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王太子殿下の神託は参考にならない! 恋愛初心者同士の不器用な恋  作者: 葵和心


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王太子殿下の神託




お母様の執務室で本棚の整理をしていると、古い文献が目に入る。

題は『ウェルズリーの神託』


この本はウェルズリー帝国民ならば一度は見聞きする本であり、内容は王家の繁栄はウェルズリー帝国の繁栄を意味するというような内容であった。


ウェルズリー帝国の神殿では王となる子が誕生し、その子が10歳頃になると神託が告げられる。

王家の繁栄、つまり結婚相手の神託である。


王家の祖先であるウェルズリーは不思議な力を持ち、特に男女の相性を見極めることに長けていたという。


ただの伝説であり、神殿のまやかしだと今では言われているが、ウェルズリー帝国に長きに渡り伝わってきた神託は、一度は聞いてみたい王家の催しとして今の帝国民は受け止めている。


そして過去の神託で一番有名であり、帝国民が小さい頃に必ず読み聞かせられる話がある。




【粛然たる月の令嬢 

強き力を手に王と並ぶその姿は女王の名に相応しい】



月の令嬢とは、そのまま月のように静かで美しい御令嬢

この部分を当時の人々は重要視せず、ただ美しい令嬢と捉えたようだ。

そして、この後の神託を最重要視していたという。


【強き力を手に王と並ぶその姿は女王の名に相応しい】


この文言に年頃の令嬢を持つ貴族たちは躍起になったという。

強き力とは即ち資金力のある貴族の令嬢だと。



その頃は天災が多く、農作物が大打撃を受けており、貴族が自分たちの保身のため秘密裏に税を上げたり食料がなく苦しむ領民たちを無視していたりしていた。


そういった帝国内の暗い状況に舞い込んだ神託

しかも妃ではなく女王という名声を手にできる令嬢


貴族たちが我先にと王へ謁見し、娘を売り込む。

そして裏では、貴族の悪質な金のやり取りが横行した。


帝国民のためにと日々公務をしている王は、見え透いた貴族の腹の内に呆れ、これを機に裏のとれた悪質な貴族たちの全てを没収していった。

没収した金でその領民たちに食料を与え、土地を整備する。


地位を失った貴族は10に上ったため、王族の忙しさは計り知れなかったが、当事者である12歳の王太子殿下も各地の領地再建に精力的に参加されていたという。


このような事態になった最終的な一端は神託の内容だと判断した王は王太子の婚約者探しを後回しにし、早急に彼を育てなければと自分の最側近を王太子の側に置き、善き王となるべくあらゆる経験を積ませた。



そうして王太子殿下が17になる頃には、各地の領地は前にも増して繁栄し、帝国の混乱は落ち着いた。


また王太子殿下はその5年の間に愛おしい存在を見つけていた。

共に各地を再建するために旅した仲間であり、心身ともに強い女性騎士

騎士服を身に纏い、鋭い視線を持つ彼女はまさに月の令嬢


忙しい日々によって、すっかり忘れていた神託を思い出すほどに、彼女は神託通りの人だと感じ、自分には彼女しかいないと思っていた。



そして王太子殿下が19になると、その隣には騎士服ではなくドレスを身に纏いながらも、時折鋭い視線を見せる彼女がいた。


『帝国民は勇ましく剣を手に軍を率いる王妃を尊敬の念を込めて女王様と呼んでいた。』


この一言で本は締め括られ、女の子たちは皆女王様に憧れるのだ。




「今の王太子殿下の神託は…、」


何だっただろうかと思いながら目の前に並ぶ本を眺める。

確か、月の令嬢ほどのインパクトはなかったはず。

それに社交界でも神託関連の話を聞くことがなかった。



「リリア?読書は終わったの?お茶でも飲まない?」


ハッとして思考を止める。だいぶ長い間手が止まっていたようだ。


「ごめんなさいお母様。仕事中に考え事など。」


「良いのよ。懐かしい本を読んでいたから邪魔しちゃ悪いと思ってね。」


くすっと笑ってお茶を口にするお母様

少し恥ずかしくなり、お菓子を口に入れて子どものように口を尖らせる。


「今の王太子殿下の神託は何だったかなと思っただけです。」


「あら、覚えていないの?私だー!って喜んでいたのに。」


「え?」


私だー!って喜んでいた?




【金色に輝く麗しい令嬢は民を愛し、

王家を愛する天女となり得よう。】



「これが殿下の神託よ。リリアも金色でしょう?」


くすりと笑うお母様に対し、私は眉を寄せてお茶を口にする。

確かに私は金色と言われれば金色の髪だけど…。


「私ではありませんね。私の金色は薄いですから。」


「あら、もう喜ばないのね。私も女王様になれるー?ってみんなに聞いて回って大騒ぎだったのに。」


そんな喜んでいたのかと恥ずかしくなり、子どものようにお菓子を口に頬張る。


「考えてみてくださいお母様。貴族の令嬢の半数は金色です。それに今の帝国は安定して平和な帝国ですので女王様ではなく、それこそ殿下の神託のようなお優しい天女様が相応しいです。」


冷静に現状を踏まえてみると、王太子殿下の神託は今の帝国に合っているものだと感じた。


「リリア、私はあなたが優しい子だと知っています。本当は怖がりなのにトーキンの名に恥じぬようにと自身を律している。そんなあなたが誇らしいと同時に寂しくもあるのよ。この領地内では肩肘張らず、そのままのあなたで良いからね。」


優しいお母様の表情を見て小さく頷く。

やっぱり、お母様にはバレバレだったか。

社交界では決して見せない弱い笑みを浮かべる。


お母様だけじゃない、たぶんお父様やお兄様。

それに使用人たちにもバレているのかも。

屋敷では装飾のないシンプルで動きやすいドレスを好む私が社交界ではトーキンの名に相応しいドレスやアクセサリー、高いヒールを身に纏う。


これらは全て社交界に向かうための鎧だと思っている。



社交界は貴族の戦場

腹の探り合いで負けないためにも弱腰になってはいけないのだ。

だからこそ、私は素になれるこのトーキン領が一番の癒しであり、大切な場所である。



「ありがとうございます。お母様」





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