8 懺悔
大きく響いたその銃声は、隣室から聞こえた。
最上階の客室を利用できるのはゼーベルク家の人間のみ。
銃声が聞こえたのはゼーベルク侯爵夫人の部屋だ。
カメリアは隣室へと走り出した。
「カメリア様!」
私も急いで彼女の後を追いかけた。
隣室に駆け込んだ私とカメリアの目に飛び込んできたのは、赤く濡れた絨毯だった。
その赤い線の先に倒れていたのは、息も絶え絶えの男。
フェリクスだ。
「お母様…!
いったい何があったの…!」
私たちに続いて部屋に来たリーゼロッテが震える声で尋ねる。
彼女の視線の先には。
「リーゼロッテ、慌ただしく走るのは淑女らしくないですよ。」
何一つ表情を変えないまま、銃を手にしたゼーベルク侯爵夫人がいた。
「わたくしは誇り高いゼーベルク家の船を穢した者を罰しただけです。」
ゼーベルク侯爵夫人は温度のない声で言った。
リーゼロッテ号での惨劇の犯人がフェリクスだと気づいたのか。
フェリクスと口論になり身を守るために彼を撃ったのだろうか。
「フェリクス、しっかりして!」
ごほ、と咳き込むフェリクスにリーゼロッテが駆け寄る。
フェリクスはひゅうひゅうと息をしながら、必死の形相で口を開く。
「私は…罪を犯しました…。
魔がさしたといいましょうか…。
怪我をした身でありながら、たった一人で海を渡ろうとするあの娘が哀れに思えて…、手を貸しました。
私はあの娘に、船員も許可なく立ち入れない特別貨物室なら、気づかれないと言ったのです…。
そのせいであの娘は…。」
フェリクスは激しく咳き込む。
その度に赤い血を吐く。
「フェリクス!
話さなくてもいいから、息をして!」
助け起こそうとする彼女の手を掴み、フェリクスは言葉を続ける。
「あの娘が死んだのは、私のせいだ…。
だけど私は、愚かで、弱かった。
誰にも言えなかった。
せめてもの復讐に…。
あの娘を石棺に…!」
リーゼロッテは繰り返し彼の名を呼ぶ。
けれども、フェリクスの瞳は色を失っていく。
彼は掠れる声で訴える。
「それでも、彼の方はまた…。
だから、私は、最も目立つところにあの青年を…。」
フェリクスは鈍く低い音とともに血を吐き出した。
見開かれた彼の目はもう閉じられることはなかった。
私は思わず、「そんな…まさか事件の結末がこんな形になるなんて。」と声に出した。
「いいえ、ヒルダ。
まだ終わっていませんわ。」
カメリアは硬い声で言った。
「どういうことですか、カメリア様。」
犯人であるフェリクスが命を落としたことで、惨劇は終わったのではないのか。
しかしカメリアは「アンバーとレイモンドを殺害したのはフェリクスではありませんよ。」と言う。
「じゃあレイモンドを殺した犯人は、まだ船の中にいるの?」
リーゼロッテは潤んだ瞳でカメリアに訴える。
カメリアはこくりと頷いた。
「このままでは、また人が殺されてしまいますわ。」
リーゼロッテは息を飲んだ。
そんな彼女にカメリアは「ご心配なさらないで。」と
確たる意思を持った声でいう。
「この死の船旅に幕をひかせていただきますわ。」




