、話をしてきた。

自分の気持ちを…樹梨に伝える為に。


それぞれの想いをのせて、卒業式が執り行われようとしていた。


「開式の…」


「卒業証…」


「学校長…」


「来賓祝…」


「祝文祝…」


「在校生…」


「代表送…」


「卒業生…」


式は(オゴソ)かに、ゆっくりと、しかし、確実に進んでいく。

卒業生全員の送る言葉が終わり、代表答辞の番となった。


「代表答辞。3年。池内崇宏」


崇宏はゆっくりと歩み出し、所定の位置まで来た。

答辞の紙を広げ、答辞を読み上げる。


「頬を撫でる風も、随分と温かくなって参りました。校庭の木々は春を待ち侘び、柔らかなライトグリーンの芽を覗かせています…」


お決まりの季節の言葉から始まり、崇宏の答辞は淡々と進んでいく。


「春のバス遠足、夏の部活動、秋の文化祭、冬の修学旅行。3年間の想い出が、これからも巡る四季と共に甦って来るでしょう…」


あちらこちらから、(スス)り泣く声が聴こえる。

自分の想い出を()せているのだろう。


「長いようで短かった3年間。その中で、僕はたった1つだけやり残した事があります」



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