ミッションは”龍の捕獲”
下ネタ系の会話有りです。
18禁までは至ってないですが…不快に感じる表現があるかも知れません、ご注意ください。
「ここどこー!!」
「喚くな! 煩い! とっととあの火龍をなんとかしろ!!」
野太い声と共にお尻を蹴られて、たたらを踏んでソレの眼前へ。
何々!? ホント、ここ、何処よ!? あたし、さっきまで家にいて、トイレから出てきたところだったよねー!?
なのになんで!? 岩場!? 山!? そして真っ赤な龍!?
『そなたがワシを倒すのか、面白い、お相手いたそう』
がばぁと真っ赤な口を開けたその喉の奥に火球が宿るのを視認。
「むーりーぃぃぃ!!!」
射程距離不明、左右に逃げても駄目っぽいので、思わず前方へダッシュ!
だって、自身に向けて火を吐くとかないでしょ!?
とりあえず、一番安全だよ!
たとえ火龍が全長5メートル越えで、その前足は象以上に太くて、あたしなんか一撃であの世行きだとか、そんなこと考え付くような余裕ないっすー!!
「いやぁぁぁぁぁ!!!!」
がばぁ、と真っ赤なうろこに覆われたその前足に抱きつく。
『ぅわ! な、な、なっ!!!』
狼狽する火龍。
振り払われないようにしがみ付くあたし。
その様子を遠くの岩陰に隠れながら見守る兵士の皆様。
ややしばらく、しがみついてキャーキャー言っていたが、ふと、周囲が静かであることに気がついた。
『……やっと大人しくなったか』
疲労の色が濃い声音が頭上に降ってくる。
そして、後方からは兵達の野太い歓声が。
恐る恐る目を開けて、顔を上げれば。
随分上…だが、まだ許容範囲内の高さから、真っ赤な一対の目があたしを見下ろしていた。
あれ? あたし、火龍に抱きついたんじゃなかったっけ? 誰、この人。
しっかりその人を抱きしめていた腕をおずおずと緩めて、体を離す。
「ば! バカ!! 火龍を離すんじゃない!!」
の、声と共に、強い力で背中を押されて、またその人にぴったりとくっつくことになった。
そして、そのまま、二人一緒に縄でぐるぐる巻き……って? えぇ?
「い、痛い! 痛いっ!! 縄が食い込むーっ!!」
「煩い! 少しは我慢しろ!!」
「できるかー!! 見ず知らずの乙女によくもこんなことできるな! この腐れ外道がー!!」
「黙れ! 我々は、崇高な、使命の下にっ」
区切りながら、さらにぎゅうぎゅうと縄を締めやがる、こ、この野郎っ。
「何が、崇高な使命じゃ!! 腐れが!! てめぇのやってることを、自分の子供でできんのかぁ!? あぁ!? ざけんなよ、ごらぁ!!」
「オマエのような者が私の子と同等になるか!」
「あぁぁ!!? くずが! ここに人間の屑が居ますよみなさーん!! てめぇ、潰す! 絶対潰す! 虫けらのように四肢引きちぎって地面に顔擦り付けて土くれ食わせてドブに捨てる!」
あんまりぎゃーぎゃー言っていたら口に布を噛まされた。
むふーむふー、と鼻息荒くしていたら、頭上からため息が零れてきた。
『お前は、生贄にされたのだよ、哀れな娘よ』
へ?
きょとんとして顔を上げると(密着しすぎて中々むずかしかったが)、凪いだ赤の瞳に…というか、特徴的なワイルドな浅黒い肌の真紅の瞳の、紅蓮の髪の青年があたしを見下ろしていた。
見事に赤い。
『龍を無力にするのならば、穢れを知らぬ雌をあてがえば良い。 無論、人間でなくても、良いのだがな』
何々??
『……繁殖期の龍に、未通の雌が接触すると、種の保存の為に、龍はその雌と同じ姿となる』
親切だ、凄く親切だこの龍。
ようするに、この人はさっきの火龍。
未通の雌であるあたしとくっついているから、人間の姿になっている、と。
…基本、異種族婚ですか?
『同族とも番うが、異種族とも番うことができる』
なるほど…って、あたしの思考読まれてる。
『触れていれば、表層の意識を読むことは可能だ』
そうなんだ、まぁ、いいけど。
で、これからどうなるんだろう…。
ぐるぐる巻きにされたまま、戸板の上に乗せられてさらに戸板ごと縄で縛られて、その戸板を兵士の人たちが岩場をえっちらおっちらと担いで下山している。
怖っ! 誰か手を離したら大怪我間違いなしだよあたしたち!
