5 二度目の殺人
発見されたのは、リーゼロッテ号の出航から二日目の早朝だった。
船内の清掃を行っていた船員は、次の清掃箇所であるデッキに出た。
そして乗客が海を眺められるよう設置されたベンチに、青年が座っていることに気がついた。
新鮮な朝日が、青年の太陽のような赤毛を輝かせていた。
船員は「おはようございます。」と彼に声をかけようとして、その場に凍りついた。
青年は海を見てはいなかった。
赤毛の青年、レイモンドは心臓を撃ち抜かれて死んでいた。
「カメリア様、どうかお力を貸してちょうだい。」
カメリアの客室を訪れたリーゼロッテは懇願した。
カメリアはリーゼロッテの目元に優しく触れた。
「目が赤くなっておりましてよ。
ずいぶんと泣かれたのですね。」
カメリアは「ヒルダ、リーゼロッテ様につめたいタオルをお持ちして。」と私に命じた。
リーゼロッテは私からタオルを受け取ると、「この船内で一度ならず二度も遺体が見つかるだなんて、恐ろしくて。」と涙を流したことを恥いた。
「それに、お母様はこんな事態になっても警察に知らせようとはなさらないの。
海の上では警察は来られないからと。
だけど、私はお母様はゼーベルク家の名に傷をつけたくないから事件を隠そうとしているのだと思うわ。」
リーゼロッテは震える両手でカメリアの手を握った。
「貴方だけが頼りなのよ、カメリア様。
どうか犯人を見つけてちょうだい。」
カメリアは「昨日も同じことを私にご依頼しましたわね。」と瞳を伏せた。
「ご依頼をお引き受けしたにも関わらず、犯人を見つけることができないまま二度目の殺人が起こってしまったのは、私の責任ですわ。
この責任はきちんと取らせていただきます。
私は必ずこの謎を解いてみせますわ。」
力強いカメリアの宣言に、リーゼロッテは「ありがとう。」と涙をこぼした。
「いま対応にあたっている船内の警備員にも、カメリア様に協力するよう伝えるわ。
何か手掛かりが見つかればすぐカメリア様に知らせるように私から頼むわ。」
「まさか、レイモンドが殺されるだなんて。
つい数時間前まで、おれは彼と踊ってたんですよ。」
項垂れるマイケルに私は「全く同じ気持ちです。」と同意した。
リーゼロッテ号のロビーにて、私とカメリア、マイケルは事件のことを話すために集まっていた。
私とマイケルが、生前のレイモンドの姿を見た最後の人間かもしれないからだ。
もちろん、彼を殺した犯人を除いて。
マイケルは「デッキ発見されたとき、レイモンドは海に向かって座っていたんですよね。」と確かめる。
「デッキから逃亡する犯人は目撃されてないと聞きましたよ。
早朝のデッキは静かだったはずなのに、銃声に気付いた者もいない。
まさか犯人は海からレイモンドを撃ったんでしょうか。」
マイケルの突飛な考えに、私は「そんなはずないでしょう。」と呆れてしまった。
「海上から撃ち殺すなんてできませんよ。
海面からデッキまで高さがありますから、たとえ犯人がボートから狙ったとしても撃つのは難しいでしょう。」
「ええ、そうですわね。」とカメリアも私の意見に頷く。
「レイモンドは別の場所で殺害され、遺体をデッキに移動させたのかもしれませんわね。
一人目の被害者の女性と同じように。」
カメリアは「昨夜のパーティーの時間まではレイモンドは生きていたのですわね。」と確認する。
「ええ、私とマイケルもレイモンドと一緒にいました。
でも、レイモンドはパーティーの途中で女性に呼ばれてその場を立ち去りました。
彼がどこに向かったのかはわかりません。」
マイケルは「こんなことならレイモンドを呼んだのが誰だったのか、見ておくんだった!」と頭を抱えた。
「だって、女性が呼んでるって言われた時レイモンドは心当たりがないようだったんですよ。
その人が一番怪しいじゃないですか。」
船内の警備員が調査を行ったが、パーティーの際にレイモンドを呼んでいた女性は、未だ名乗り出てはいない。
レイモンドがパーティーを抜け出してから早朝までの間に殺されたとすると、やはりその女性が犯人なのだろうか。
カメリアは両手を合わせて思考を巡らせていた。
彼女は何を考えているのだろうか。
そんなカメリアを見つめていると、「カメリア様、少々よろしいでしょうか。」と一人の船員が私たちの方へ近づいてきた。
「どうなさったの。」
「リーゼロッテ様に、事件について重要なことが見つかればカメリア様に知らせるよう言われましたので、お伝えに参りました。」
カメリアは「なにか見つかったのですね。」と身を乗り出した。
「一人目の被害者の女性の名前が判明しました。
彼女の名はアンバーです。」




