実験日誌:タルパ
初めての魔術実験の記録はタルパからだった(当時中学一年生)。
タルパとは別名をトゥルパ、あるいは人工智霊といい、本来はチベットの密教で脳に対して外科的な手術が必要だったが、外部の記録より強い妄想を利用することにより手術を介することなく製作可能であることがわかっている。
タルパ概要:
魔術において作業の手助けとなる助手の精霊を人工的に生み出す魔術、及び生み出された存在。
立体交差並行世界論において幻想生物はあまねく、人間の想像イメージの産物によって具象化したものであるため、その構造的由来という証拠により、タルパは幻想生物として正しく機能しうるアストラル体の助手である。
タルパに手術が不要とされる外部記録:
サードマン現象に由来。
登山や探検中の事故などで生死の境をさまよう極限状態で、そこにいるはずのない「第三者」(the third man)が現れ、冷静さや正しい方向性をもたらして生還へと導くという現象、あるいはその体験報告がある。
これは魔術における視覚化とアストラル投射を本能的に発動させた結果起きた事象と考えられ、理論的にも実際に起きえた現象としても符合するため、脳に対する手術は実際には不要ではないかと思われる。
実験目的:
以降の魔術的作業における助手として、自身の魔術師としての疑似人格の作成、及び助手の運用の二目的のために作成する。
実験手法:
疑似人格は装身具に宿すことにより、そのアイテムを装着した状態をアンカーとして機能させることで活用するだけではなく、自身の一人称を変更することでより定着度を増させる仕組みを作りたい(アンカーリング効果)。
助手としてのタルパは常に意識して行動を共にする。
疑似人格の作り方:
魔術的作業に用いるローブの代用品としてパーカーを選択。
パーカーを聖別し、着用中の一人称を「私→俺」に変え、パーカーを依り代(アンカー) とする。
また、疑似人格に対して名前を付けることで、本来の主人格としての自分と分離して扱う。
疑似人格の名前は「レレム」にした。
※当時『ぷよぷよ』のレムレスが好きすぎて、彼の名前をもじった。
疑似人格の性格設定は、より魔術に集中できるようにするために「冷静沈着、メタ的な思考回路」を要求する。
タルパの作り方:
助手のイメージを紙に書き出して覚えては忘れるを繰り返して徹底的に無意識に刻み込む(忘却刻印法)。
また、何もないところ向かって呼びかけたりするのが精神的な壁(羞恥心など)を発生させたので、回避手段としてタルパの人形を自作して話しかけることにした(当時の趣味が裁縫だったことにも起因する)。
タルパを作成するときは、魔術師としていくつかの規制を設けた。
1.必ず「レレム」として作業を行わなければならない。
2.生理中などホルモンの影響で体調が整わない場合は作業しない。
3.作業は必ずだれにも見られない場所(魔術を行うための聖域(神殿))を設けて一人で行う。
魔術的作業においては、術者の精神状態が大きく影響するため、精神状態に波風が立たない場所、及び時間を聖域と指定して行うことが合理的だったため、以上の規制を設けた。
タルパの名前は「ナスカ」にした。
※当時ナスカの地上絵が好きすぎて、その神秘性からも申し分ないと判断した。
ナスカの設定:
見た目は茶髪の少年(同年代)。
性格は活発的で、いろいろ疑問を投げかけたりしてきて思考をまとめたり、メタ的な思考のためのアシスタントとして活用させた。
主なタルパの作成手法の記録:
ナスカの設定や人形(依り代)を作った後、依り代を鏡にして視覚化やアストラル投射を活用しながら、現実に彼が存在しているかのように扱う。
ちゃんと自分で口に出しておしゃべりをして、相手の性格設定に従った受け答えを考えながら対話を繰り返し、イメージを固めていく。
すると次第にナスカは自分で想像を補完しなくてもひとりでにしゃべりだすようになり、動いたり笑ったりするようになる。
タルパの実験記録(抜粋):
初日
何を話していいかわからなかったので、とりあえず学校でのことを話したりした。
実際に口に出して会話するのは非常に恥ずかしかったが、しばらくすると慣れてきて、レレムとしてならまるで男の子同士の友達のように話せるようになった。
実験開始から約一年後
ずいぶんと視覚化の技量も上がり、今では本当に実在しているように見える。
手にも触れられるし体温も感じた。
実験開始から約一年半後
初めて自動で受け答えしてくれるようになった。
学校でいじめられていることについての相談をしたら喧嘩になった(喧嘩の内容は記載なし)。
実験開始から約二年後
ナスカのことがクラスメイトにばれた。
学校で居眠りしていたら突然ナスカに話しかけられておしゃべりしていたことが原因だった。
最近、睡眠中と覚醒の瞬間のはざまは不安定になりやすいのかもしれない。
実験開始から三年後
ナスカに告白した。
ナスカは「もう自分がいなくても大丈夫そうだ」と言って消えた。
人工智霊が自殺することがあることをこの時初めて知り、とても泣いた。
以降、ナスカがいなくてもメタ的な思考ができるようになった。
メタ認知を手に入れた。
以上。
実験記録まとめ:
人工智霊は魔術的スキルを手に入れるための練習台として最良。
三年という短期間で高度な視覚化とアストラル投射の技術を手に入れられたのは僥倖だった。
また、人工智霊は場合によっては自殺し、術者と統合される場合があることが分かった。
また、この実験を通してタルパの応用も思いついた。
タルパは人格が存在するが、人格がなければもっと幅の広い活用ができることに気づいた。
例えば精神的な守護を得るための一時的な魔術として働かせることが可能となるし、性格設定だけで喋らないようにすれば、石を以て自動的に動く仮想の実験施設も作り出せる。
また、さらにこの仮想実験施設を応用すれば、これまで魔術実験を実際に存在する外的環境で一人になって行わなければならなかったものを、内的に生成した疑似空間(アストラル空間)で完結させることも可能になる。
人工的に異世界を内包できることに気づいたのはとても大きかった。
この内包した疑似的な異世界を利用した魔術起動を「L理論システム」と命名した。
※L理論システムのLはlooks like のことで、仮想とはすなわち「擬態(何かのように見える状態)」であることから命名した。
展望:
L理論システムの活用により、自宅周辺に霊的なバリアを張って、「自宅=安心できる場所」という魔術的結界を構築したり、適当な式神を作って、霊視を組み合わせることで千里眼を疑似的に稼働させられないかの実験もしてみたい←タルパ作成中の息抜きにやってみたことがあるが、当時は霊視の仕方がわからなかったので霊聴で活用した。結果、聴覚がすごく向上したし幽霊と思しきものの声が聞こえるようになった。