というか! 下敷きにしてごめんねー火龍さんっ! 重いでしょ! でも重いって言っちゃ駄目ー!
『…重くはないが、お前は口を閉じていても煩いな…』
ごめんねー、いつもはもう少し静かなんだけど、少しパニクってるみたい。
『いや、異世界から突然召喚をされれば、誰だって混乱するだろう仕方あるまい』
……ほぇ? 異世界? 召喚? ファンタジーワード一杯ですけど…。
『お前が召喚される前にも、色んな動物が召喚されていたぞ? 小さな黒いふわふわしたものや、中型犬や、熊等な』
……え?
『そうこうしている内に、お前が出現して、こうなったわけだ。 ワシもまさかあんな行動に出られるとは思わなかったから不覚をとってしまった』
ありゃー、それはすみません。
それにしても、数打ちゃ当たる作戦か……迷惑な。
『本当にな』
でもなんで、生け捕りにされてるの火龍さん。
『……混血児が欲しいのだろう』
混血児?
『龍の血が混じった子は高い能力を持つしな。 上手く龍族として生まれれば、龍の加護を得られるからな』
混血って言っても、やっぱりどっちかに偏るんだ? キメラみたくはならないよね?
『…ならんな』
でもこんな風に簡単に掴まっちゃうんだから、混血児って沢山居るの?
『……あまり居ないな。 現在生きている個体で、龍が3体、人族が2人、猫族が1匹、犬族が1匹ぐらいなものか』
…へ、へぇぇ?
ひ、人に猫に犬……。
本当に同族以外と子供できちゃうんだ…へぇ……。
『し、仕方あるまい! そういう種族なのだから!!』
無節操とか思っちゃ駄目だ! それは心の奥底に隠さなきゃ…っ
『聞こえておるわ、無節操で悪かったな』
すみません~!
謝罪しつつ、ぐりぐりとおでこを火龍にこすり付ける。
『やめんか、くすぐったい』
おでこが痒かったんです、すみません。
それにしても、どこに連れて行かれるんでしょう…そして、あたし元の世界に帰れるんでしょうか…。
『帰れるぞ。 といっても、召喚されたときに規定された条件を満たさねばならんがな』
条件?
『ああ、確か…龍と契り子を成し、無事に産むことができれば、その後戻れるはずだ』
……はぃ?
『端的に言うならば、ワシの子を産めば帰れるということだ』
………は、はぃ?
『む、もっとわかりやすくか。 ワシの(自主規制)をお前の(自主規制)に(自主規制)た上で、そのままお前の中にワシの子種を』
わー!! わー!! わぁぁぁぁぁ!!!
知ってます! 行為のなんたるかは(なんとなく)知ってますからっ!!
『そうか?』
じゃ、じゃあ、ソレ以外にあたしが帰る方法って…。
『無いな。 それが召喚の理だからな』
…………二択だわ。 こっちの世界に生きるか、操を犠牲に向うの世界に帰るか…ってか、子持ちで帰ったら家族ドン引きだわ。
『子は連れて行けぬぞ』
……じゃあ実質こっちの世界に生きるしかないじゃない!
『…子を置いてゆけば良いだろう。 どのみち、産んだ子は国に取り上げられるのだから』
はぁぁぁ!? なんでよ!?
腹痛めて産んだ自分の子、なんで取られなきゃなんないわけ!?
怒りに満ちた目で顔を上げて、火龍の方を見れば、火龍も視線に気づきこちらを見下ろしてきた。
『…お前は、異種族との間にできた子を愛せるのか? 人族として生まれたとしても、その容姿はワシに引きずられ、異様であるし。 龍族となれば、そもそも姿形が根本的に違う』
愛せるに決まってんでしょ! 舐めんじゃないわよ!!
『………』
何よ、あたしみたいなのが子供好きで悪いわけ?
『いや、そんな事は言っていないが』
あたしの夢は、自分の子供をぐりっぐりに可愛がることなのよ!
大好きって一杯言って、でもちゃんと悪いことは悪いって叱って、可愛い服作ってあげて、お揃いの服なんか着て。 あ、龍族だったら服は無理? でも絶対可愛がるわよ!
