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3 不審

「貴方が公爵家のご令嬢カメリア様の従者のヒルダ様にございますね。」


慌てた様子で私を呼んだのは、リーゼロッテ号の客室乗務員だった。


「いかがなさいましたか。」


「実は、一等客室に侵入しようとする怪しい人物が現れたのです。

その人物はカメリア様に会いに来たと言うのです。」


殺人事件の可能性にリーゼロッテ号に緊張が広がるなか、現れた不審な人物。

その人物がカメリアに会いに来たとは、何事か。

もしやカメリアに危険が迫っているのだろうか。


「その人物はどこに。」


客室乗務員は「わたくしどもが今事情を聞いております。」と答え、私を案内した。


一等客室へと続く通路の一角に船の警備員たちが集まっていた。

その中央に、不審者とおぼしき青年が囲まれている。

顔を上げた不審者と目が合うと、彼は情けない声で私を呼んだ。


「ヒルダさん、たすけて。」


その顔を見て私は気が抜けてしまった。

何故なら、知った顔だったからだ。


「失礼、彼の対応は私が引き受けます。」


警備員は「しかし…。」と心配そうにしていたが、私は「彼はカメリア様の客人です。」と説明すると、安堵した表情で彼らは元の業務に戻った。


不審者と間違われた青年、マイケルは「いやぁ、危ないところでした。」と頭を掻く。


「おれは取材のためにリーゼロッテ号に乗ったんですよ。

カメリア様もこの船にいると聞いたので会いに行こうとしたら、不審者と間違われちゃいました。」


雑誌記者であるマイケルは、カメリアが解決した事件を記事にしており、共に事件を調査したこともある。

屋敷にも度々顔を出すカメリアの客人であるのだが、マイケルは貴族ではない。

上等な服を着た貴族ばかりの一等客室で、ネクタイもしていない彼は目立ってしまったのだろう。


「一等客室に勝手に近づこうとすれば、不審者と思われても仕方ありませんよ。」


私は注意するが、マイケルは「いやだなぁ、おれもそんなに礼儀知らずではありませんよ。」と否定する。


「乗務員さんに、カメリア様にお会いしたいのでお伝えくださいって声かけたんですよ。

そしたら捕まっちゃいました。」


「船内は警備を強化しているのでしょう。

あのような事件があったのですから。」


「石棺の中から遺体が見つかった事件ですよね。」とマイケルは身を乗り出す。


「おれはカメリア様にそのことをお伺いしようと思ってたんですよ。

乗客の誰もが、あの遺体の女性を知らないという話でしょう。」


「ヒルダさんはどう思いますか。」と問われ、私は頭を悩ませる。


「女性を殺害した犯人は乗客の中にいるはず。

だとしたら、彼女を知る人物が一人もいないのはおかしいですよね。

彼女を知らないのなら、殺す理由もないのですから。」


「猟奇的殺人鬼なら、怨恨のない初対面の人物でも殺しますよ。

でも犯人が殺人鬼だとしても、女性が一人で来たとは思えませんよ。

一人旅は危ないですから。」


豪華客船というもの自体が誕生したのがつい最近なのだから、船旅は気軽にできるものでないのだ。

数日かかる長期の船旅は、女性が一人で参加できるほど安全なものではない。


「彼女の同行者が嘘をついているというのですか。」と聞けば、「それしかないでしょう。」とマイケルは断言する。


「遺体が一人で泳いできて船に忍び込むはずはないですから。

彼女を知らないと嘘をついている同行者こそが犯人だとおれは思います。」


「彼女が同行者と乗船するのを見たものはいないのでしょうか。」


背後から高い声が「確かめる必要がありますわね。」と私に答えた。 

振り返ると、思考を巡らせるカメリアが立っていた。


「事件の考察でしたら、私も仲間に入れてくださらない?」


マイケルは「もちろんですよ、カメリア様の考えを聞きたいです。」と嬉しそうにする。


「女性の遺体について、ひとつ気になっていたことがございますの。」


「それはなんですか?」


「遺体は右腕にギプスをしていたのです。」


「さすがカメリア様、よく観察されていますね。」とマイケルは感心した。

彼の場合、大袈裟にしているのではなく素直なのだ。


カメリアは「船員にも彼女に見覚えがあるものがいないのが気になります。」という。


「豪華客船では質の高いサービスが求められ、リーゼロッテ号の船員たちはその期待に応えてくださっています。

ギプスをしている女性が一人で乗船したのなら、船員は手を貸すのではありませんか。」


「それなら、船員の誰も彼女を覚えていないのは不思議ですね。」


私が言うと、マイケルもこくこくと頷いた。

そしてマイケルは、「そうだ!」と何かを思いついたように手を叩いた。


「彼女の骨折は事故によるものじゃないってことはあり得ませんか。」


私が「どういうことですか。」と尋ねると、マイケルは「これはただのおれの想像で、証拠も何もないんですけど。」と前置きして言う。


「もし、ですよ。

もし、彼女の骨折は誰かによって負わされたものだったとしたら。

それって彼女が乗船する前から犯人に付け狙われていたってことになりませんか。」

 

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