COUNT DOWN.17 1つ屋根の下。
頭を鈍器で殴られたような気がした。
言われてそんな感じを受けるのは、本人も無意識の内に気付いていた証拠だろう。
確かに、樹梨は何かあるとすぐに崇宏を頼っていた。
宿題で判らない所から、昔抱えていた深刻な悩みまで。
小さい事から大きい事まで、何でも。
1番に崇宏に報告し、相談し、助言を受けていた。
「昔は嬉しかったんだ。…や、今も嬉しいんだけど。でも、それだと樹梨の為にならないだろう?」
一言一言、樹梨に優しく諭すように語る崇宏。
じっと俯いている樹梨。
こういう光景は、昔何度もあった。
けれど、昔とは状況も深刻さも桁違いだ。
何も、昔の樹梨の悩みがちっぽけなものだった、とは言わないけれど。
「俺は、樹梨に自立して欲しいんだ。何でも俺に頼るんじゃなくて、少しずつで良い。自分で解決出来る力を持って欲しい。勿論、どうしても無理な時は俺を頼ってくれて良いから。俺も、その方が嬉しいから…」
崇宏は恥ずかしそうに頬を紅く染めて、樹梨に自分の願いを告げた。
きっと、樹梨にも届いた事だろう。
他の誰でもない、崇宏の言葉だから。
「じゃぁ…最近ずっと避けてたのって…?」
「そういう訳。まぁ、それだけじゃないけど」
「他にもあるの?」
「ま、まぁ、それは良いじゃん。俺の願い、判った?」
樹梨の顔を下から覗き込むようにして見上げた崇宏に眼を合わせられなくて、樹梨はふっと眼を逸らした。
少し、崇宏の心が痛んだが、樹梨の顔は真っ赤。
照れているんだな、と自分で悟り、崇宏は顔を離した。
「んじゃ…もう遅いし。寝る?」
「え…えぇぇぇぇ!!!??」
「煩いなぁ…。大丈夫だから!!おばさんに了解とって来た」
Vサインを作って樹梨の前で微笑む崇宏に。
樹梨はまた頬が熱くなるのを感じた。
「じゃぁ…お言葉に甘えさせて頂きマス…」
「どぉーぞ。風呂入って来たら?着替え、後で持ってくから」
「え?良いよ!!崇宏、先入んなよ」
「こういう時はレディファーストっしょ」
さっきとは全然違う顔で、自分に話し掛けて来る崇宏を見て、やっぱり崇宏を好きになって良かった…と樹梨は思った。
崇宏は、学校であまりこういう顔を見せないからだ。
学校で生徒とも教師とも一線引いている崇宏の素の部分が見えた気がして。
樹梨は素直に嬉しかった。
「は〜や〜くっ」
「じゃぁ、お先に…」
「行ってらっしゃーい」
崇宏の元気な声に見送られながら、樹梨はバスルームヘ向かった。
1時間後。
入浴してさっぱりした顔の崇宏と、出て暫らく経つのにのぼせた様に真っ赤になっている樹梨の姿があった。
「布団…は…?」
さっきよりも小さな声で、樹梨が崇宏に尋ねた。
崇宏はあっさり応える。
「え?これだけだけど?」
さっきから幾度と無く繰り返されている質問。
普通なら喧嘩になりそうなものだが、この2人、全く喧嘩に発展しない。
樹梨がそれ以上何も言わないで、沈黙の後同じ質問を繰り返しているし、崇宏が飽きもせず同じ応答を何度も返しているからだ。
何とものんびりとした光景である。
「もしかして…一緒に寝るの…?」