夢に思いを馳せてうっとりとしてしまう。
そんなあたしを、呆れたような困ったような顔で見る火龍。
『…お前なら良いかもしれんな』
は? なにが?
首を傾げると、火龍が小さく微笑んだ。
あ、この人笑ったの初めて見たけど、なんか儚い感じがして胸の奥がちりちりする。
次の瞬間、一瞬にしてあたしたちを束縛していた縄が灰になった。
「うわぁっ!」
転げ落ちそうになったあたしを火龍が捕まえ、戸板の上に起き上がる。
うぇ、口の中灰だらけ。
ぺっぺっと持っていたハンカチにつばを吐き、口の中を拭う。
「うわっ! 火龍が逃げた!!」
戸板から手を離すなってのぉぉぉう!!
お尻に来るべき衝撃を覚悟したが、ふわっと体が浮いた感じがしただけで、何の衝撃もなかった。
恐る恐る目を開ければ、火龍にお姫様抱っこされてた。
火龍ってば、すごく身長があるから抱っこされたら、目線が高いわぁ。
「逃げてなど居らぬ。 このような運ばれ方は好かぬ」
低い声が、周囲を圧倒し、黙らせる。
あれ? 火龍…今までしゃべってたよね? 声、初めて聞いた気がするのは気のせい?
『これは、心話だ。 しゃべっては居らぬ』
あ、本当だ、口が動いてないや。
「して、貴様等は何処の国の者だ『随分と無礼な真似をしてくれたが』」
おぉ、怒り気味の心の声が聞こえる。
表情はあくまで平坦だね、凄いな、ポーカーフェイス!
「は、はっ! 我等は、此処より西にありまするマイルガイル国より参りました!」
言葉が通じるとわかった途端へりくだるっつーなっての。
『マイルガイル…あの趣味の悪い国か……。 ところで、お主の名はなんと言う?』
へ?
火龍の視線を受けてきょとんとする。
促すように顎をしゃくられ、思考をする。
あ、ああ、名前? 天道 勇だけど?
『イサミ、ワシの子を産むか?』
え? え??
吃驚して火龍の顔を凝視する。
火龍もこちらを見て、ワイルドな容貌の口元に少しだけ笑みを作る。
『ワシの子を産め、イサミ』
えぇええっ!
かぁぁぁっ、と顔に熱が上る。
「火、火龍、様?」
恐る恐るといった様子で先程の兵士が声を掛けてくると、ゆっくりとした動作で火龍が顔を上げてそちらに顔を向ける。
む、無表情だけど、軽くイラっとしてるよね。
「マイルガイルには行かぬ。 だが、雌は貰い受ける」
そう宣言すると、視線をめぐらせ、太陽が沈む方向の先へ目を向け、そちらへ向けて一歩踏み出した。
慌てたのはマイルガイルの兵だ。
「火龍様っ!! どこへ行かれるのですか!? お、おいっ! や、ヤツを止め、お、お止めしろっ!」
敬語とかぐちゃぐちゃっぷりが、慌て具合を物語る。
他の兵士がその命令に従い火龍の行く手を塞ぎ、武器を構える。
う、うわうわうわっ!!
兵士達の殺気がっ! やる気満々なー!!
ど、ど、どうすんの火龍っ!!
『どうしてほしい、血祭りに上げることなど容易いぞ』
ち祭りー! なに、そんな出血大サービスみーたーいーなー!!
いやぁぁ!! 怖いぃぃー!!
