スイッチ
「まあ、リュカ様の神託通りの令嬢は私しかいないですもの。民を愛する未来の王妃からの御忠告ですわ。今は見逃してあげますが今後リュカ様、及び王族への忠誠を裏切るようなら容赦なく罰しますわ。」
まるでもう王族のような言動に私含め他の令嬢たちも呆気に取られる。
黙ったままの私を見て満足したのか、ドレスを翻して席を立った。
そのままなんと王妃様のいるテーブルへ向かう姿を見て、あの人が王族になるなど帝国の未来が不安になるだけだ。
ラージ家の令嬢の姿をじっと見ている私を他の令嬢たちは恐る恐るといった様子で見ていて、雰囲気が殺伐としてしまった。
「楽しい雰囲気を壊してしまいましたね。皆さんどうぞご自由にお話しください。皆さんのお話しはとても楽しくて可愛らしいので和みます。ドレスも可愛らしいですね。私そういうものに疎くて、今の流行りは何なのでしょう。」
なるべく雰囲気が明るくなりやすい話題を選んだつもりだが、さっき私が令嬢に地味だと言われたために、ドレスの話題は話しづらいかもしれない。
失敗した。と思っていると、令嬢たちは互いに顔を見合わせて表情が笑顔になった。
「今はチュールを何重にも重ねたドレスが流行っています。」
「ふわふわで可愛いんです。」
「何よりドレスが軽いのが良いんです。」
一気に雰囲気が変わったのを肌で実感して、内心ほっとする。
女の子らしい会話を聞きながらお茶を口にする。
お互いのドレスを可愛いと褒め合う令嬢たちを見て、気持ちが緩むのが分かる。
初めて男性の気持ちが分かったかも知れない。
彼女たちのように、心が穏やかになれる存在が長い人生のパートナーとしては最適なのだろう。
私のように気を張り詰めたお堅い令嬢では気も休まらないだろうし。
「可愛らしいわぁ。私も軽いドレスを着てみたいものね。」
柔らかな笑みを携えてこの茶会の主催者である王妃様がやって来て、慌てて立ちあがろうとする私たちを手で制した。
「私の茶会は気軽に女同士で楽しんで欲しいだけだから。そりゃあ、私の息子を好んでくれているのなら嬉しい限りだけど、息子より優秀な子はたくさんいるから。あなたたちが良縁を結べるよう、情報交換も兼ねているのよ。」
「それに、殿方がいない方が色々見えて楽しいもの。」
うふふと笑う王妃様
その笑みはまるで傲慢な令嬢を目撃できて嬉しい。
といった感じだ。
王妃様の後ろに控えた侍女が、小さく僅かに頷いた。
「ぜひあなたたちとお話ししたいわ。面倒だと思うのだけれど御令嬢から1人ずつこちらへいらしてくださる?」
「っはい!」
突然指名された令嬢は動揺を見せながらも、隣の令嬢に励まされて王妃様の後ろに着いて行った。
王妃様と2人で話す機会など私たち令嬢にあるはずもなく、親に連れられて挨拶に伺い、私たち令嬢は挨拶を失敗することなくやり遂げることが王族と対する際の最大の仕事だ。
どうすれば良いのか不安で落ち着かない令嬢たちの声を聞きながら、私はこのパーティーで緩めていたスイッチを一気に入れ直した。
なぜなら、私はたとえ捏造された噂話でも、王妃様に話さなければならないことがあるからだ。




