トーキン公爵領
広いトーキン公爵領は穏やかな毎日が流れていく。
王宮に勤めるお父様に変わり、この領地の大部分を管理しているのはお母様
そのお手伝いを昔からさせてもらっていた。
小さい頃は領地を見て回るお母様について回るだけだったが、今は書類整理やお金の管理なども教えてもらっている。
ウェルズリー帝国の中心街から少し外れているのもあり、そこまでの賑やかさはないけど、小さなお店がたくさんあり、子どもの声も響き渡る。
家庭を持つ人々からは好意的な領地だ。
私は今日も身軽で落ち着いた色のワンピースを見に纏い、お母様の執務室にて忙しなく動いていた。
「リリア、そこ危ないから気をつけてね。」
「はい。お母様」
両手に本を持って、本棚へ戻していく。
領地の管理に公爵家夫人としての社交も仕事のお母様
机の上にはたくさんの書類や本が乗っている。
今日はお昼から仲良くしている伯爵夫人とのお茶会らしく、朝から楽しそうだ。
予定より1時間早く仕事を終えたお母様は、『リリアもお昼からはお休みで良いからね!ゆっくりしてなさい!』と言い残してドレスの裾を翻しながら嬉しそうに出て行った。
2つの仕事を両立するお母様は尊敬してもし足りないぐらいで。そんなお母様に差し入れを買いに行こうと、お昼からは領地を見て回ることにする。
「あら!リリア様久しぶり!相変わらずお綺麗ね!」
「ありがとうございます。お母様にお茶を買いたいのだけど今日のおすすめは何ですか?」
「お、それなら良いのがあるよ!」
良い香りの珍しいという茶葉を買い、生活に変わりないか世間話もする。
また違う場所にあるお店でお菓子を買い、話をする。
それを何度か繰り返しているうちに私の両手はいっぱいになった。
私が領主の娘だからといって、媚びへつらう人はおらず、1人の領民としてここの人たちは接してくれる。
そんな温かさがありがたく感じつつ、この人たちの生活を守っているのはトーキン公爵家なのだ。
領主の娘として領地と領民を守る責務を果たしていくことが大事なことなのだと改めて身に染みる。
両手いっぱいに抱えながらも、今日はこのあたりをじっくり見て回ろうと決めていたので時間をかけてゆっくり回って行く。
お母様が主に領地を管理しているからなのか、ここの人たちと話していて結構話題になるのは子どもたちのことだった。
思い切り遊べる広場や子どもへの教育にお母様は最も力を注いでいる。
『子どもは何よりも1番の宝物なのよ。』
お母様が何度も言っている言葉だ。
私にはまだそこまでの気持ちは理解できていないけど、子どもたちの声が響くこの領地は楽しいなと感じている。
「えいっ!」
「おりゃっ!」
のんびり歩いていると、子どもが2人木の枝を持って遊んでいた。
「こんにちは。」
「お姉ちゃん誰?」
「おりゃっ!」
「こら、人に向けたら危ないよ。お友達が怪我しちゃうよ。」
「違うよ!俺たち悪いやつ倒すんだよな!」
「うん!こうやって!おりゃっ!!」
空中に枝を振り下ろす様子が可愛く見えつつ、危ないからとやんわり注意する。
「俺、妹いるから守らなくちゃ!」
「俺は母ちゃん!」
「何かあったの?」
あまりに一生懸命に枝を振り回す様子に、2人の前に膝をつく。
「うん!昨日、変な人いた!」
「俺が、わ!って言ったら逃げたんだ!」
「ここにいたの?」
「あっちだよ!」
「違うよ、あっち!」
左右それぞれに指差す彼らに相槌しつつ、辺りを見渡す。
ここは領地の割と端っこの方
隣の領民から誰か入って来たのか?
それからしばらく木の枝を剣に見立てて元気に振り回す彼らを怪我しないように見守りつつ、不審な人がいないか見張っていたが何もなかった。
夜、帰って来たお母様にもそのことは報告して、毎日あの辺りを見回ることになった。
後日、王宮から戻ったお父様とお兄様は私たちが見て回ることに難色を示していたけど、領民の安全のためだと納得して、私たちだけで行動しないようきつく言っていた。
それから2週間が経ち、何も変わらない日々を送れている。
お母様と相談してこれからは私と領地の警備隊員で見回りをすることにした。
お母様は忙しいから何かあったらすぐに報告すると約束して私にこの件は任せてもらった。
領地にいる警備隊は王宮に勤めている騎士のようなものではなく、日々領地の見回りをしてくれる人たちをお父様が募集してできたもの。
勤務時間は1日数時間程度で、お給金も出る。
今では割と条件の良いお手伝いだと領地内で噂が広まり、領地の若い男性はほとんど警備隊に入ってくれている。
人数も多いため、勤務は週に2回ほどなので、本業との都合がつきやすいのも良いみたい。
今日も警備隊員2人と私で見回りながら、何も変わらない穏やかな領地を見て回っていた。