『では、穏便に済ませるか』
火龍はそう言うと、片手であたしを抱えなおし、空いた手で空中に何か描いた。
描いた指先の軌跡が光の線になって美しい紋様となる。
ぽぅっとソレを見ていると、火龍はあたしを抱えたままその紋様をくぐった。
そして、紋様の先は石造りの立派な神殿の中でした。
「ここ、どこ?」
本日二度目の台詞だな。
「龍を尊重する国の、龍を祭る神殿だ」
ひんやりとした聖堂に人の気配は無い。
真ん中を通る赤い絨毯に直角に何本もの細長い黒い絨毯が等間隔で敷かれている。
「祭日には此処に大勢の民が集い神龍に祈りを捧げる」
あたしを横抱きにしたまま、火龍が説明をしながらその赤い絨毯を歩いてゆく。
突き当たり、少し高いところにある美しく飾られた祭壇には新鮮なフルーツ等が備えられ、揺らぐことのない蝋燭の火が灯っている。
その祭壇へ続く数段の階段を上り、祭壇の奥に垂らされている真紅の布を掻き分けてその奥へ続く回廊を進む。
明らかに、関係者以外立ち入り禁止な区域。
「ね、ねぇ、こんな所、勝手に入ってもいいの?」
石造りの廊下のひんやりした温度に、体が勝手に温度の高い火龍へくっついてゆく。
「我等の為に作られた神殿だ。 我等が使うのに何の問題も無い」
ま、まぁ、貴方は龍だし、そうなんだろうけど…やっぱり勝手には駄目だと思うんだけどなぁ。
…でも、誰とも会わない方が良いかな。
ちろっと視線を火龍に向ける。
赤銅色のなめし皮のような肌が目に入る。
ずっと気にはなっていたんだけど、やっぱり服着てないよねぇ。
今更過ぎて突っ込めないけど。
『すぐ脱ぐのだ、着る必要などあるまい』
……脱ぐんだ?
『服を着たまま行うこともできるが、ワシの趣味ではないのでな』
ええと、何を行うのかは、やっぱり先程のアレなのかな??
火龍の目が愉快気に細まり、心なしか歩調が早くなり、突き当たりの豪華な扉を開く。
「お待ちしておりました火龍様」
部屋の中に居た長衣を纏った青年が恭しく頭を垂れていた。
「ご指示のありましたよう取り計らっております。 此度のこと神殿一同寿ぎ申し上げまする」
そう言い、一度も頭を上げることなくそのままの格好で、後ろ歩きで扉から出て行ってしまった。
な、なんだったんだ? 今の。
「神殿長だろう。 先触れを出しておいたゆえな」
テレパシーかなんかかな? なんにしても、この部屋、暖かいし、良い匂いがするし、良い部屋だよね! スイートルームってこんな感じなのかな?
窓が無い上、電気も無いのになんでこんなに明るいんだろう?
それに暖炉もストーブも無いのにほんわり暖かいのは…床暖房?
この良いにおいは、生けてあるお花かな? きつすぎず良い匂い、なんだかほわーんとしてくる。
きょろきょろと部屋の中を見回していると、部屋の奥に鎮座していた大きなベッドの上に下ろされ、そのまま火龍がのしかかってきた。
「うわっ! ちょ! ちょっと待ってよ! こ、心の準備がまだよっ!!」
必死に腕を突っ張って、火龍の胸を押し上げようとするが、体格が違いすぎるっ!
「既に体の準備はできている、問題は無い」
情熱的な色合いのわりに理知的な容貌に微笑を浮かべるその顔を見てられなくて視線を下方にそむけ……。
「っ!!! 準備できてんのはアンタの方かっ!!」
大急ぎで顔を横に背け、一生懸命今目に入ってしまったモノを記憶から追い出す。
「顔が真っ赤だが、熱でも出たか?」
「うるさい! さ、さっさとソレをしまってよ!」
「そうか……。 急ぐのもどうかと思ったのだが、イサミがそういうのなら」
「は? え? ちょ! ちょっと!? 何してんの…やぁっ!!」
「しまえと言ったであろう? だから、本来収めるべき場所へとな」
ニヤリと笑ったその顔は確信犯だろうがぁぁぁ!!!!
気絶という名の休憩を挟みながら、丸三日ベッドに監禁された結果。
無事(?)火龍の子を身篭ったあたしは1年後男の子を出産した。
因みに火龍は、繁殖期が過ぎて龍の姿に戻ってしまっても、なぜかあたしの傍に居た。(本来は雌を置いて、自分のテリトリーなりに勝手に帰ってゆく)
妊娠中もずっと神殿の中庭で窮屈そうにしている火龍がかわいそうで、何度も山に帰って良いって言ったんだけど、のらりくらりとかわされて結局、出産の時も立ち会われてしまった……。
「……で、なんで又人間の姿になんの? 発情期で処女に触られたときだけじゃなかったの!?」
以前と変わらず赤銅色の髪と美しい肉体に伸し掛かられて顔が引きつる。
火龍は蕩けるような顔をして、腕の中に囲ったあたしを見つめる。
「ワシ以外のオスの臭いが付いていなければ問題無い。 イサミ、愛してる」
そうしてまた発情した火龍に三日三晩囲われて……。
そうしてあたしは、竜の子を10人も産んだ女として歴史に名を残すことになった。