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4 本物のパーティー

挿絵(By みてみん)


遺体となった女性を目撃した者がいないか、二等客に聞き込みするというのは、マイケルの案だ。

マイケルは、遺体の女性は二等客なのではという。


「遺体は質素な服を着ていたんですよね。

それにリーゼロッテ号の処女航海ですから、一等客の貴族の方々の多くはゼーベルク侯爵家の招待客でしょう。」


カメリアもマイケルの意見に頷く。


「招待された方々はゼーベルク家と繋がりがありますから、お互いに顔見知りがほとんどですわね。」


貴族の世界は狭く、社交を重んじる故、面識がない方が不自然だ。

私たち従者でさえ、誰がどの家に仕える従者なのかお互いに把握している。


誰にも知られていない女性ならば、二等客室にいたと考えるのが自然だ。

あるいは、嘘をついている彼女の同行者も二等客室にいるかもしれない。

 

マイケルは「おれが聞き込みに行きますよ。」と申し出る。


「おれは正真正銘二等の客室をとってるんだから、警戒されないでしょう。」


彼のいうことは最もだ。

マイケルがカメリアに会おうとして怪しまれたように、貴族であるカメリアが二等客室に現れるのは奇異の目で見られることである。


「いま二等客室はパーティーの真っ最中ですから、余計に警戒心も下がっているに違いありません。」


にっと笑うマイケルに、私は「二等客室でもパーティーがあるのですか。」と訪ねた。


「あたりまえじゃないですか。

むしろ、二等客室のパーティーこそ本物のパーティーだと言う人もいますよ。」


マイケルは無邪気に、「ヒルダさんも行きましょうよ。」と誘った。

私が答えるより先に、カメリアが「行ってきたらいかが。」と言う。


「私は部屋にいますから心配ありません。

ふたりともお願いいたしますね。」





二等客のパーティーには、一等客用のレセプションルームにあったような豪華なシャンデリアも、大理石の柱もない。

けれども、そこに参加する乗客たちの顔は遥かに輝いている。

軽快な民謡音楽に合わせて誰もが手を取り合ってステップを踏んでる。


「ほらヒルダさん、おれたちも踊りましょう。」


マイケルに手を取られ、人々の輪の中へと近づく。


「待ってください、私は踊ったことなどないんですよ。」


体力に自信はあれど踊りは未経験なのだ。

しかしマイケルはにこにこと「へいきへいき。」と気にも留めない。


「上手じゃなくていいんですよ。

楽しむことが大事なんです。」


すぐ近くにいた赤毛の青年が、「いいこと言うじゃないか、少年。」とマイケルに賛同した。


「あんた、本物のパーティーに来るのは初めてかい?

なら楽しまなくちゃ。」


そういって笑いかける青年を、彼の連れが「おいレイモンド、口説くにしても相手を選べ。恋人の邪魔してやるなよ。」と茶化す。

レイモンドは赤毛を振るって「そうじゃねえよ。」と否定する。


「パーティーはみんなで楽しんでこそだ。」


「そうだろう。」というレイモンドにマイケルは頷き、「恋人じゃなくてお姉ちゃんです。」と勝手なことを言った。


「じゃあお姉ちゃん、弟の手を取って。

もう片方の手は俺の方に。」


レイモンドに促されるまま、マイケルとレイモンドの手を取る。

すると彼らは音楽に合わせてくるくるとまわりはじめる。

私も彼らに捕まるようにしてまわる。


「ね、楽しいでしょ。」


屈託ない明るいマイケルの笑顔につられて私も笑った。

微笑みの仮面の下に欲望を隠した社交界と違う、皆が心から楽しむパーティーがそこにあった。



数曲踊ったところで、若い男が「レイモンドはいるか?」と声をかけてきた。


「どうした?」


「可愛いお嬢さんがお前に会いにきてるぞ。」


レイモンドは「へぇ、だれだろう。」と首を傾げながらも「すぐ行くよ。」と答えた。


「悪いな、お二人。

俺は行ってくるよ。」



レイモンドは私たちに向けて「パーティー楽しんでくれ。」と手を振りながら去ってゆく。

私はその様子を見ながら、レイモンドに遺体の女性を目撃していないか聞きそびれたことを思い出した。

だれとでも打ち解ける彼なら、もしかしたら挨拶ぐらい交わしてたかもしれない。


「ね、ヒルダさん。

まだパーティーは始まったばかりですよ。」


マイケルがそう言って私の手をひくから、私はまた踊る楽しさに夢中になった。

それを後悔することになるとは、この時の私は知るよしもなかった。




パーティーが終わり、カメリアの待つ一等客室へ向かう頃にはすっかりへとへとになっていた。


二等客への聞き込みの成果はまるでなかった。

殺された黄金色の髪の彼女を目撃したというものはいなかったのだ。

カメリアの力になる情報をつかめず、パーティーで遊んできただけになってしまった。


これではカメリアに向ける顔がない、と考えながら歩いていると、前方から近づいてくる人物がいるのに気づいた。


「お疲れ様でございます、ヒルダ様。」


台車を押して大きな荷物を運んでいたのは、ゼーベルク侯爵家の従者フェリクスだった。


「お互い遅くまで仕事を言いつけられ大変ですね。」


まさかパーティーにいたとは言えず、私は言葉を濁した。

そんな私の様子をフェリクスは誤解したようで、「失礼、貴方の主人を悪く言ったつもりではないのですよ。」と弁解した。


「ヒルダ様は、カメリア嬢を慕っておられるのですね。」


「ええ、もちろん。

長年仕えておりますし、カメリア様はお優しい方ですから。」


迷いなく答えた私に、フェリクスは少し顔を曇らせた。


「差し出がましいようですが、同業者としてひとつ忠告をさせてください。」


「なんでしょう。」


「あまり貴族と親しくなさらない方がよろしい。

貴族は我々を同じ人間だとは思っていない。

わきまえておかなければ、命を落とすことになりますよ。」


私の返答を待たずに、フェリクスは立ち去ってしまった。



翌朝、リーゼロッテ号は再び混乱の渦に包まれる。

この海上の宮殿で、二つめの殺人が起こったのだ。

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