前夜
師匠ルーンスプール氏との最後の会話です。
「泣かないで。」
師匠は、冷たい手で私の涙を拭った。 師匠が処刑される前夜。私は監視の目を盗んで、牢屋の前に来た。
「師匠。私、今なら師匠を助けれます。逃げましょう。」
師匠は首を縦に振らなかった。
「なんで....。」
私はまた目から涙をこぼした。
「あなたに遺言があるの。私が死ぬ前に...。」
「死んじゃうなんて言わないで下さい!!!まだ、33歳ですよ!?」
師匠は、私の手を握って首を横に振った。
「師匠は、100歳まで生きるの!白い森で、私以外にも、たっくさんの弟子に囲まれて、シンベルミネの真っ白な花に囲まれて、手に色とりどりのルピナスの花が....。それが、それが師匠の最後なのよ!絶対!!」
私は、泣き崩れた。
「あなたは、真実を知っているはずよ。本当の悪鬼は、この町の二級神官クィンタペッドだって言う事を。だからね。」
師匠も言葉をつまらせた。
「復讐はただの腹いせでしかないかもしれない。でも、これは、復讐じゃないわ。国のためよ。お願い。」
私は泣き続ける。
「この町に、シルク・ダーウィンと言う少年がいるわ。その子と共に、ドレアの都に言って。」
私は、返事をしなかった。
「魔法名のリーエムの名は語ってはいけない。本名のマチルダでとおしなさい。」
師匠はため息をついた。
「マチルダ。最後に笑って。」
私は力なく微笑んだ。もうどうする事もできないならば、最後に微笑んであげるくらいは....。師匠は、誰もが羨む美貌の待ち主。ブロンドの髪の毛。瞳は、ブルーで、光の当たりかたで、すみれや若草、バラの色に変わったりもする。子供が好きで、歌も上手。両親のいない私にとっては、母親の代わりだった。
「師匠。わたしは、師匠の遺言を果たすから、ずっと見守っていてね。」
師匠は、静かにうなずいた。