COUNT DOWN.10 融けない想い。
―――1限目終了。
受験生は一旦教室の外に出され、試験官が答案用紙を回収する為に1人教室に残った。
緊張と興奮を鎮める為に、受験生はそれぞれの方法でリラックスを図ろうとしている。
しかし、樹梨の頭に浮かぶのは、数学の公式でもなく、社会の年号でもなく、池内 崇宏と広瀬 柚依の名前だった。
付き合ってる?
何で?
―好きだから。
黙ってる?
何で?
―言う必要が無いから。
言う必要が無い?
何で?
―友達だと思ってないから………。
1人で自問自答を繰り返し、同じ質問同じ応えを何度も弾き出す。
納得出来ない。
納得したくない。
友達だと思ってたのは、自分だけ?
何でも話してると思ってたのは、自分だけだったの…?
同じ疑問がずっと頭を廻っている。
そして、教室の扉が開かれた。
受験生は、雑談を止めて教室に吸い込まれるようにして入って行く。
それも、自分の意思なのか、動かされているのか、判らないような瞳で。
そんな受験生を見て、背筋に冷気が走るのを覚えながらも、樹梨もまた教室に入って行った。
教室には、既に答案用紙と問題用紙が配られていた。
さっきまで座っていた席に着くと、樹梨を含めて、皆が始まりの合図を待った。
試験官が、自分の時計に眼をやる。
3…2…1――………
「始めっ」
さっきと同じように、また一斉に音が鳴った。
太陽は先程よりも高く昇り、教室に射し込む陽光も暖かい。
一足先に、季節が春を連れて来た。
受験が終わった、次の日。
受験直後の日でも、いつものように学校はある。
今日は卒業式のリハーサルの日だった。
「卒業式のリハなんて、する意味あんの…」
「そりゃ、ちゃんとやれるようにだろ?」
「けどな?卒業式って感動的なもんじゃん。リハとかやったら、感動半減じゃね?」
「でも、絶対慎哉は泣くね」
「柚依っ………柚依が泣く訳無いか」
「同感。柚依は血なんか通ってないから」
「池内も慎哉も失礼だな…」
相変わらず、柚依は崇宏と慎哉と3人でつるんでいた。
此処最近、柚依はずっとこの2人と行動を共にしているので、生徒の間ではどちらかと付き合ってるのではないか?そんな噂が実しやかに囁かれていた。
当然、その噂は樹梨の耳にも届いている。
「あの3人、仲良いよなー」
「池内君と山下君は前からだったけど…」
「広瀬さん、やっぱりどっちかと付き合ってるのかなぁ」
「つーか、最近広瀬も変わったよな」
こんな声が、樹梨の耳に否応無しに入ってくる。