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初恋の話。

初恋は隣の男の子でした。

高台の境内から見る棚田の稲穂が、月明かりに照らされて神々しく見えていたのをよく覚えています。


当時僕は朝日が、というか昼間が嫌いでした。

僕は正しくない人間です。

なにをやっても平均以下でした。

なにをやっても人に迷惑をかけてしまいます。

それはつまり普通では無いということで、大多数の仲間になれる人間にはなれないらしかったのです。

昼に生きる普通の人間を見たら羨ましくて堪りませんでした。

憧れと妬みで狂いそうになるから、

日が出ているうちはカーテンを閉じて、

月明かりが差してきてからようやくカーテンを開けて、窓を開けて金木犀の匂いを吸い込んでいました。

四季の巡りを感じて、自然は一人一人が独立して共存して生きているのだから、

僕は1人じゃないのだと思い込もうとしていました。

僕みたいな甘い人間が自然になんて戻れば

食い扶持なんて存在しないでしょうに。

救いようのない僕を助けて欲しくて

時折神社に通って祈っていました。

神なんかいないなんて普段は嘯く僕でも、

こういう風に困ったら縋りついて頼られる

なんて神様は可哀想だなと思いました。


「こんな時間に未成年がうろついたらだめなんですよ〜?」

温かいが故に治安の悪いこの地域では珍しい白いワンピースを着た切れ長の目の

華やかな女性に声を掛けられました。

それからというもの、僕は彼女と会いに通いました。

玉藻さんと名乗っていたので、

僕もそう呼びました。

玉藻さんは決まって朝日と夜月が一緒に登っているくらいの時間に顔を出しました。

もう朝なのに「こんばんは。」と挨拶をして

僕の知らない話を楽しそうに話しました。

神社なのに何故か遊具があって、僕の隣で

こんなに楽しいものはないって顔をして

時折ブランコを漕いでいました。

長くて綺麗な黒髪なのに勢いよく漕いでいたので、よくしっちゃかめっちゃかになっては僕に髪を結んでもらいたがりました。

甘い香りがするな。と思いつつ、

彼女に気に入られたくて髪のアレンジを調べては結ばせて貰っていました。

玉藻さんは自分の話をしませんでした。

玉藻さんにとっての友人との関わりを通してしか、彼女の事を知り得ませんでした。

彼女の好きなことはお茶会を開いて、甘いものを食べるのが好きなこと。お酒が好きで、甘いお酒やシャンパンを好むこと。

煙草が好きで、時折僕に煙草を吹き掛けてはくすくす笑って

「まだ早かったわね。」と言って嫌がらせをすること。

僕は時々彼女に教えを乞いました。

きっと助けてほしかったのだと思います。年齢相応に、駄々を捏ねていました。

「どうして生きてるんですか?」

「どうしてって?」

「生きてる理由が欲しいんです。」

「じゃあなんで生きてるの?それなら

ご飯食べなくったっていいじゃない。」

「嫌ですよ。苦しいじゃないですか。」

「あるじゃない。生きてる理由。」

「苦しいのは嫌なんです。」

少し考えて、煙草を吸って吐いて人差し指を立てて言われました。

「じゃあ楽しい事をするといいと思うの。」

「楽しいことですか?」

「そう。少し、遊びなさい。

ほら、これあげる。」

「遊ぶって……。煙草を投げないでください。

僕は吸いませんからね。」

「そういうとこだぞ〜。みんな隠れて吸ってんの。ちょっと背伸びしてみなよ。

ご褒美にちゅーしてあげる。」

初キスはシガーキスでした。


キスをする相手は居ませんでしたし、

欲しくもなかったので、今も代わりに

セブンスターとキスをしています。



もういない。

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