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実験日誌:霊聴


 前頁でL理論システムについて話した時に、活用していた式神と霊聴についての実験記録。


 式神とは要するに道具化したタルパである。

 アストラル体のつながりと霊感を以て、式神と術者の感覚をリンクさせることで、遠い場所の情報を取得する超感覚的知覚(ESP)を開花させることを目的とする。


 当時は霊視の具体的イメージがわかなかったので、なんとなく読んでいた仙術についての実験記事から、仙人の修行法の一つであるらしい「霊聴」の実践を試みる。


 霊聴の修行法:

 人は脳みそにある感覚フィルターを使って、意識に入り込んでくる情報量を調節している。

 身近な現象で言うとカクテルパーティ効果が有名。

 どんなにざわついていても、自分の名前を呼ばれると反応したり、どんなに電車の中で眠りこけていても、目的地の駅名が聞こえればパッと起きて反応できるというものだ。

 つまり人間は無数の情報の海の中で常に情報を自分にとって重要かどうかを無意識のうちに取捨選択しているといえる。

 ちなみにこれは脳科学でも立証されているということについては後年になって知った。


 さて、霊聴とは要するにこのフィルターを取り外す修行の第一段階である。

 方法は単純。

 耳から入ってくるいかなる情報に対しても、意識的に集中して聞き逃さないようにするだけ。


 実験記録:

 最初は音が少ない真夜中に実践した。

 意外と夜は静かではなく、集中すれば車の音や話し声が結構はっきり聞こえてくることに気づく。

 実は自分の耳はよかったのだなと感心した。

 続けているうちに、1キロほど離れたところの電車の音が聞こえるようになった。

 家からでも結構大きめに聞こえることに気が付いてびっくりした。

 昔は気にしていなかったから聞こえなかっただけで、実は意識すれば聞こえることに驚いた。


 数日試していると、普段から聞こえている耳鳴りの奥に、人間の話し声が聞こえるのがわかった。

 もしかしてこれが例の記事に書いてあった「幽霊の声が聞こえてくるようになる」というものだろうか。

 耳元でぼそぼそ喋られている感じがこそばゆいのと同時に怖くなって実験を中断した。


 続けているうちに例の幽霊の声について仮説が浮かんだ。

 これはいわゆる自分の無意識の中で起こっている内言ではないか?

 検証のために制御を試みたが、一部は制御できたが重なって聞こえる声がまだあった。

 よく聞いてみると、頭の中から直接聞こえている感覚と同時に、外部から聞こえてくる声があった。

 音の距離的に隣の部屋の住人のものではないことは明らかだったので、やはり幽霊の声ではないかと怖くなって中断した。


 意を決して幽霊の声を観察してみることにした。

 何を言っているかは基本的にわからなかったので聞き取ろうとしたら、だんだんはっきり聞こえてくるようになった。

 数日が経って何とか聞こえるようになったと思ったら、「お前本当は聞こえてるんだろ?返事しろよ」と言われていることに気づいて怖くなって寝れなくなった。


 トラウマすぎて以降しばらく中断していたら、やはりこういうのは忘れていたころに戻ってくるというもののようで、授業中に居眠りしていたら幽霊に耳元で騒がれた。

 びっくりして跳ね起きたらクラスメイトに「寝そうになったらびくってする奴あるよな!」と言われた。


 以降、眠りに就こうとしたら幽霊に話しかけられる霊障に悩まされた。

 不眠症気味になったのでどうにか解決しなければと考え、どうせなら魔術研究の糧にしてやろうということで幽霊との対話を始めることにした。


 幽霊と対話してわかったこと。

 毎回話しかけていた幽霊は全部別の人。

 幽霊は知っての通りもともとは生きた人間だったが、そうでないものもたまにいるらしいということ。

 幽霊同士でも互いを認識できないことが多いようで、生前に霊感がなかった大半の幽霊は死後はずっと孤独でしんどかったらしいこと。

 一緒に死んだ人がいる場合は、互いのことを認識できることがあるらしいこと。

 この場合はかなりレアケースで、幽霊の中ではかなり運がいい方だと思う。

 また、幽霊は空を飛べるのかと聞いたがそんなことはなかった。

 生前に行ったことがあるところにしか行けないし、生前にできたことしかできないらしい。

 話をした幽霊の中に、男性で、せっかく幽霊になったなら女湯を覗きに行こうとした人がいたが、なぜか入れなかったといわれた。

 ただし、人や物に取り憑けばその範囲ではないようだ。


 以上のことから、幽霊とは生前の記憶の残りかすのようなものらしいことが観察と聞き込みの結果知れてとても面白かった。

 また、幽霊の見えるものについても興味深いものがあった。


 雨の日に死んだというらしい女性の幽霊によれば、彼女の世界の中ではずっと雨が降っているらしい。

 死んだときの情景や念の強さが、死後に幽霊として体験する世界の情景に影響を与えることがあるのかもしれない。


 実験結果:

 幽霊は記憶の残りかすと念の集合体で、そこに魂は入っていないらしい。

 魂の定義にもよるが、記憶に束縛されるという点が非常に面白かった。


 千里眼のようなESPは手に入らなかったが、式神に死霊を取り憑かせて活用すれば、似たようなことが可能になるのではないか? と思って試したができなかった。

 幽霊には「新しい記憶を定着させる」という機能が付いていないことが原因で、幽霊に偵察を任せることは不可能だった。


 生霊なら可能かと思ったが、そもそも生霊は死霊と違って怨念の塊なだけで記憶を持っていないし、記憶を保存する機構がそもそも備わっていないため不可能だった。


 とはいえ、霊聴というスキルを獲得できたのは非常に有意義だったように思う。


 式神に関しては霊聴の届く範囲で音を拾うことはできるようになったが、やはり情景までは見えてこないので霊聴単体では使いづらさが残った。

 やはり霊視を覚える必要があるみたいだ。


 以上。


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