COUNT DOWN.1 冬の朝。
「お早ぉ〜っ」
いつもの朝。
いつもの声。
けど、俺にとっては特別。
このいつもの朝が、俺にとっては特別。
「…はよ」
「相変わらず、テンション低いなぁーっ」
「お前が高いだけだろ…」
「若者は基本的にテンションが高いものなのっ」
毎朝、俺を迎えに来てるコイツ。
…坂下 樹梨。
目下、俺の幼馴染。
幼稚園の頃からの腐れ縁。
こうやって、俺の家に迎えに来る事が、毎日の日課になっていた。
いつからだろう…。
俺が、樹梨をと1人の女として見るようになったのは…。
俺の中で、樹梨が特別な存在になったのは…。
「えっ?あ、崇宏!!ちょっと待ってよぉ!?」
俺の家を出て、1番に視界に飛び込んでくるもの。
俺の、大好きな場所。
桜並木が続く、この道。
花の盛りには、此処の桜は優しく薄紅色の雪を降らせる。
しっかりと掴み取る事の出来る、儚い薄紅の雪。
樹梨と一緒に見るのは…今年で最後かもな…。
「崇宏ぉー」
「…んだよ」
「もうすぐ――………卒業だね」
俺の隣に並ぶ事無く、樹梨は後ろから俺に声を掛けた。
桜の木と木の距離が、そのまま俺達の距離。
物理的にも…ココロ的にも。
桜の感覚は、歩いて5歩ぐらい。
単位に直すと…2.5mか?
今はまだ、どの木も冬の寒さに耐えている。
けど、もう春はすぐそこ。
裸の枝から零れる日差しも、大分温かくなってきた。
「ねぇ、崇宏」
「何」
「今年も一緒に見えるよねっ?」
「さぁ…知らない」
「崇宏ぉ…」
樹梨は、いっつもそう。
何か自分の気に入らない事があると、哀しそうな声を上げる。
それって、俺には判んないんだよね。
何で、そんな事するのか。
自分の思い通りにならないからって、不満を言ってるだけじゃどうにもならない。
もっと、考えて行動するべきだよ。
俺…樹梨の事、好きだけど。
好きだけど………っ。
そういうのは、大嫌い。
「学校。遅刻するんじゃないの?」
俺の言葉に反応した樹梨は、右手に下腕時計を見ると、慌てて走り出した。
…オイオイ。
マジで遅刻すんの?
「今日、補習あるの忘れてたっ」
「何時から?」
「もう始まってる!!」
俺は自分の持つケータイで時間を確認した。
7時57分。
補習ってこんな時間からやってたか…?
「推薦で進路決まった崇宏は良いけど、私はまだなのっ!!先、行くよ」
「おー」
俺を追い越した樹梨は、そのまま学校へ駆けて行った。
慌しい奴…。
俺は桜並木の中を、ゆっくりと歩いて学校へ向かった。
樹梨とこの桜並木の下を歩くのも、後10回も無い…。
樹梨の志望校の試験日まで、残り1週間。
今年…俺は、樹梨と一緒にこの桜並木の下を歩けるかな…。
「君に今…伝えたいんだ…」
並木道を向けると、もう俺の通う学校が見える。
ちょっと勉強して、部活もして。
ダチとバカ話する。
そんな、俺の学校。