+第1章+シルク・ダーウィン
夜になった。広場には、私以外に誰もいなかった。柵もはずされて、広場の中央でまだ火が小さく燃えていた。私は立ち上がると、灰になった師匠の骨の所まで歩いた。頭の骨がたった一欠片だけ燃えていなかった。それを拾い上げるとハンカチに包んで、小箱に入れた。
「シルク・ダーウィンを探さなくちゃ。」
私は、家に帰ろうとした。誰もいない家に....。
「師匠。今までありがとう。」
私は泣くのをやめて、小走りで帰って行った。私の手に何かが当たった。涙?違う様だ。
「ついてないな。」
雨が降り出した。穀物倉庫の軒下で、しばらく休んでいると、眠たくなってきた。しばらくウトウトしていると、町に人が多々現れている事に気付いた。
「なんだろう?」
私が立ち上がると、町中の人が騒いでいた。
「どうしたのかしら。傘も差さないで。」
「おい。」
声をかけられたので、横を見ると、今日会った少年がいた。
「どうしたのこの騒ぎ。」
「穀物倉庫の裏に回れば分かるさ。」
何か嫌な予感。
「傘に入れてやるから来いよ。」
「う、うん。ありがとう。」
少年の傘に入り、裏に回った。すると、キャンルスノーの森から煙が上がり、夜空がほんの少し紅くなっているのに気が付いた。
「あの場所って、家がある場所じゃ....。」
「そうさ。ルーンスプールの家だよ。あの魔女の家を焼き払っているのさ。俺もあそこまでやんなくても良いとは思うんだけど....。」
「家が燃えてるの?」
「は?」
私の家が燃えている。師匠との思い出が、師匠でさえも燃えて、私は...私は...。
「おい、大丈夫か?しかりしろよ!」
「んっ。ん....。」
目が覚めたのは、少年の家だった。
「本当、大丈夫か?」
「ここは?」
「俺の家だ。」
私は起き上がった。自分がベッドの上にいるのが分かった。雨が降っている。
「そういえば、自己紹介がおくれてたな。」
「あ、いいです。私から言います。えっと...リっじゃなくて、マチルダ。私は、マチルダ・アルクって言うのよろしく。」
「おう。俺は、シルク・ダーウィンだ。」
ピンときた。心の中で、神と師匠に感謝した。
「本当に大丈夫か?顔色悪いぞ?家はどうした。」
さて、どう答えるべきか。この少年は、師匠に両親を殺されてたと思っている。
「どうした?」
「この事を聞いて、私を殺したければ、殺しなさい。」
私は、うつむいて言った。涙をあふれさせながら。一か八か。
「私の別名は、リーエム。ルーンスプールの弟子です。」
シルク少年は、しばらく黙ってしまった。それもそうだ。
「別に。」
「え?」
「別にお前さんを殺しやしないさ。弟子なんだし。」
何処か無理があるような...。そんな感じ。
「それからさ、今日広場で行った言葉、覚えてるか?」
「え?私が言った言葉?」
「そうだ。お前さ、『誤解』って言わなかった?」
誤解...確か言ったような。
「どういう意味なんだ?」
「それは...。」
それは、真実だ。私と死んで逝った多くの魔女達が知っている真実。